はじまりの魔女は希望する

しろだん

第1話

あー 行きたくないな…会社

辞めちまおうかな…


俺はいつもの時間 いつもの様に満員電車に押し込まれ

香水きついねえちゃんと、オヤジ臭を放つ奴らに挟まれ揉まれ

ぐちゃぐちゃにかき回されながら職場を目指していた

都会がこんなに辛いなんて…

田舎に帰りてー…

父ちゃん 母ちゃん

ゆう事をきかんですまんかった すまんかった…


というテレビドラマを見た



私の実家は自然が豊かな寒村だ

よくテレビでは 動物と人の数を比較され笑われるあのさびれた村だ

小・中学校は生徒が少ないためみんな一緒の教室で学んだ と言うと

みんなは「さぞかし のんびりと伸び伸び学べたんだろう」と

羨ましがる

何を言っているんですか 皆さん 冗談じゃない!

あなた達は勘違いをしてらっしゃる

私が味わった地獄の日々を知ってなお言えますかね

そんな事を ま 内容は話せないのですが


「おーい いくどー」

「父ちゃん ランドセルがみつかんね」

「ランドセルなら背負ってんべ」

「ははっはっはっ…」 と和かな会話と共に軽トラに乗り込んで

入学する学校へと向かった

「なんか 母ちゃん泣いとったな」

「そうか…」素っ気なく返された


舗装はされているが荒れ放題の細い山道を登っていくと中腹あたりに

古い木造の1階建の校舎が見えてくる

「ご入学おめでとう」と書かれた看板にアーチ型に組まれたものが

門の前に建てられていた

その前にはよく知る近所のおっちゃんが立っている

「おはようや おっちゃん」

「こら!校長先生や ちゃんと挨拶せんか」

ゴンと一発頭にもらった

「いったいなー何するんが」

「すんません 校長先生」

あんなにへこへこしている親父をみて子供ながらに

情けなくなった

まあ あとで聞いて納得したんだが…


校舎に連れて行かれてまずたまげた

「なんじゃ これは…」

見たこともない機械がギッシリと校舎の中いっぱいに詰められていた

「えっ 」後ずさりし外にもどり校舎を見直す

外は木材ボロボロや

恐る恐る中に入る 「宇宙船や キッラキラ輝いとる」

落ち着けと また一発もらった

校長先生と真剣な表情でしばらく話して

こちらを見ることなく 父ちゃんは帰って行った

「入学式はどうすんじゃ 父ちゃん」

もらった頭をさすりながら 側にいる校長先生を見ると

「さあ こちらですよ」と

うながされ奥の分厚い扉の前に連れて行かれた

校長先生が小窓を覗くと光の線が上から下に流れ扉が開く

長いこと下り 気分が悪くなったのを思い出した

「着きましたよ」

「おおっーー…」

「ぉ …ぅ…」

期待していたのと違いがっかりだ

降りる前に見たオンボロ校舎が目の前にあったのだ

運動場 水飲み場 動物小屋に花壇

おまけに空まであった

地の底に太陽があることを不思議には思わなかった


知識はそれを超えるものが現れると想いの力に働きかける

想いは希望へと導く

私の経験だから誰にでも当てはまるわけではないのだが…

だから目の前に光の中から現れた女の子を素直に

受け入れる事が出来た

いつの間にか校長先生は居なくなって女の子と2人きりになり しばらく沈黙が続く


「おれ 俺もそんな風に飛んで見たい」

女の子は微笑んで手を差し伸べてくれた

手を繋ぐと優しい光に包まれふわりと浮かぶ

心地良い幸せが手を通して流れ込んでくる

いつまでもこうしていたい…と思った次の瞬間

「⁈」目の前が真っ暗になり気持ちの悪い

とても嫌な感じのものが全身を覆った

胸の奥になにかが突き刺さる

「いたい いたい いたい…」

何か暗い中に見えてきた

「あれは…」息をのむ

「人が…人を…殺している…」何百 何千 何万と 信じられない光景だった

人々の叫びが悲しみが全土を覆う

「小さい子 女の人 おじいさん おばあさんが殺されている…」

「やめて もう…やめて…」涙で顔はぐしゃぐしゃになった

突然場面が変わり 女の子が空の高い所に浮いているのが見えた

何かを叫んでいる

涙を流しながら…

次の瞬間光の矢が地上に何本も何十本も落ちていった…

意識を失った…

……

………

目がさめると髪が腰あたりまで伸び 体が成長している事に驚いた

そして私は 全てを知り 何をすべきかを理解した

魔女である彼女は

人と魔女が平和に暮らせる場所を創り 仲介者を育てる事

そう それが彼女の想い 希望だ

私は彼女に選ばれてここにいる

彼女の光を実現するために後から来るものと力を合わせる事を

決意した


これが私と 国立魔法機関大学理事長との出会いだ

いっしょに学んだ仲間はそれぞれ世界中に渡り

良い架け橋となっている

ちなみに私は今も理事長の側に仕えている

「んっ 何か呼んだかデカパイメガネ」

「うるさい クソチビ インタビュー中に割り込んでくるんじゃねえ」

今でも良い同志だ



最後に おやじへ

俺は女だ こんな性格になったのも小学生まで

「お前は男だ」と言われて育ったからだ

今でも男扱いするんじゃね

もう一回言う「俺はおんなだ」

























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