【針小棒大】

「ひぃぃ~ッ!? 死んでる! ぼ、僕、また何かしちゃったんですかァ~ッ!?」

「フッ……ルドウ……恐ろしい男だ」

「ホッホッホ……予言に示された救世主とはまさに彼のことかもしれんのう……」

「またS級依頼が入ったらアンタに回してやるさ! 次もよろしく頼むよッ!」

「ひええええええ!」


 ひとしきりIP獲得行動を演技した後で、大葉おおばルドウはギルドを立ち去った。

 このコンボの有効性は想定した通りだ。現在のところ、報酬も知名度も、順調に稼ぐことができている。


「……ケッ! だが、簡単には追いつかせてくれねえようだな、純岡すみおか……!」


 現在のIPは621,331。やはり知名度自体がゼロの状態では前段階としてルドウを見下す相手も作ることができず、そうした下地なしに敵を消滅させてしまう【不正改竄ツールアシスト】【針小棒大バタフライ】のコンボでは、シトほどの転生者ドライバーに追いすがることは容易ではない。次の目標を定めるたびに、再びその敵を消滅させるルートを解析し続ける必要もある。


「特に最初の九年の出遅れが痛いか……だが、ルート解析の時間的ロスだけは絶対に避けられねェ。転生ドライブを終わらせる特権を先に手に入れねえ限り、【不正改竄ツールアシスト】はただの欠陥メモリだ……!」


 大量の矢を一本ずつ、等間隔で地面に並べていく。56本を並べ終えた時点で素早く全てを回収し、再び一纏めにする。矢の束の中には唐突に薬瓶が出現した。ラベルには不安を煽る筆跡で『くぁおぺえmぢゅーおの鎧』と書かれている。


 ルドウは瓶を開け、隣の民家を掴んでその中へと入れる。物理的に不可能な動作は何故か実現され、民家は消失する。二階で暮らしていた住民はそのまま何も気付かず空中を歩き、日常生活らしき行動を送っている。


「――だが俺の理論に間違いはねェ! テメーを喰ってやるぞ、純岡すみおかァッ!」


 消失した民家敷地に不可解な側転動作で飛び込む! 遠く離れた北部戦線を壊滅寸前にまで追い詰めていた火の暗黒皇は、因果不明のまま死んだ!


「グオオオオオオ! こ……この我を打ち倒すとは……汝こそが、真の……」


 鉄の魔人は爆発! 出現地点背後でただの鉄屑と化した暗黒皇を目視確認したルドウは、周囲を囲む北部防衛軍に聞こえるよう、堂々と勝利を宣言する……!


「うわぁぁ~ッ!? ま、まさか僕……またやっちゃったんですかぁーッ!?」


――――――――――――――――――――――――――――――


「ルドウが……どんどん追い上げてる!」


 裸電球に照らされる地下実験室。星原ほしはらサキは、固唾を呑んで試合の趨勢を見守っていた。

 かたや、自分自身の実力を一切無視して強大な敵を直接に倒し続ける大葉おおばルドウ。かたや堅実に達人スキルを広め、さらには【不労所得パラサイト】で広く浅く経験点を回収していく純岡すみおかシト。


「……そっか。【不労所得パラサイト】は周りが強くて、経験点を獲得すればするほど強いCチートメモリだけど……でも、最初から強い人達だけで仲間を固める必要なんかないんだ。弱い人達の強さを自分で底上げできれば、自分が戦わなくても……武器を作ったり、人に技を教えている間だって、どんどん経験点が溜まっていく。純岡すみおかクンは最初からそこまで織り込み済みで考えてたってこと……!」


 この異世界転生エグゾドライブの一戦は、サキがかつての戦いで既に見たCチートメモリも数多い。

 だが、Cチートメモリの使い道はただ一通りではなく、それを用いた戦術は組み合わせ次第で無限に分岐する。今回のシトは、【不労所得パラサイト】を前もって見せることで、ルドウの動きを牽制している。


「でも、シトはこれから苦労するかもしれねーな……!」

「……? そうなの? 拳銃の生産も軌道に乗って、弟子も世界で活躍しはじめる頃だし、これから伸びそうなのは純岡すみおかクンの方だと思うんだけど……」

「ああ、そうだな! シトの動きには無駄が全然ねー……相変わらず機械みてーな正確さだぜ! だけど、ルドウは世界中のボスをブッ倒して回ってるんだ。手当たり次第な……! それ以外のイベントは全然無視してやがる」

「それは、もちろん分かってるわよ。ルドウは最初からそういう戦術で……ああ!」


 サキも、この後に起こり得る展開にようやく思い当たる。極めて直接に世界脅威を抹消する【不正改竄ツールアシスト】。やはり恐るべきCチートメモリだ。


「こ……このままだと、純岡すみおかクンの勢力が倒す分がなくなる! いくら弟子が強くなっていても、ルドウはどこからでも、いきなりボスを倒せるから……! 稼げるはずだった分のIPを、先に奪われる!」

「俺には難しいことわかんねーけどよ! ルドウがIPの下準備もなしにひたすらボスだけブッ倒してるのは、多分そういうことなんだ……! だから……そいつらを全員倒した時点で、勝負が決まる!!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 ルドウは休むことなく世界の脆弱性を突き続け、今度は影の浮島を崩落させた。彼に倒すべき敵の強弱は関係ない。【絶対探知フラグサーチ】による世界情勢把握――事前に目星をつけた標的に討伐隊が差し向けられ、世間の耳目を集めたタイミングを逃さず撃破していくことで、最適の効率でIPを稼ぎ続けている。


「ウオオーッ! 救世主ルドウがまたやった! 今日は宴だぁーッ!」

「い、いやあ……恐縮です……本当に、何もしてないのに……」


 特にここ数年、人間では近づくことすら能わなかった外魔存在に挑む討伐隊が増えてきている。

 最新式の銃と、それを扱う技術の普及。魔法の力を込めた魔弾の量産体勢。明らかに、シトがもたらした文明の発展によるものである。


(……そしてテメーの戦略は失敗だ、純岡すみおか。教師型じゃあ俺を突き崩せねェー……敵に挑んでいく討伐隊が増えるって事は、つまり俺の活躍を間近で見る連中が増えるってことなんだからよ……! この俺にわざわざ餌を与えてるようなもんだ! 解析のタイムロスがあるとしても、ボスを倒す速度は明らかに俺が上だ! ここからは常に、俺が先手を取る!)


 凶悪な笑みを隠しつつも、ドライブリンカーのIP表示を確認。ルドウが違和感に気付いたのは、その時点であった。


「……?」


 少ない、と感じた。

 確かに、実績に見合う大量のIPを獲得してはいる。既にルドウの知名度も上がり、通常の戦闘結果にも迫るIPを、直接獲得できるようになっている。

 にも関わらず、増加量が少ない。終盤に至って加速するはずのIP獲得量の伸びが明らかに悪い。それとも、以前からずっとそうだったのか?


「今日の一番はルドウだが、二番手はイヅナ兄弟! お前らだな! 小浮島を十二体も、よく墜とした!」

「ヒャハハハハーッ! 隊長! 言っとくが俺達の虐殺ガトリングガンなら、あと二倍はいけたぜ! なあ兄貴!」

「ホッホッホッホーッ! ワタクシ達の二丁ガトリング抜銃術は無敵! シト先生直伝の、無敵の技術ですからねェ~ッ! ガトリングが二丁で、二倍強い! 二人合わせて四丁! すなわち毎分3000発が12000発という計算にございます!」

「今日は三人のために取っておきの酒を開けてやる! 飲み明かすぞテメーら!」

「「「ワアアアアアアアアーッ!!」」」


 勝利のムードに沸く討伐隊を前に、しかしルドウは歯軋りした。


(あ……あの野郎……!)


 何故、シトは教師型のデッキを用いてきたのか? 大葉おおばルドウは今更ながらにその意味を理解した。

 討伐隊の編成は、世界中の傭兵に弟子を持つシトの意向次第で如何様にも動く。彼は本当にルドウに餌を与えるためだけにそうしていたのか――


(……違う! 元々人目につきやすい地域のボスに……特に精鋭の討伐隊だけを動かしてやがるんだ……! どっちにしろ俺の優先順位が高かった狩場に、誘導するように! 周りの連中が強ければ強いほど、相対的に俺の功績が目立たなくなる! 得られたはずのIPが! IP潰しを仕掛けてきてやがったのは……奴の方だ!)


 仮にそうであるならば、ここからの戦略はどうなるのか?

 外魔存在の総量には限りがあり、ルドウの当初の見込みよりも、この世界で回収可能なIPは少なくなる。ルドウは親指を噛んで、必死に敵の思考を追跡した。シトのシークレットを予測している。


 敵は教師型。自らは動かず、長期に渡って安定獲得できるIPでルドウとの差を維持すると考えていた。


「つまり……つまり、つまり、討伐隊が今まで差し向けられていない、俺が【不正改竄ツールアシスト】で倒す効果も薄い、ってことだろう! オープンスロットは【達人転生スタートダッシュ】【不労所得パラサイト】【超絶知識ハイパーナレッジ】! なら、次に来るCチートメモリは……アレだ。もしも純岡すみおかにアレを使われてたら、俺の勝ち目がヤバイ!」


 ステータス画面を、今一度確認する。あと二体も外魔存在を撃破すれば、それでシトのIPを上回ることができる見込みだ。

 しかる後にラスボスを消去すれば、【不正改竄ツールアシスト】の完全性を証明できる状況。


 だが、残されている時間が少ない。ルドウにはそれが分かる。


――――――――――――――――――――――――――――――


「……大葉おおば。確かに貴様のデッキは完璧だ。そのCチートスキル四種のコンボに俺が介入する余地は殆どない」


 吹雪はまるで雷のような叫びを伴い、険しい山脈が人を阻んでいる。


 純岡すみおかシトは、数名の弟子を伴って雪深い山の奥地へと足を踏み入れていた。

 無論、この弟子はIPの獲得源を兼ねており、この一戦でシトはルドウのIP量を大きく引き離すつもりでいる。


「だが、それを使う貴様自身に付け入る余地がある」


 この先に潜む外魔存在は、ガスじみた肉体と認識汚染能力を併せ持つ星雲蝕獣。

 弟子の経験点を【不労所得パラサイト】で集約し続けたシトの銃技を以てしても、本来はこの段階で倒せるような領域の存在ではない。

 転生ドライブの最終目標たる陰陽螺旋を除けば、この世界で最強クラスの外魔存在だ。


「し、師匠! あれっす! 本当に出てきたっすよ!」

「直接見たら正気を連れ去られます! 怖い!」

「フン。問題はない……! 一撃で仕留めてやる!」


 彼が抜くのは、右の腰にある巫術拳銃ではない。ドライブリンカーのシークレットスロットである。

 その一つを隠すことで、シト自身がこのレベルの敵を直接倒す選択肢はないと、ルドウにそう信じさせた。


「……【超絶成長ハイパーグロウス】!」


――――――――――――――――――――――――――――――


純岡すみおかシト IP549,092,225 冒険者ランクSS


オープンスロット:【達人転生スタートダッシュ】【不労所得パラサイト】【超絶知識ハイパーナレッジ

シークレットスロット:【超絶成長ハイパーグロウス

保有スキル:〈究極射撃SSS〉〈早撃ちS+〉〈曲射SS+〉〈精密射撃SS〉〈スピードローダーS+〉〈ガンプレイS+〉〈銃知識SS〉〈防御貫通S〉〈教育学SS〉〈自然科学S〉〈経済学A+〉〈ギルドの主S〉〈資産運用A〉〈火法S〉〈水法C〉〈風法C〉〈完全言語A〉〈完全鑑定B〉〈剣技C〉〈数学B〉他260種



大葉おおばルドウ IP366,201,501 冒険者ランクS


オープンスロット:【不正改竄ツールアシスト】【絶対探知フラグサーチ】【不朽不滅エバーグリーン

シークレットスロット:【針小棒大バタフライ

保有スキル:〈法則解明SSS+〉〈幸運S+〉〈伝説の男SS〉〈持久力D〉


――――――――――――――――――――――――――――――


 同時刻。

 大葉おおばルドウは街の雑貨屋へと駆け込み、カウンターに薬草の葉を並べていた!


「間に合わねえ……純岡すみおかが次のボスを倒すより早く打倒ルートに入るには、時間が全然間に合わねえ……! 奴にはここまで積み重ねたスキルランクと実績がある……俺とは獲得倍率の桁が違う! 直接IPを稼がせちまったら、そこで終わる!」

「あんた何なんじゃ!? 確かにうちは何でも買い取るとは言っとるが、薬草一つずつなんてどれだけ時間がかかると思っとる!? 売るなら全部まとめて――」


 ルドウがカウンターに拳を叩きつける!


「うるせええええ――ッ! 時間分の手間賃なら先に渡してんだろうがッ! 俺が一つずつ売るって言ったらそうするんだよ! 言われたとおりにできねーってのか!」

「ひい! この客怖い!」


 薬草を売り、唐突に右に三歩進んでは一時間立ち止まり、再び店主に話しかけて商取引を再開! 整合的な現実感を失いつつある店内の中で、ルドウはついに求める存在を見出す……!


「それだ……! おい爺さん! その   をくれッ!!」

「えっ何!? 何て!?」

「   だよ! テメーその食料棚にある   が見えねーのか!」

「ウワッ本当だ何じゃこれ! ロープの束と同じ形してるのになんか禍々しい赤紫色の   としか言いようのない物体がワシの店に……! めっちゃ怖い!」 

「買わせろ! 997個だ!」

「997個!? いや、そもそも……売れるのか!? このよくわかんない物体、ワシの店にそんなに在庫があるのか!?」

「売れる! テメーの商品と俺を信じろ! 997個だぞ!」

「あ、あ、あわわ……! お代金、997個分……   が997個で、しめて譁・ュ縺ョ縺?になります……ひ、ひいいいい」

「負けるかよ……! 俺の、大葉研の……親父の研究は、この程度じゃねえ!」


 決意とともに、手に入れた謎の物体を食べ始める!

 因果が接続され、ルドウのみが観測する地平が拓ける――


「よし成功だッ! 合体するぞジジイ!」

「うわあああああああ」


 見えざる引力に引かれカウンターを貫通したルドウは、有無を言わさず店主の肉体へと潜り込んだ! 二人が融合した存在は緑色の肌を持つ教会神父の形状を取り、若い女の声を発する……!


「「お買い上げありがとうございました!」」


 狂気! 条理を冒涜する怪奇現象!

 これこそが極悪なるCチートスキル、【不正改竄ツールアシスト】の恐怖である!


 ――嵐の如き狂乱が収まると、元の雑貨屋である。

 そこには千切れ飛んだ薬草が散乱するのみで、ルドウの姿はなかった。

 乾いた風が吹き込んで、空の食料棚を抜けた。


「悪夢……悪夢じゃ……」


 ただ一人残された店主は、今しがたの出来事をそのように信じるしかなかった。

 彼はその日の店を閉めた。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ルドウは……自分のIPよりも純岡すみおかクンの妨害を優先した……! 純岡すみおかクンよりも一手早く、星雲蝕獣を倒そうとしている!」

「ああ! でもシトも速え! 【超絶成長ハイパーグロウス】の成長率がこれまでの経験点にかかってたなら……あの敵も間違いなく一撃だ!」


 この一体をシトが仕留めれば、ルドウは巻き返し困難なIP差をつけられることになる。逆にルドウが妨害に成功すれば、シトが次の一体を倒しに向かうまでの時間で、ルドウはIP差を逆転し直接勝利することが可能だ。


 これはただの試験運転だ。大会とは関係のない野試合に過ぎない。

 だが本領を発揮した大葉おおばルドウは、全日本大会進出を決めた純岡すみおかシトをこれほどまでに追いつめる転生者ドライバーであった。彼もまた強者!


「どっちが勝つの!?」

「ウオオーッ! どっちだ!!」


 超世界ディスプレイの中では、今まさにシトが一撃を放ち――


――――――――――――――――――――――――――――――


 シークレットを開放したシトは、必殺の一射を撃ち抜いた。

 弾丸が過たず敵の存在核を貫いたことを、銃手の超絶の視力が確認している。


『mne oma dee pon saer……』


 星雲蝕獣のガス状肉体の中に、次々と赤い星が灯り……そして全体が煙のように霧散していく。星の創造より長くを生きた強大存在の消滅である。


「……俺のほうが速い」

「クッ…………!」


 視線の先には、空間より転がり出た大葉おおばルドウの姿がある。

 無様に雪山に転がり、消滅していく星雲触獣を眺める他にない。

 当然、シトの動向を寸前で察知してここに現れたのだ――彼には【絶対探知フラグサーチ】のCチートメモリがある。


 ……だが、ルドウ自身がシトの戦略に気付くタイミングはどうだったか。

 法則を改竄した瞬時の転移も、シトの銃弾が敵を打ち倒すより僅かに遅かった。

 【不正改竄ツールアシスト】はその使用難易度の高さ故に、即興で攻略ルートを変更することは容易な芸当ではない。


「だが……」

「クク」


 シトの声を遮るように、その場に歓声が轟いた。


「「「ウワアアアアアアーッ!」」」

「あいつ何者だ!?」

「現れた瞬間に星雲蝕獣をやっちまった……!」

「師匠ですら勝てるかどうか分からなかったのに!」


 それはシトの背後に連なる弟子達である。たった今のシトの戦闘の一部始終を見ていたはずの。ルドウが現れた時点で、シトはこの結末も悟っていた。

 溜息をついて、銃を下ろす。最後の最後で、一手を上回られた。

 ルドウはニヤリと笑って、白々しく勝ち名乗りを上げた。


「クククク……ヒヒッ……え、ええええ~ッ!? い、今のはそこのシトさんがやったことで……ぼ、僕じゃないんですよォォォォ~ッ! ……ク、クク……! クヒャハハハハハハハハハハハハ――ッ!」

「……見事だ、大葉おおば!」


――――――――――――――――――――――――――――――


純岡すみおかシト IP549,092,225 冒険者ランクSS


オープンスロット:【達人転生スタートダッシュ】【不労所得パラサイト】【超絶知識ハイパーナレッジ

シークレットスロット:【超絶成長ハイパーグロウス

保有スキル:〈究極射撃SSS〉〈早撃ちS+〉〈曲射SS+〉〈精密射撃SS〉〈スピードローダーS+〉〈ガンプレイS+〉〈銃知識SS〉〈防御貫通S〉〈教育学SS〉〈自然科学S〉〈経済学A+〉〈ギルドの主S〉〈資産運用A〉〈火法S〉〈水法C〉〈風法C〉〈完全言語A〉〈完全鑑定B〉〈剣技C〉〈数学B〉他260種



大葉おおばルドウ IP366,201,501(+405,160,423) 冒険者ランクS


オープンスロット:【不正改竄ツールアシスト】【絶対探知フラグサーチ】【不朽不滅エバーグリーン

シークレットスロット:【針小棒大バタフライ

保有スキル:〈法則解明SSS+〉〈幸運S+〉〈伝説の男SS〉〈持久力D〉


――――――――――――――――――――――――――――――


「な……なんだこりゃあ!? 敵を倒したのはシトなのに……IP加算されたのは、ルドウの方だッ!」


 ステータス画面を注視していたタツヤは、IPの誤表示を疑った。

 確かに、シトの一撃のほうが早かったはずなのだ。


「――【針小棒大バタフライ】の本来の効果だ」


 たった今、如何なる事態が起こったのかを、星原ほしはらサキは理解できた。

 カタログで見たばかりの効果だ――身の丈に合わぬ功績の場に時、その功績を己のものとすることができる。


 ルドウがシトの作戦に気付いた時には、撃破ルートに入るだけの時間はなかった。


「だから修正したんだ。ただ居合わせるだけのルートに切り替えた! もしも出遅れても、ボスを消滅できなくても……もし純岡すみおかクンが絶対にボスを倒す、その場に居るだけで……普通じゃ使えない【針小棒大バタフライ】の条件を、完全に満たす状況だったんだから!」


 もはや、試合は決着だ。星原ほしはらサキはポケットから眼鏡を取り出し、試合の最中、二人の戦略をメモし続けていたノートを睨む。

 サキが彼らの思惑に辿り着くことができたのは、こうして結果を見せられたからに過ぎない。ここに至るまで、二人の間にはどれだけの読み合いの応酬があったのか。


「ルドウは、最初に見せた【不正改竄ツールアシスト】で純岡すみおかクンの速攻以外の選択肢を潰した。けれど純岡すみおかクンは【達人転生スタートダッシュ】の有利を【超絶知識ハイパーナレッジ】と【不労所得パラサイト】で固定するプレイングで長期戦を仕掛けた。世界の戦力レベルを上げて……自分は【不労所得パラサイト】の効果を高めながら、ルドウが【針小棒大バタフライ】で得られるIPをじわじわと削ってた。一石二鳥の作戦……」


 IP差が示す通り、序盤はシトが一方的に優勢の展開だったはずだ。

 シトはルドウの【不正改竄ツールアシスト】に付随する初動の遅れを逃さず、ほぼ完璧に世界情勢を掌握していた。


「そして、残していた最強レベルのボスを【超絶成長ハイパーグロウス】で倒した……けど、純岡すみおかクンに弱体化されてた【針小棒大バタフライ】が、ここで復活したんだ……! 間に合ったのは、【不正改竄ツールアシスト】のために積んだ【絶対探知フラグサーチ】で純岡すみおかクンの動向を把握できたから! 【絶対探知フラグサーチ】! ルドウがこれに気づけなかったら、純岡すみおかクンが勝ってた!」

「サ、サキ……異世界転生エグゾドライブの天才かよ!?」


 天性の感覚で最適解を掴み取るつるぎタツヤとは、全く異なる転生ドライブスタイル。

 互いにCチートスキルを駆使した手の内を読み合い、幾重にも戦略を張り巡らせ、そして僅かな紙一重で大葉おおばルドウが上回ったのだ――これが理論型の転生者ドライバー同士の戦い!


――――――――――――――――――――――――――――――


「ギャハハハハハハハハ! いやあぁ~ッ、うめェ、うめェ!」


 本来の性格をもはや隠すこともなく、ルドウは手を叩いてシトを煽った。

 この一手によって、逆にIP差を広げられた。彼の攻略完了までにシトが可能な手立ては何も残されていない。

 たとえここで直接攻撃ダイレクトアタックを試みたとしても、ルドウには【不朽不滅エバーグリーン】がある。


「うめェ勝利を喰わせてもらったぜ! 全国大会出場者の純岡すみおかサマよォ~ッ!」

「……フン。俺がこいつを倒せるレベルだと見切っていたか」

「ケッ、ムカつく野郎だぜ……敢えて最初に【超絶知識ハイパーナレッジ】を見せて、方向性の違うハイパー系……【超絶成長ハイパーグロウス】を意識から外しやがったな。テメーは最初から両方使うつもりだったわけだ。ギリギリだったよ……正直な」


 衆目を意に介することもなく、ルドウは雪山にぶちまけた所持品を並べていく。

 この世界の最後のバグを呼び出すために。


「だがまあ、反省会は後だ。クリアまでのルートなら、六年前にできてる」



 大葉研究所地下1F実験室、野試合。

 世界脅威レギュレーション『単純暴力B』。


 攻略タイムは、17年7ヶ月29日22時間45分23秒。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る