勢いのあるパロディギャグと、出落ちに留まらない緻密さ

チートスキル・ハーレム・産業改革といった「異世界転生モノにありがちなこと」を手札として捉え、その組み合わせによってどちらがより活躍して異世界を救えるかを競う架空の競技を描いた物語です。
なぜか児童誌のホビー漫画風のテンションで物語が展開し、試合開始時にはトラックに轢かれ、絡んできた先輩冒険者を叩きのめせば得点になるといった調子で、矢継ぎ早に繰り出される奇怪な(しかし確かに見たことのある)描写には思わず笑ってしまう勢いがあります。
しかし、ただ出落ち一発ネタで押し切ろうとしているわけでも、流行ジャンルを揶揄して笑いものにしているわけでもありません。
主人公はかっこよく、ヒロインはかわいく、そして繰り広げられる試合模様は熱く、つまり真面目に面白いのです。

パロディである事が「真面目な試合の面白さ」にも上手く作用しており、例えば架空の対戦競技を描いているため、読者には知りようのない後出しルールの連発になってしまいかねないところを、「異世界転生モノにありがちなこと」というモチーフがあることから初読でも想像・把握がし易く、試合展開に入り込むことが出来ます。
かといってパロディネタ=読者の予備知識に頼り切りにせず、作中に出てきた設定を丁寧に拾いながら試合が進行するため、主人公の繰り出す逆転の策は驚かされつつも納得感があります。
そのため、仮に異世界転生ジャンルに詳しくなくとも、純粋に対戦競技小説として読んでも面白い見事なバランスを保っています。

異世界転生モノが好きな方にも、あまりそういう小説は読まないって方にも読んで欲しい怪作です。