【基本設定】
「実際に体験して、一つ分かったことがある」
敗北を喫したシトは、帰還の直後に率直な所見を述べた。
先に転生レーンを降り、背後のルドウへと向き直る。
「それはデパートの連中の
その指摘には、
「――だろうな。【
「俺は【
「ケッ」
ルドウは頭をガシガシと掻いて、転生レーンから降りる。
関東地区の殆どの
【
しかしIP計算上のリスクや要求技術を鑑みれば、それは釣り合う範囲のリターンではある。シークレットを含めた全てのスロットでコンボを組む必要上、構成も固定となる。ならばシトにそれが可能だったように、高レベルの
「そもそも
「その【
「ケッ。無敵のメモリを目指して出来た代物がこれじゃあ、全然割に合わねえ。また別のやつでも作るか……」
シトは黙考した。デパートの敵の唯一の手がかりと思われた【
「でもさ、ルドウ! それってやっぱり凄い
研究室を横切って、
「その
「アホか。
「うおお、
ちょうどその時、PCで試合記録を覗いていた
それは、先程サキが解説した【
「すげえなルドウ、救いまくりじゃねーか! 半年で200回以上も
「だ! ま! れッ!!」
タツヤの小柄な体は全力疾走のドロップキックで吹き飛ばされ、片隅に放置されたままのペットボトルゴミの袋に頭から沈んだ。
「動作くらい検証するに決まってんだろ!
「……なるほど。
「ああ? 笑えよ。お陰でこんなバカに負けちまった!」
「バカとはなんだこの野郎ーッ! いきなり蹴り飛ばしやがって!」
「うるせェーぞバカ! レンチでブン殴ってやろうか!」
奥で掴みあいの喧嘩を始めるルドウとタツヤを眺めつつ、シトはふと呟いた。
「……世界救世か」
「どうしたの?」
「いや……
「ふーん……」
世界を破壊する
だが、世界救世の大義名分を理由に彼らを許さないとすれば……競技なしに世界を救世する手立てが生まれ、
「なんとかなるんじゃない?」
「ええっと、うまく言えないけどさ。タツヤだって怪我で野球部やめるしかなくなっちゃったじゃん? ああやってルドウと喧嘩したりもするけど、ルドウもタツヤの右脚だけは蹴ったりしないんだよね」
シトが初めてタツヤと出会ったとき、その右膝には包帯が巻かれていた。
右靭帯損傷。再建手術をしない限りは、元のようには走れないのだという。
ニャルゾウィグジイィは、
少なくともあの日の
「でもタツヤは、
「……」
「だから、なんだろうな……! 野球も
「そう……なのかも、しれないな。俺には
かつて敗北した
そして、今日。
「おいテメー! 書類引っくり返すんじゃねェよ!」
「ルドウが蹴った段ボール箱だろ!」
遠くの喧騒の余波で舞い散った古い書類の束を、何気なく拾う。
中学生では到底理解の及ばない、異世界転生理論に関する論文であった。
「……これは」
「どしたの?」
シトは動きを止めた。その目は、論文の上段に釘付けになっている。
肩越しに覗き込んだサキにもその理由は分かった。
「――ちょっと! ちょっとルドウ来て! 喧嘩してる場合じゃないよ!」
「なんだ……あァ? テメーら書いてあること分からねーだろ」
「そうじゃなくて……ここ!」
サキが示した箇所は、著者欄であった。
「……俺の……父さんの名前だ……」
「よこせ」
表情を真顔に戻して、ルドウはその文章を読み始めた。
「……何故、父さんの名がそこにある!? 貴様の研究所とはどういう関係だ!」
「あァ? 俺の方が聞きてえよ。こんな箱に突っ込まれて随分放置されてた、昔の論文だしな……だが、読む限りだと
「父さんも……
「知らねえよ。だが、待った……このタイトルは、そうか」
説明を飛ばして、ルドウはキーボードの一つを素早く打鍵し、迷路のように入り組んだフォルダを開いていく。そうして、ソフトウェアの一つを起動した。
「『基準慣性系における並列可能性座標から基準可能性座標へのEXD効果抑制に関する所見』……」
画面内の情報と論文の図を見比べながら、もう一度表題を口に出して読む。
彼が表示したソフトウェアは、どこか別の施設の観測結果を折れ線のグラフとして表示しているようであった。
「マジか」
「どうした」
「デパートの話は三週間前だったな、
「……この日だ。確かに」
平坦であったグラフが、ある一日だけ大きく振り切れ、波打っている様子だけが分かる。シトがデパートで戦った、あの一日だけが。
「こんな観測記録、めったに開かねえ。表題見るまで思いつかなかった可能性だったが、ビンゴだ。こいつは想像以上の厄ネタかもしれねえぞ」
「可能性座標……平行世界のことか? つまり、この世界からの
「違うだろ
グラフは、物理定数の局所的な揺らぎを表している。
それはまさしく、現実世界における
「異世界からこっちの世界に
「…………」
「嘘……でしょ……?」
すぐ隣に立つサキの反応も、遠くから聞こえるように思える。
あの二人について、そうした可能性を危惧してはいた。常識も、使う力すらも異質な存在。……それはシトの遭遇したことのない存在であったが、同時にひどく見慣れたものでもあったのだ。故に、そうだとは思いたくはなかった。
異世界の住人にとっての
「
「……だから俺の論文じゃねェし、そもそも相当昔の話なんだよ。中学生の伝手じゃあ、この関係者に連絡がつくかどうかすら分かったもんじゃねえ」
「だがしかし、これは俺達だけで抱えるべき問題ではないはずだ」
「そ、そうだよ……! それに、異世界のこともそうだけど……
「……チッ」
小さく、意味の掴みかねる一言を漏らす。
「【
「何……?」
「いや。忘れろ。さっきはああ言ったが、中学生だからこそ接触できる奴もいなくはねえ。しかもそいつは、まさしくドライブリンカーの……本物の中核関係者だ。とはいっても、マジにできるかどうかはテメー次第の話だがな……」
「俺……? それは、つまり」
シトはルドウの言葉の意味をしばし考え、そして辿り着いた。
「……全日本大会か。そうか、WRA会長が開会式に来る……!」
「理解が早ェな。だが、やる度胸はあるか?
日本最強の中学生
そこに公然と乗り込み、関係者と接触し得る権利を持つ者も存在する。
予選トーナメント決勝へと進み、大会出場の資格を得た……
悪童は、鮫の如き笑みを浮かべた。
「せっかくの機会だ。そいつに全部吐いてもらおうじゃねェか。拉致ってでもな」
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