痩せたい系ドラゴンの毎日ダイエット

ちびまるフォイ

理想のボディと、最適のボディ

「やせた~~い!!」


「あんたそれ毎日言ってるね」


「ヨルムンガルドはいいよね、食べても太らないから」


「こないだやっていた炎ブレスを吐くだけダイエットやったんじゃないの?」


「あれノド痛めたからやめた」


「意思よわっ」


「とにかくさーー痩せたいんだよぉ。

 男ドラゴンにどう見られたいとかそういうのじゃなくって、

 なんかこう、スラッとした自分でいたいっていうの?」


「わかったわかった、転生ダイエットでもやってみれば?」


「転生ダイエット? なにそれ」


「あたしたちドラゴンって基本不死身じゃん。

 死んでも卵から再生するでしょ?」


「うん。死んだことないけどね」


「死んで復活するとカロリー消費するから痩せられるのよ。

 つまり、転生して蘇ったときの体は理想のボディってわけ」


「すごい! 楽して痩せれそう!!」


ドラゴンは予約していたホットヨガを切り上げて転生ダイエットを始めることに。

よく考えずに感情で突っ走るのは思春期ドラゴンにはよくある傾向で、

いざダイエットを始める寸前で問題に気付いてしまった。


「あれ……? どうやって死ねばいいんだろう?」


ドラゴンの体は固いウロコで覆われている。

洞窟の鍾乳洞でぶつかろうが、落ちてきた岩石が直撃しようが傷つかない。


さらに無駄に再生能力(脱皮)もあるので、自動回復のおまけつき。


「うーーん。頭を打ち付けて死ぬってのも痛そうだし、

 服毒して死ぬと、なんか卵によくない後遺症残りそうだしなぁ……。

 痛くなくて、安全で、素早く死ぬ方法ってないかなぁ……」


などと考えているうちに、頭を使うために甘いものが必要という

亜空間の言い訳が生まれて気が付けば、おやつタイムへと移行していた。


「あ! しまった! またつい食べてしまった!!

 もう! これじゃいつまでたっても痩せないよ~~!!」


ドラゴンは本気を出し、深い滝つぼめがけて飛び込んだ。

いかに頑丈なドラゴンといえど酸素のない水では等しく死ねるはず。


「ぶはっ!! ぶはっは!! なにこれ!?

 おぼれっ……ごぼっ! おぼれ死ぬって……こんなにきついの!?」


慌てて羽ばたいて滝つぼから脱出した。

陸に上がってもなお、ぜえぜえと息が止まらない。


「予想外だった……唯一死ねる方法だと思った溺死が

 こんなにつらいものだなんて思いもしなかった……」


おぼれ死ぬだけは避けようと心に誓ったドラゴンは、

長老ドラゴンのもとへと相談しに行った。


「というわけで、ドラゴンが死ぬ方法を探してるんです」


「そうかいそうかい。あたしの若いころはそりゃあもう一杯ドラゴンがいてねぇ」


「あのーー、長老? 今、私の話なんですけど」


「空がもうドラゴンびゅんびゅん飛んでおったのじゃ。

 今じゃ全然飛んでないからのぅ」


「もしもーーし!! 私の声届いてますかーー!?」


「あんなにいたドラゴンも勇者に狩られてから見なくなってのぅ」


「勇者……! それだ!!」


長老は相変わらず延々と続く昔話のループを続けていた。

なんの関係もなかった話だが、インスピレーションをわかせるには十分すぎた。


「がぉーー!! おろかな人間めーー!! 焼き殺してやるーー!!」


ドラゴンは町に飛んでいくと、うまいこと人間を殺さないように脅威を見せつけた。

殺してしまうと勇者に話を伝える人がいなくなるし、

死んじゃった人の中に勇者が混じっていたら元も子もない。


「ふふふ、これで勇者を焚き付けておけば

 やがて私の下に勇者がやってくるはず……!」


ドラゴンは人里近い洞窟の最深部に寝泊まりすると、

勇者がわかりやすいように看板も立てて待つこと数年。


ついに待望の勇者が現れた。


「見つけたぞ! 悪いドラゴンめ!!

 よくもうちのトウモロコシ畑を焼いてくれたな!」


「ああ! 待ってたぞ勇者……じゃなくて、

 よく来たな勇者よ、汝の力みせてみよ!」


「ドラゴン、かくごーー!!」


勇者は決死の覚悟でドラゴンに向かってきた。

やっと転生ダイエットができるとドラゴンはノーガードで、

実家の母のような包容力で勇者を招き入れた。


「えい! えい!! えいぃ!!」


勇者は必死にドラゴンに剣をたたいている。


ドラゴン側から見てもわかるくらい剣の振り方に腰が入っていない。

まるで棒きれを振り回してはしゃぐ子供のようだ。


「おのれドラゴンーー!! やっつけてやる!!」


「あ、あのーー……」


ダメージこそ入ってはいるが、致命傷にはならない。

勇者ならサクッと殺してくれるかと思っていたが、これだとますます時間がかかる。


勇者がドラゴンを殺すのにかかる時間の間、ご飯食べて太ってしまう。


「勇者さん、よろしければ、もうちょっとレベルあげてから出直すとか

 良い装備整えるとか、仲間を増やすとかしては?」


「ふざけるな! 僕の宿敵を前にして、そんな足踏みしてられるか!!」


「うわぁ、周りが見えなくなるタイプ……」


ドラゴンは勇者自殺を諦めて羽ばたいた。

ことの顛末をヨルムンガルドに相談すると大笑いされた。


「あっはっは、まぁダイエットなんて楽じゃないってわけね」


「こっちは真剣に悩んでるのよ!

 なんでドラゴンって足は太いし、羽はでかいのよ!

 もっとシャープなシルエットになれなかったの!?」


「骨格に文句言われてもねぇ……」


「もっとすぐに痩せられて、簡単で楽なものってないのーー!?」


「あ、そういえば、変化ダイエットってやってみた?」


「変化ダイエット?」


「人間に変化したあと、ドラゴンに変化すると痩せられるらしいよ」


「うそーー? 言っておくけど、ダイエットマイスターの私は

 安易なダイエットには乗らないもん、納豆ダイエットで懲りたし」


「なにこのめんどくさいドラゴン……」


ヨルムンガルドは扱いの面倒な友人に鼻息をもらした。


「人間に一度変化すると、人間に不要な部分のカロリーが消えるのよ。

 ほら羽とか尻尾とかは人間にないでしょ?」


「なるほど! だから、一度人間を経由すれば痩せるのね! やってみる!」


「納得までが早いなぁ……」


ドラゴンはあれまで執着していた転生ダイエットをスパッと諦め、

今度は変化ダイエットへと方向転換した。


はじめて覚える変化の技に四苦八苦しながらも、

英語検定5級を合格したことでついに変化の技を習得した。


「やった!! これで憧れのボディが手に入る!!」


ドラゴンは嬉しくなって、覚えたての技を使って人間になった。


「うーーん。これだけだと痩せた実感ないわねぇ。

 たしかに尻尾はないし、足は細くなってるけど……。

 よし、戻ってみよう!」


ドラゴンは変化の技をといて、再び元のドラゴンの姿に戻った。


その瞬間、体には劇的な変化が起きていた。


あれだけ太くたくましかった4本の脚は一気にか細くなり、

無駄にデカかった羽はつまようじのように細くなる。


首もサイズダウンし、顔は遠近法使わなくても小顔になる。

お腹は引っ込み、コンプレックスの太い尻尾はがりがりに細くなった。


「やったぁ! ダイエット大成功!! 痩せられたわ!!」


ドラゴンは大いに喜んだ。

ヨルムンガルドを呼ぶとすぐに報告した。


「見て! 私、こんなに痩せられたよ!!」


「おぉーーすごいすごい。本当に効果あったんだね。

 それで、用ってなに?」


「実は……」


ドラゴンは恥ずかしそうに鱗を赤らめた。



「足とか、羽とか、首とか細すぎて自分の体支えられないの。

 悪いんだけど、食事ここまで持ってきてくれない?

 あと移動のときもおぶってくれないかな?」



のちに、ドラゴンは見事なリバウンドを果たし大空へと舞い上がった。

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