第七話:川の手 四月一日   ―布告―

◆主な登場人物

 コウトウ ……役所広司    シンジュク……片岡愛之助

 スミダ  ……武田鉄矢    ブンキョウ……八嶋智人

 チュウオウ……中井貴一    ネリマ  ……柄本明

 タイトウ ……三遊亭小遊三  セタガヤ ……古田新太


 倉田道子 ……吉田羊

 ナレーション……田口トモロヲ



【ナレーション】

 新年度の初日は、各区役所で区長による年度初頭の挨拶が行われる。

 例年であれば、新規採用者への訓示や施策への抱負などが語られるが、ここ江東区では区長からの所信表明があるとの噂が流れ、職員の間に緊張感とざわめきが広がっていた。



      *    *    *    *    *    *



「このように都政が停滞しているのは明らかです。

 私たちは区のことだけをやっていればよいわけではない。

 区民は都民でもある。

 都政が活性化することは、すなわち区民の生活向上にもつながるのです」


 倉田道子(吉田羊)は児童福祉課のカウンターに立ちながら、館内放送から流れてくる声を聴いていた。

「まったく、うちの区長しゃちょうは何を考えているんだか」


 他の職員も業務の手を止めずに耳を傾けている。


「今こそ私たちが立ち上がるとき、民意を示すときなのです。

 では、どう示すのか。

 明確な意思を明らかにするために、ここ江東区役所から都庁のある西新宿へデモ行進を行います!!」


 さすがに、職員たちの動きが止まった。


「はぁ? デモ行進って、あのデモ?」

「今、デモやるって言ったよね」

「いや、意味が分からない」


 同僚たちが交わす言葉があちこちから聞こえてくる。

 隣のカウンターで受付業務をしていた佐藤さんは、対応していたお客と話し始めてしまった。


(あーぁ、本当に言っちゃったよ。

 あたしは課長への内示をこっそり聞いてたから驚かないけどさ)


 道子は心の声を隠したまま、廻りに合わせて動揺したふりをする。

 ざわめきがどよめきに変わっていく中、コウトウからの声がスピーカーを通して響いた。


「繰り返します。

 これはエイプリルフールではありません。

 これはエイプリルフールではないのですっ!」



 年度初頭の挨拶が終わっても、庁舎のいたる所で職員が顔を寄せ合っていた。

 さすがに公務員たるもの、業務の手を止めることはないものの、口から出るのはデモのことばかりだった。


 一方、予めこのことを知らされていた管理職たちは対応策を講じていた。

 昼休み明けのミーティングでは、早速A4一枚の書面が配られる。

 そこには『都庁へのデモ行進について』と記されていた。


                  *


 『都庁へのデモ行進について』


1.目的  江東区民の生活環境控除のために、停滞している都政の改革を求める。


2.方法  江東区役所から都庁までのデモ行進とする。


3.期間  三日間を予定。


4.留意事項  以下の通り。


・六月期の補正予算審議が終了したのち、準備期間を経て八月上旬に実施予定とする。(天候その他の理由により、順延の場合あり)


・職員の三交代制により対応するため、事前にシフトを組むこと。


・デモ行進の際は、以下に注意すること。


①隊列をできるだけ乱さないよう注意すること。特に車道を進む場合は、当該一車線の幅を越えないこと。


②熱中症対策として各自で飲料を用意し、こまめに水分補給を行うこと。


③暴力行為やヘイトスピーチは禁止とする。

 妨害にあったときは両手を後ろに組み、暴力をふるう意思がないことを明確にすること。

 もみ合いとなった時は、後ろ手のまま姿勢をやや低くして肩からぶつかること。

 頭を前に出し過ぎると、頭突きと認定される場合があるので注意すること。

※デモ行進中の様子は、広報広聴課にて映像記録する予定です。


・詳細については、別途設けられる「都庁デモ実行委員会」の決定に従うものとする。


                  *

 

「何これ!? チョー面白い。またブンちゃんに教えちゃおっと」

 守秘義務などはどこ吹く風。

 話のネタが増えて、妙にはしゃいでいる道子だった。

 



【ナレーション】

 〈川の手〉連合の奇策に対し、迎え撃つ〈山の手〉は?

  シンジュクも奇策で対抗する。

  次回、「第八話:山の手 四月十日 ―出城―」お楽しみに!



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