第2話王様の答え

その年も団長はダメ元であろうとも、王様にお願いするために城へ向かったのです。朝一番に城へ向かった団長は、ずいぶん客間で待たされ、もう陽が傾き始めた頃、ようやく謁見の間に通されたのでした。

久しぶりに見た王様の顔は苦労が多いのか、前にもましてしわが深くなっているようでした。団長はおずおずと話し始めます。

「陛下、お久しぶりでございます。謁見の栄誉をたまわりましたこと、大変畏れ多く思います。この度も私からお願いしたき事がございまして伺わせていただきました。」

これ以上無きほど頭を下げます。王様の表情はチラッとしか伺えませんでしたが、きっと毎度同じ話の事、飽き飽きしているのでしょう。それでも団長は同じような話を王様にせずにはおれませんでした。

「ご存じかとは思いますが、今年も例のコンクールがある時期でございます。毎年、多く国民の皆様方よりご期待を頂いているのですが、なかなかご期待に沿う結果には至っておりません。多様な原因があり、私の不徳のいたすところではございますが、一つに技量の見あわぬ奏者がいる事があります。」

一呼吸置いて

「その者は年老いたトランペットの奏者でございます。陛下、直々にお選びいただきました奏者ではございますが、この者いささか技量に劣りますゆえ、今年のコンクールではメンバーから外させていただきたいのでございます。」

団長が見た限りでは王様は少しも表情を変えませんでした。王様はおもむろに顎に手を添えて話し始めました。

「余はそのような話、毎年聞いておるな。そして結論もいつも同じだ。今回だって変わりはせぬ。ならん、あの者を外す事は認めぬぞ。」

まったく抑揚をつけずに王様は言い切りました。団長は勇気を出して言います。

「陛下、お言葉ではございますが、あのコンクールは素晴らしき技量を持つ者たちが、それを競い合う場でございます。あの者の技量で立つのは相応しくないかと思います。」

「ならば尋ねよう、相応しい技量とはどのようなものだ。」

「はい、人々を感動させるような、深い演奏が出来る事にございます。」

「あの者がおれば、それができぬと? そのような事は決してあるまい。」

「演奏は皆でするものでございます。足を引っ張る者がいますとどうしても上手くいきません。」

王様はただじっと団長の目を見つめていました。

「聞こえぬ音を聞くのも音楽であろう。真に音楽を解する者であればあるほど、その事がよく分かるものではないのか。結果を残せぬのを、あの者の技量のせいと考えていてはいつまで経っても同じ事ではあろう。」

「恐れながら私には、陛下が何をおっしゃりたいのか分かりかねます。何卒、一度あの者を外して演奏させていただきたくお願いいたします。」

団長にも王様が深くため息をついたのが分かりました。王様はしばらく目を閉じて何か考えていらっしゃったようですが、一言

「余の考えは変わらぬ。今年こそは期待している。最善を尽くせ。」

とだけおっしゃったのでした。

黄昏時、団長は肩を落として、城門をくぐろうとしていました。王様はああおっしゃったが、今年も結果は変わるまい。足取りも自然に重くなります。その日は家へ帰る道のりが来た時の三倍は遠く感じられました。



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