第18話
道を進みながらアラトーンは虚空に向けてつぶやく。
「魔物の勇者よ、なぜ女奴隷を助けたんだ。リッチになっても、仲間にする必要などないだろう。それとも、女奴隷が屍解者と化したこと自体が、哀れみで術をかけた結果かな……」
アラートンは焚き火の跡までたどりついた。
火は完全に消えており、残されているのは荷物と、黒く固まった血溜まりだけ。
道なりに梢のとぎれた頭上から、朝の光がふりそそいでいた。
「しかし、動けるとは思わなかったな」
とはいえ、魔物としての力は血を抜いて弱まっているはずだ。
それよりも恐るべきはシュナイを連れ去った黒い川だが、しかし痕跡らしい痕跡は残っていなかった。
よく目をこらして、シュナイの倒れた場所から森の中まで、両手を広げたほぼの幅で、地面が浅く削られていることだけがわかった。
赤みが残っている炭をアラートンが竜の血溜まりへ放ると、じゅっと音をたてて黒い煙が小さく生じた。
焦げ臭さに混じって、硫黄に似た臭気がただよう。
「……まあいい、短い間だったが、真面目な性格も嫌いではなかったよ」
「あなたとは正反対でしたね」
アラートンの背後でエイダがいった。
ふりかえったアラートンの横をジャニスがとおりすぎ、焚き火の近くまで走っていった。
「ここです。大切なことが、大切なひとが、きっとここで……」
その丸まった背にエイダが言葉をかける。
「……しかし、ジャニスさんの記憶では、この森どころか、あの村にも来たことがないのでしょう。きっと魔物に悪夢を見せられたのでしょうね。忘れ去るべきです」
女僧侶の言葉に、血溜まりへ膝をついていたジャニスがふりかえった。
女奴隷は声も出さず、涙を流していた。
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