第20話 あたしは、すべてを知りたい
「あんた、なんだかんだ言って、この人たちを巻き込みたいんだろう?あんたは独りだから、助けが欲しいんだ。『教授』がこの人たちを呼んだのと同じだ」あたしは、ふっと思いついたことを、そのまま言ってやった。
笹山がものすごく恐い目であたしをにらんだ。
「その通り、『教授』は助けを必要としていた。それで、この人たちを巻きこんだ。しかし、それが、誰のためだったと思っているのだ。梨花君、すべては、君のためだたのだぞ」
「笹山さん、誰のせいかっていう話は、もう、いいじゃないですか」宝生が柔らかいけど、キッパリした口調で割り込んできた。
「あなたは、私たちは、もう巻き込まれているとおっしゃった。そして、私も、コー君も、整形手術までして逃げ出すつもりはない。だったら、そこを出発点にして、その先のために必要なことだけを話し合いましょう」
宝生は、レノックス大馬鹿博士が聞いたら「なんて非論理的な」と呆れ、ヘレンが生きていて聞くことができたら「人間はそんなイイ加減にできていません」と怒りそうなことをケロリと言ってのけた。
「確かに、君の言う通りだな。今さら、何を言っても遅い」
コータローが長身を折り曲げて笹山の顔をのぞきこむようにして話し出した。
「笹山さん・・・とおっしゃいましたよね・・・なんか、ボクなんかが、こんなエラそうなこと言うのもアレなんすけど、篠山さんは、いい大人なのに、14歳の梨花ちゃんに厳し過ぎないすか?ボク、自分の14歳のころを思い出してたんすけど、全然、そんな、周りのことなんか、見えてなかったっすよ」
「はぁ、あんたと一緒にしないでよ」とあたしは、コータローをにらみつける。あたしを助けるつもりで言ってるのがわからないわけじゃないけど、「たかが14歳の女の子」ってバカにされたような気もする。
「菊村君」と呼んで笹山が話し出そうとすると、コータローが「コータロー君でいいすから」と言った。
「コータロー君、普通の14歳なら、それでいい。だけど、この子の場合は、それでは済まないんだ」
「それが、そのファイルの内容と関わっているんですね」宝生が落ち着いた声で笹山に尋ねる。
「その通りだ」と宝生に答えた笹山が、今度は、あたしに目を向けた。「梨花君、出ていくのなら、今のうちだぞ。このファイルには、君がレノックス博士や亡くなった瀬名君、アトキンソン先生から聞かされていない話も入っている。みんながそれを君に聞かせなかったのは、理由があってのことだ」
「構わない。あたしは、全部、知りたい」
大人はあたしが傷つかないようにとか、あたしが理解しきれないだろうからと言って、あたしから隠し事をする。でも、それは、あたしに対して失礼だ。あたしは、あたしについて知る権利がある。
そりゃ、もしかしたら、傷つくかもしれない。全部は、わかんないかもしれない。でも、そうなるかどうかは、聞いてみなきゃわかんないことだ。
「もし、傷ついたら、その時、どうすればいいか一緒に考えればいい。理解できないことは理解できるように説明しなおせばいいし、それでもわからないことは、わかるのに時間がかかるということじゃないかしら」宝生が穏やかに微笑みながら言った。
あたしは、宝生を見た。さっきも思ったけど、この女は違う、本当に違う。あたしが今までに知ってる、どの女とも違う。といっても、あたしが知ってるのは、あたしの母親と、レノックス博士と、ヘレン―アトキンソン先生―の3人だけだけど。あっ、レノックス博士の助手をしていたブラックマンとか言うやつも、ちょっと知ってる。自分が美人なのを鼻にかけた嫌なオンナだった。
笹山が宝生をじっと見た。「君は、肚が据わっていそうだな。なるほど、君が梨花君のそばにいてくれるのなら、このファイルの内容を、すべて梨花君に教えてもいいだろう。彼女が、いつかは知らなければならないことだ」
ニューロ・クラッシャー/橘 梨花 亀野あゆみ @ksnksn7923
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