第6話白銀の鳥の提案
まったく意気消沈するやら、腹立たしいやら、団長は文字通り頭を抱えてまだ練習場にぽつんと一人でいました。椅子に座りもう何度目のため息でしょう。今日は例のトランペットを視界の片隅にも入れたくありません。考えたくない事が山ほどありましたので、なんとなく目を閉じていたのです。
三日月がみじめな自分を笑っているかのようです。イラついた胸のうちに対して、草木をかすめる風が歌ってくれている気がして、なんだかなだめられているようなそんな夜でした。
ふと目を覚ますと時計は午前一時をさしていました。ぼやけた目をこすりながら、何とはなしに窓に視線を向けると、開けていた窓の窓枠に一羽の見慣れない白銀の鳥がいたのです。なんだろうかと思い団長がしっかり見ようと窓に顔を近づけた時の事でした。
「ずいぶんとお悩みのご様子じゃないですか。」
白銀の鳥は落ち着きはらって言いました。
「あなた、王立楽団の団長でしょう。この時期のお悩み事なんて決まっていますよね。今年も結果が出せずにコンクールで笑い者になるのが辛いわけだ。」
訳知り顔で笑って言いました。
「お前なんかに私の苦労が分かるもんか。退治されたくなかったらさっさと出ていくんだな。」
団長は苛立ちを隠せません。
「皆が帰ってからずっと、うなっていらっしゃったご様子で。どうです、この私に相談してみては。あなたたち人間はご存じないでしょうけど、鳥というのは音楽にうるさいのですよ。人知れず楽団だってあるくらいです。」
団長ははっきり言って同じにするなと思いましたが、こんな悩み相談出来る相手もいません。鳥になら愚痴をこぼしてもいいかと思って
「お前が音楽に詳しいなら、もちろん知っているだろうが、私の楽団はそれはもう素晴らしい演奏をしてみせる。しかし例のコンクールではいつも笑い者になる有り様だ。それはなぜか。あの年老いたラッパ吹きの下手くそな演奏のせいだ。あいつに皆の演奏は乱され、ペースは崩されるのだ。」
一呼吸置いて
「だが今回は切れ者の大臣が力を貸して下さった。どんな下手くそな奏者が演奏しても素晴らしいメロディーを奏でられるトランペットをお借りしたのだ。」
白銀の鳥は鼻の頭を少し掻いて
「ほう、それはありがたい事ですね。それで何を悩んでいるのです。」
団長は椅子に座り直し
「だがこの楽器、音楽への真の愛情を糧にするという。私は持てる限りの愛情を楽器に注ぎ込んでから、その下手くそなラッパ吹きに吹かせてやったのさ。」
白銀の鳥ははっと笑いながら言いました。
「何事でも本当の愛情というのは、自分では分からないものです。何もかもややこしい考えや立場は捨てさって、子供の様に純粋に音楽を楽しんだらどうです。」
「頭でそう思っても、そんな簡単にはいかないさ。」
ため息まじりに言います。
「先程も言いましたが、私たち鳥も、楽団を結成しているのです。どうです、気分転換に私たちと演奏しませんか?」
白銀の鳥はそう言うと窓からどこかへ飛び去っていきます。
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