第六話:山の手 三月二十五日 ―驚愕―
◆主な登場人物
コウトウ ……役所広司 シンジュク……片岡愛之助
スミダ ……武田鉄矢 ブンキョウ……八嶋智人
チュウオウ……中井貴一 ネリマ ……柄本明
タイトウ ……三遊亭小遊三 セタガヤ ……古田新太
ナレーション……田口トモロヲ
【ナレーション】
一九九九年に竣工した文京シビックセンター。東京ドームの眼前に建ち地上二十八階、高さ百四十二メートルを誇り、区庁舎の中では最も高い建物である。
二十五階の展望ラウンジは、東にスカイツリー、西は新宿副都心から富士山までが望め、隠れた夜景スポットとして人気も高い。
忙しい年度末に飛び込んできた、川の手連合の奇策。
両者それぞれの思惑が大きく動き出す。
* * * * * *
ブンキョウは自分の耳を疑った。
「川の手連合だとぉ!?」
電話の声は途切れない。
「まさか、あのチュウオウとコウトウが手を組むとは」
続けてもたらされた情報に、彼は文字通り言葉を失う。
受話器を置くとおもむろに立ち上がり、春の気配を漂わせ始めた空を窓越しに眺めた。
時間は確実に流れている。
その日の夕方。
ブンキョウは雑踏の中に建つ新宿区役所にいた。
眉間にしわを寄せたシンジュクが彼を迎える。
「急用とのことですが、何かあーったのですか?」
「それがですね」
「その情報、確かなーのですね?」
「みっちゃん(吉田羊:友情出演)は小・中学と同級生の幼馴染で、今は江東区の児童福祉課に勤めていますが、昔から私の頼みは『任せとけっ!』というような姉御肌の人で」
「そんなーことは聞いてまーせんっ!
これが確かーな情報なのかと聞いているんです」
珍しくシンジュクが苛立ちを見せ、ブンキョウの言葉を遮り声を荒げた。
彼にとっても、それは予想もしていなかったことなのだろう。
返事を待たずに、改めて尋ねる。
「確かなーんですね。
チュウオウとコウトウが手を結んで、川の手連合として何かー仕掛けてくるというのは」
「おっしゃる通りでございます、はい」
いつもならば軽い調子で答えるブンキョウも、今日は真剣な面持ちだ。
そこへ、さらにシンジュクが問い質す。
「それで、何をするというんです?」
「どうやら、区の職員を動員してデモ行進をするらしいんです」
「デモ行進ですか!? 何を今どき」
昭和の頃には数多くみられたデモも、社会が成熟していくに従い行われることも少なくなっていった。
この元号に変わってからはほとんど見ることがない。
「そう思ったんですが、職員に三交代制のシフトを敷いて参加させるとの内示があったそうです。
江東区だけでなく、中央区・墨田区・台東区も同時に行うとなると最大で二千五百人規模となります」
「二千五百人! そんな大規模のデモなんて聞いたことがない」
「私も昭和や平成の頃の映像でしか見たことがありません」
実際に見たことがなくとも想像は出来る。
二千五百もの人々が道路を練り歩く姿を思い浮かべ、シンジュクは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「一体どこでやーるんです? デモの目的は?」
「目的はまだはっきりしないのですが……目指す場所は、ここ新宿。
都庁のようです」
ブンキョウが区長室を去った後、ひとりシンジュクは敵の動きを読もうと自問自答する。
(行政の機能が滞るのを顧みず、職員を動員してのデモを実施するなんて。
しかも、目的地が都庁ということは、東京都に対する何らかの要望を行うのは間違いないでしょう。
要望はいずれ分るでしょうから、問題はなぜデモなのかということです。
この方法のメリットは『多くの人に知ってもらう』ことのはず。
一体、誰に向けてアピールするつもりなのでしょうか。
こちらも何か対応策を考えねばいけませんね)
やおらソファーから立ち上がったシンジュクは内線ボタンを押す。
「すぐに助役を呼んでください」
(あの土地の買収を急がせましょう)
【ナレーション】
二〇六四年三月現在 川の手地区の職員数は、
中央区 一四五九名
江東区 二六六三名
墨田区 一八六一名
台東区 一七〇七名 合計 七六九〇名となっている。
具体的な作戦を練っていく〈川の手〉連合。
着々と次の一手を打っていく。
次回、「第七話:川の手 四月一日 ―布告―」お楽しみに!
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