第2話 前夜

アキラは憤慨していた。

「なぜ?ユキが行かなければならないんだ。」

アキラの声は薄い壁で出来た施設に響き渡った。

大人しそうな少女は答える。

「しょうがないよ。15歳になったら働くか、真人(シント)の奴隷として内地に連れて行かれるんだから。」

彼女はいつもの困ったような笑顔を見せる。

「ふざけるな。なぜ俺たちがそんな事を強いられなければならない。」

彼は感情あらわにする。

彼女は黙って下を向く。

「うるせぇぞアキラ。お前達奴隷は真人様たちに従ってればいいんだよ。」

施設を管理している男の罵声が飛ぶ。彼は真人から金で雇われたアキラたちと同じ旧人類である。施設で働く者は真人より、多くの金を貰い、完全に飼いならされしまっていた。アキラは声を抑えて話を続ける。

「俺は認めない。真人に従うくらいなら死んだほうがましだ。」

吐き捨てるように言った。その直後。

「ふざけたこと言うな!」

少女の怒声が響く。

「そんなこと冗談でもいうな!」

少女の名前はユキといった。アキラと同じで生まれたときに捨てられるた。アキラと同い年で15年間共に生きてきた。二人には恋愛感情を超えた、家族の絆があった。彼女は基本、とてもおとなしい性格だが、怒った時のギャップがすごく、アキラでさえ一歩引かされてしまう。

「俺はお前と生きていけるって思ってた。こんな世界でもお前がいればそれだけで良かった。」

アキラの本音が漏れた。

「大丈夫。生きていればきっとまた会える。」

ユキはいつものトーンで答える。

だが、そんなことはないと、二人は知っていた。真人が暮らす内地とアキラ達、旧人類が暮らす場所は完全に隔離され、出入りすることなど決して叶わない。

二人の間に沈黙が続く。

「もう就寝時間だから部屋に戻るね。」

彼女はその場を立ち去ろうとする。アキラはその後ろ姿が、暗い遠くに行ってしまうような気がして、彼女の手を引いた。

こちらによろけてくる彼女に、アキラは自分の唇を重ねた。その瞬間、二人の時間は止まった。このまま時間が動かないでほしいとさえアキラには思えた。

「お前は俺が守るから。お前は俺を見失わないでくれ…」

唇を離して言った。

「うん!当たり前じゃない」

彼女は笑顔を見せると、目から溢れて来る感情を隠すために、走って部屋に戻って行った。

この時、アキラの心中は、真人に対する黒い感情で満たされていた。

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檻の中の世界から 山お @kumahiroto

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