第3話大臣の提案

そんな出来事があって三日ほど経った日の事です。朝早く、団長の家にお城から手紙が届きました。立派な便箋に王家の紋章の印が押されたものです。はて、もしかすると王様からの手紙だろうか。中を開けると、以下の内容で大臣のサインがしてありました。王様よりはずっと若い大臣で、国中ですでに利発である事で有名でした。

手紙には一言、コンクールにおける人選の件で話があるのですぐに来るようにと書かれていました。団長は大臣直々にこの件で何の用があるのかと、いささかいぶかしみましたが、さっそく城へと向かったのです。

やはり朝一番で団長は出かけ、城門で衛兵に大臣から呼び出しを受けた事を伝えると、いつもの様に客間で待たされます。落ち着かず待たされて、ようやく昼が過ぎたといった頃、大臣の執務室へ通されました。

そこは十数畳ほどの部屋で、立派な執務机に椅子、後は何やら難しそうな本がぎっしり並べられた本棚がところせましと置かれていました。団長は深々と頭を下げたのち、大臣の姿を初めて見たのでした。四十にもなろうかといった顎髭の若々しい男でした。しかし目尻のつり上がった感じが厳しそうな感じを与えます。

「お招きにあずかりまして、光栄でございます。私が王立楽団の団長でございます。」

団長はうやうやしく再び頭を下げました。

「この度、あなたをお呼びしたのは他でもありません。先日、陛下とあなたが話し合った、コンクールの人選の件です。あなたは腕の劣ったトランペットの奏者をメンバーから外したい。彼がいてはとてもコンクールでは入賞できないと考えているからですね。」

「はい、私の楽団は各地から選び抜かれた技量を持つ奏者が、日々切磋琢磨して技術を磨き上げ、多くの方々から高い評価を頂いているのです。この一帯の国々の楽団と比べてみましても、どこにも引けを取らないと、私自身感じております。」

少し大きな声になって

「件のコンクールでも入賞出来ることは当然の事かと思います。入賞できぬとすれば、それどころか笑い者になる事さえあるとすれば、技量の劣る例のトランペットの奏者に原因があるとしか思えないのです。」

大臣はなぜかそこまで聞くと少し微笑んで

「陛下はあくまでもその奏者を使い続けろとおっしゃるわけですか。その事についてあなたはどうお考えなのですか。」

「正直に申し上げまして、あの者を使い続けるのならば、この度も結果は同じかと思います。短期間に劇的に技量を上げられるのでもなければですが。」

大臣は今度ははっきりと笑いました。団長はなぜ笑われるのか検討もつきませんので、少し不愉快でした。

「あなたが言うように、短期間で技量を上げることは、普通に考えては無理でしょうね。しかし普通に考えればです。」

ずいぶんもったいつけた言い方をして、少し間を空け

「ですが不可能ではありませんよ。人は楽器を選ぶ事が出来るのですから。」

「? お言葉ですが楽器がいくら良くても、使いこなせる技量がありませんことには。」

「ただの楽器じゃないのです。この世界には古来より様々な力を持つ楽器がありましてね。その中には摩訶不思議な魔法の楽器もあります。例えば素人同然の奏者でさえ、世界最高峰の奏者と比類するほどの演奏を可能にするものだってあるのです。トランペットもありますよ。」

団長は固くなって大臣のその言葉に唾を飲み込みました。大臣はそんな団長の様子に満足そうに続けます。

「ただしこの楽器を使うには条件がありましてね、この楽器は人の音楽へのまことの愛情を力にして不思議な力を発揮できるのですよ。」

大臣はおもむろに椅子から立ち上がり、何て事はないいつもと同じ窓の外の景色を眺めます。

「どういう事でしょうか。」

団長が少し気味悪がって躊躇しがちに訊くのが、おもしろいのでしょうか、わざとらしく充分ためてから大臣は

「音楽への心よりの愛情なしには使えない楽器という事ですよ。音楽への愛情をこの楽器に分けてやるわけですね。」

なるほど、それが本当なら素晴らしい楽器です。団長にとっては願ったりの楽器でした。

「どうします。その楽器を使いたければ、世界中の楽器を集めているコレクターを紹介しましょうか。それとも例年どおりコンクールで笑われるかはあなた次第ですよ。」

団長はそれならばさっそく試してみたくなって、その楽器を持っているコレクターに会わせてもらうことにしたのです。





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