3
駅のホームはがらんどうだった。二分遅れた時計は間もなく六時になる。屋根のせいで低くなった空は、夕方から夜へと入れ替わっていた。
ユクを横目に見る。この方法で、もう何度もユクの様子を確認している。
何事もなかったように、スマホをいじっていた。小刻みに親指で画面をこすっている。きっと誰かにメッセージを送っているのだ。誰だろう、バシくんかな。それとも母親か。
どちらにせよ怖い。すっかり酔いが醒めた今は、肌を這うような恐怖に襲われる。ユクとの関係。友達以上親友未満の、何気に結束力の強い関係を今日まで続けてきたのに、勢いまかせに壊してしまった。
もう少しすれば電車が到着する。下り列車、ユクはそれに乗って帰る。ぼくは上り列車で、いつも駅で別れる。中身のない会話に盛り上がるのに、今日はそれがない。
今、僕とユクを繋いでいるのは細い糸だけ。片方が引っ張れば、もう片方が拒んでも千切れてしまうだろう。関係を引きちぎる権利は、完全にユクのものだ。僕は一言も発さず、判決を言い渡されるのを待つしかない。
ユクにすがりついてやろうか。わたしを捨てないで、とでも言って、情けなく靴の先を舐めればいいのだろうか。でもユクは、気に留めずに電車へ乗り込むかも知れない。
もう嫌われたっていい。
でも、好きでも嫌いでもない、どうでもいいとは言われたくない。道端の石ころにだけは、投げ捨てられた空き缶にだけはなりたくない。
ホームで、列車の到着を知らせる音楽が鳴った。ユクは立ち上がって、
「あたしさ、あいつと本当は別れたんだ」
前触れなく言った。ユクを見ると、イヤホンジャックをスマホに挿して、いつもの音楽を聴こうとしている最中だ。
ホームへ列車が入ってきて、速度を落とす。
「バシ君、あたしとは違う奴と関係作ってたんだ。ほら、嘘って、誰でも吐くものでしょ?」
ユクは僕の目を見て、イタズラっぽく笑い、ぺろりと舌を出した。
「また明日」
列車にユクが吸い込まれていく。ドアが閉まる直前、ユクは控えめに手を振った。
ようやく手を振り返したとき、列車はもう左へと流れた後だった。
「あぁ、そう」
ユクはこんな僕が相手でも、明日を認めてくれるのか。
放課後のアルコール 玉浦 ほっかいろ @hanamurakeito
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