【達人転生】
「俺は【
「マジにやるならシークレットに隠して不意打ちでブッ刺す
「ええー!? でも俺と戦った時はそれシークレットだったじゃねーか!」
「うっせバーカ! バァーカ!」
タツヤの指摘には、敵意を剥き出しにして吠え返した。
――【
全日本大会予選トーナメントにて、ルドウが満を持して投入した秘密兵器である。
世界を構成する法則の綻びを突き、一見して無関係な因果をゲームのバグめいて接続する事で、望む結果を直接に得る。
ある意味ではデパートの二人組が用いたメモリ以上に万能とすら言える、大葉研究所が生み出した最強の
だが、この
「貴様の第一回戦での
「欠点を埋め合わせる構築は完成した。俺のデッキの中身が読めるか、
「いいだろう。受けて立ってやる。世界脅威レギュレーションは『単純暴力B』だ」
「ヒヒヒ! いいぜェー」
両者は転生レーンに並び立ち、互いの
シトが挑む全日本大会のレギュレーションはオープンスタイル――両者が三種の
「そうそう……大葉研の筐体は普通に出回ってるやつと違って、安全装置やら検知機能やら取っ払ってっからな。うっかりドライブリンカー付け忘れたらリアル轢殺されるぞ。ギャハハハハハハ!」
「フン。ありがたい忠告だ」
会話を交えつつも、両者は
「俺は【
「
「これくらいならフェアの範疇だろ? テメーの番だ、
「【
「ほー」
シトが迷わず選択したメモリを見て、ルドウは興味深げに息を漏らした。
敵の表情を覗き込む。いつもの如く、氷めいたポーカーフェイスだ。
「なんだそりゃ。【
「長考は無用だ。始めるぞ」
「ケッ! ついつい、癖なもんでな……! レディ」
「……レディ」
研究用筐体に自動カウント機能はない。ルドウは無骨な押しボタンに拳を叩き付け、轢殺ブロックを作動する!
「「エントリー!!」」
瞬間、コンプレッサーに充填された圧縮空気が解放、轢殺ブロックを耳を劈く爆音と共に射出! 研究電子機器に配慮した電磁石不使用の圧縮空気轢殺機構だ!
二人は同時に
――――――――――――――――――――――――――――――
「【
二人の姿が消えた地下研究室の中で、
両者のステータス表示は商業用とはまた異なるインターフェイスで、使用
「タツヤ。【
「ああ! 前世がなんかの達人だった設定で、最初から凄え強いランクの戦闘スキルを獲得できるんだ。俺もよく使うなー」
「ふーん。
サキは
内政や経営、技術開発に有利な【
(だけど……見て分かるミスマッチってことは、
「ウオーッ! シト! ルドウ! がんばれよ!!」
手でPCモニタを掴んで叫ぶタツヤをよそに、サキは考えを巡らせている。
シトの戦略は不可解だが、ルドウの戦略はそれ以上に謎だ。
(確か……あの時のルドウの負け方って)
全日本大会関東地区予選トーナメント第一回戦。ルドウはタツヤに対し史上最速の決着を宣言し、事実その通りになった。
(――自滅だ。今なら、あの時何が起こったか分かる気がする。開始直後にラスボスが倒されたことになって、IP判定で負けたんだ。ラスボスを倒したのに、ルドウはその分のIPを獲得できなかった)
その試合結果の裏を返せば、【
即ち、【
「……! だから【
――――――――――――――――――――――――――――――
彼は今――自宅の階段支柱に、一心不乱に頭をぶつけ続けていた!
(ラスボスまでのルート解析に九年。上々の成果だが、
正確に一定のペースで頭をぶつけ続けながら、靴を脱ぎ、履き、脱ぎ、左右を入れ替えて履く。一足の靴は、その過程で右足側だけが一つ余分に増殖した。
ルドウは増殖した分の靴を頭に被った。存在があやふやな靴はそれで消失する。
これぞ【
(目撃者のいない地点のボスを倒しても、何も意味はねェ……! まずは東の術華街のド真ん中に居座ってやがる、月の天孫の手。そいつからブチ殺す!)
不揃いの靴は既に十六足にまで増殖していた。出し抜けに階段を上り、後ろ向きのまま自室の扉を開けて閉め、3時間をその場で待ち、もう一度開けた。
「頼むぜ【
後ろ向きのまま飛び込むと、そこは黄と橙の光の洪水が夜を満たす、木の楼閣の街。術華街である。
道を行き交う人間や屍人が、一様に驚きの声を上げた。市街中央の塔を貫いて生える、龍と大樹を掛け合わせた異形が崩壊していく様があった。
「HWOOOOOOOOOOO!」
絶叫と共にのたうち、微細の糸と化してほどける。
因果不明の、理不尽極まる死。目に見えぬ神経によって住民の苦痛を喰らい、人の営みに膨れ上がり成長を続けた月の天孫の手の、それが終焉である……!
「よし……! 成功だ!」
「あ、あんた……」
住民は突如として現れたルドウに驚愕する事もなく、しかし僅か9歳の少年に対し、通常あり得ぬ質問をした。
「まさか、あんたがあれを倒したのか!?」
(こっちも成功――)
無論、
「ひ、ひいいい~っ! ぼ、僕じゃないんです! これは何かの間違いで……!」
「いいや! あんたがやったに決まってる! あんたはこの街の英雄だ!」
「俺たちは自由なんだ!」
「救世主が現れたぞ! 名前を聞かせてくれーッ!」
「勘違いなんですゥ! 助けてくださーい!」
強大極まる【
【
そして【
ルドウはシークレットスロットを開放した。この戦略に当たって、ルドウはそれを単なる第四のオープンスロットとして用いている。
「【
――――――――――――――――――――――――――――――
「バ、【
「【
「全然知らねえ!! なんだこれ!」
「知らないのかよ!」
もしも
【
「……いや待った! あー! 売り場で見たような気はするんだよな~! でも効果は全然覚えてねーんだ……! 使ってる奴も全然見たことねえよ!」
「使い手の少ない、マイナーな
サキはリュックサックのジッパーを開いて、大判の雑誌を取り出した。
それこそはまさしく、WRA発行の
「おお、用意がいいなサキ!」
「アタシもちょっとは勉強しようと思って、買うだけ買ってみたの。
【
例えば強大な敵を打ち倒した英雄の獲得するはずだったIPを、代わりに自分自身のIPとして加算する――
「えっと……つまり自分が弱いままで、強い敵をいい具合に倒せそうな人達の近くにいて、自分は生き残ってないといけないわけ!? つ……使いにくっ!」
「そうだ、確かそんな効果だったな……! でも【
「でも、ルドウの変な言動の意味もよく分かった……! あれは『大した実力もないのに持ち上げられて困惑している奴』だッ! これがルドウの見つけた、【
ルドウもまた、あの時の敗北の経験から捜し求めたのだろう……そのままでは勝利に結びつかない【
そして一線級とは程遠い
「自分とは無関係の功績に居合わせることなんて、簡単にできるんだから!」
――――――――――――――――――――――――――――――
西端の辺境にて、彼は硝煙を吐くリボルバー拳銃を構えている。蛮族の首魁にして恐るべき竜人、イスフォーゴーは、振り上げた大剣を下ろすことなく倒れた。
「くだらん。この世界にもこの程度の敵しかいないのか?」
華麗な〈ガンプレイS〉を決めながら言い放ち、周囲の剣士からIPを稼ぐ。【
「敵が目にも留まらぬ速さならば、それ以上の速さで抜けばいい。刃の通らぬ装甲ならば、一点に六発を着弾させればいいだけの話だ。この世界の連中はそのような簡単なことも気付かないとはな……」
「なんて知性的な戦い方なんだ……!」
「しかも、すげえぞ……あの浪人のガキ、本当に刀もなしにやりやがった!」
「『拳銃』ってのはハッタリじゃなかったのかよ!」
最初から高ランクのスキルや装備を取得できる【
故にシトは、これより追い上げをかけるであろう
「おい……その妙な武器、俺達にも使えるのか?」
故にならず者の一団のざわめきに混じったその一言を、シトは聞き逃さなかった。
「……フン。貴様らも『拳銃』を使いたいというのか」
「ああ! 今回でよく分かったぜ。そいつはただのオモチャじゃねェ。刀よりもずっと離れた相手を、刀より素早く倒せる武器だ! 俺達もそいつを使えるようになりゃ、蛮族との戦いで無駄に死人が出ることだってなくなる!」
「お偉方が独占してる魔剣や魔道書なんかより、そっちの方がずっといい! どこで手に入る!」
「俺達に『拳銃』の技を教えてくれ!」
「……いいだろう。だが、技があったとして、まずはこの『拳銃』を量産しなければ話にならん。鍛冶や薬学の力を持つ者には手伝ってもらおう」
「お安い御用だ!」
「戦いに革命が起こるぜ!」
「早くクソ野郎を射殺したい!」
この戦いの実績で名を広めたシトは前線を退き、辺境の一国でリボルバー拳銃の増産に着手した。火薬の生成方法や拳銃の効率的な生産体制などは、【
世界脅威レギュレーションは『単純暴力』。そうした世界の者達がもっとも必要としているのは、より優れた戦闘手段と、戦闘技術を教える師の存在だ。
(【
この
シトは【
「シト師匠ォーッ! ヤベーっすよ! 術華街の月の天孫の手が、一夜でブッ殺されたそうで……これ、師匠の言ってたみてーな事件なんじゃねーっすか!?」
「ああ。外魔存在の突然死……ついに始めたようだな。まだこの手の話は続くぞ。情報を聞き逃さずにいろ」
「分かりました! そんで、銃の生産速度の話はどうしますか!」
「各国からの注文は多いが、ペースを焦れば少ない職人に無理をさせることになる。今週より有給は週二日だッ! 家族のある者には特別ボーナスもくれてやろう!」
異世界におけるホワイト企業経営! IPを大量獲得!
そして……彼がルドウを引き離す策は、このただ一つではない!
――――――――――――――――――――――――――――――
オープンスロット:【
シークレットスロット:【????】
保有スキル:〈射撃S〉〈早撃ちS〉〈曲射S〉〈精密射撃S〉〈スピードローダーS〉〈ガンプレイS〉〈銃知識S〉〈教育学A〉〈自然科学B〉〈火法B〉〈水法E〉〈風法E〉〈人間言語A〉〈鑑定C〉〈剣技E〉〈経済学C〉〈数学C〉他30種
オープンスロット:【
シークレットスロット:【
保有スキル:〈法則解明SS+〉〈幸運A〉〈勇名C〉〈持久力D〉
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