【魔王転生】
「
……そして、試合の展開はこの局面へと至る。
【
【
何よりテンマ自身の
今の彼はテンマの
多大なダメージに咳き込み、シトは喀血した。
「ケホッ……何をすれば……そのIPで、ここまでの兵力を……!」
「抵抗はこれで終わりか? そうではないだろう。
今一度、敵のステータスを確認する。IP-6,132,789,199。酷すぎる。意図的に狙ったとしても、ここまで無残なIPにはなるまい。今までに見たことのない数値だ。
間違いなく、シークレットスロットが関わっている――
「君をこれから
「勝利だと……ならば何故……世界を滅ぼす……! そのIPでは、たとえ俺を排除した後、この異世界を救世したとしても……大差で貴様が敗北するだけだ!」
「私は、より合理的な手段を選んでいるだけだよ」
血に塗れたシトを見下ろしながら、テンマは傲然と告げた。
滅亡の炎に照らされた、まさしく鬼神。
「この試合の世界脅威レギュレーションは『資源枯渇B』。ならば資源を浪費する人類を全て排除してしまえば、それだけで救世は成ると思わないか?」
「……世迷言を!」
叫びとともに、最終手段を起動する。背後の中世風高層ビルが縦に爆ぜ割れ、その中身を露にした。全長50mにも達する超巨大ゴーレム。新型動力を六基同時搭載したそれは、最初からこのような事態に備えて開発させたものであった。
いずれ来るであろう
「来い! 異世界戦騎ッ! ドーンブリンガー!!!」
浮上魔力がはたらき、言うまでもなくシトは機体内部へと搭乗!
シトの伸ばしたスキル――〈全種運転SS+〉〈精密射撃SS〉との複合により、【
「おおおおおおおッ!」
シトは、残りIPを計算している。シークレットスロットを開放。
それは、
「――【
Aブロック準決勝にて
やり直しのたびにIPを大量消費する【
〈全種運転SS+〉を、〈殺人運転SS+〉へと変化!
〈精密射撃SS〉を〈ヘッドショットSS〉へ!
〈火光の術法A〉を〈火光の防御術法A〉!
〈古文書読解SS〉を〈神祖理解SS〉!
「悪手だな。【
天を真昼の如き白に染め上げる魔導クラスター爆弾の大量射出を見上げて、
降り注いだ爆光は、天地に割り込んだ光の魔法陣によって阻止されていた。
「テンマ様! ご無事ですかッ!」
それは、甲冑に身を包んだ一体のアークデーモンである。
東方軍団長、災いの墜星ゲドヴェルグの名は、テンマの名と同様に広まっている。
これぞ【
「――このように、標的以外の割り込みに対して極めて弱い。【
「百も承知……! この状況で助けに入れる者は、そいつ一体だけだと分かった!」
シトは残るIPを計算している。それが残弾だ。文明発展によって蓄え続けたイニシアチブを、この男を倒すために。
「……【
オープンスロットの
セーブ地点は、最低限の巻き戻し……【
「ほう」
「今一度受けてみるがいい……! 【
〈全種運転SS+〉を、〈殺人運転SS+〉へと変化!
〈精密射撃SS〉を〈魔力貫通射撃SS〉へ!
〈火光の術法A〉を〈火光の防御術法A〉!
〈古文書読解SS〉を〈神祖理解SS〉!
「面白い……! 本来一度しか使えない【
「テンマ様! ご無事でゲギャアーッ!?」
〈魔力貫通射撃SS〉! 魔導クラスター爆弾が、魔力障壁ごと災いの墜星ゲドヴェルグを貫通! 科学と魔導の壮絶な威力を受け、爆発して死ぬ!
「……見事だ。ならば私も今こそ見せよう。我がシークレットを」
迫る爆光。
そこに収まるものは、禍々しき漆黒の
「【
――――――――――――――――――――――――――――――
オープンスロット:【
シークレットスロット:【
保有スキル:〈魔導機械工学SSSS+〉〈政治権力A〉〈神祖理解SS〉〈機械操作SS+〉〈殺人運転SS+〉〈魔力貫通射撃SS〉〈火光の防御術法A〉〈雷霆の防御術法S〉〈殺人全力集中A〉〈完全鑑定A+〉〈魔力特定A〉〈特許法SSS-〉〈完全言語B〉他20種
オープンスロット:【
シークレットスロット:【
保有スキル:〈破獣拳SSSS〉〈神祖の血統S〉〈瞬動歩法SS-〉〈火光の術法S〉〈暗影の術法S+〉〈大軍統率SS〉〈完全言語B〉〈特攻戦術S〉〈神算鬼謀SS〉〈暴虐の威圧A〉他21種
――――――――――――――――――――――――――――――
それは、あり得ざる事態であった。
試合の流れそのものは、準決勝にてタツヤを逆転してみせたシトの構図に近い――
しかし
「黒い……
「お……俺にだって分からねェよ! 少なくとも、世間に出回ってるような……
ドライブリンカーによるIP獲得判定は、その世界における人類に準ずる種族か、人類に利益ある存在に示した優越性で決定される。
ならばテンマがこれまで見せた侵略と破壊に、何一つIP獲得の要因などはない。
「IP獲得判定の逆転……」
「
「敵を倒せばIPは上昇して、味方を倒せばIPは減少する! それが
「嘘だろ……!? 誰がそんなものを開発して……!」
「なんなんだよ! そんな
タツヤの怒りの叫びは虚しく響いた。
恐るべき事実である。尋常の
だが、それ故に――人類を救済するとは言っていないのだ。
「シト! そいつをブン殴る方法は何かねーのかッ!」
「テメーなら逆転の小細工くらい、何か仕込んでんだろうが!
「……シト……」
――――――――――――――――――――――――――――――
「グアアーッ!」
祈りも虚しく、決着の時は訪れる。
それは一方的な蹂躙であった。
「……【
無論シトも、テンマの表示IPを鵜呑みにしていたわけではない。それでも、これほどまでの実力差を、読みきれるはずがなかった。
「兵器の想定する絶対的な強度が、私の実IPに追いついていなかったようだな。……スキルを駆使した奇策など、所詮は生命線たるIPあってこそ成立するもの。そして【
もはや、あと一度のリセットを行うIPすらも残されてはいなかった。
「……何故だ」
屈辱と無力感に打ちのめされながら、シトは辛うじて言葉を発した。
「……本来は、そのような使い方を想定された
「さすがだ。初見のはずの
末期の言葉に、
この
「――君にもいずれ分かるだろう。全ては我々の目指す計画と、理想のため」
「……理想……」
最期にシトが見たものは、拳を振りかぶるテンマの、炎の影であった。
WRA異世界全日本大会関東地区予選トーナメント決勝。
世界脅威レギュレーション『資源枯渇B』。
攻略タイムは、23年1ヶ月3日15時間20分59秒。
――――――――――――――――――――――――――――――
「シト!」
「おいシト! しっかりしろ!」
「チッ……! 無茶しやがって! 最後の
極限の戦いがそうさせたのか。他の競技にもあり得るように、
応急処置を開始するルドウを置いて、
「おい、この野郎ーッ! ふざけるんじゃねェぞ! ここまでする必要があるのか! シトを40回もブッ殺して……異世界を滅ぼしてまで勝ちてェかよ!」
「君は……? ああ。
「だったらどうした! その
「……待、て」
タツヤを呼び止めた呻きは、他ならぬ
血の気の失せた顔面で、それでもタツヤを止めようと上体を起こしている。
「シト……!」
「そいつは……その男は、何も……反則など、しては……いない……!」
「な、何言ってんだよ……! 異世界の人間が滅亡しちまってるんだぞ! こんなのどう考えてもルール違反だろうが!」
「違う……!
法律や倫理どころか、法則までがこの現実と異なる異世界での戦いを、この世の誰が
その権利があるものは、ただ一つ。世界を行き来する転生装置にして、人生の優位を競うIPを算出し、異世界における権限である
偏見も心も持たぬ機械。ドライブリンカーただ一つだ。
試合の前後での非紳士行為の禁止。最大四つの
「俺の……敗北を……汚すんじゃあない! タツヤ!」
「……くそッ……!」
彼らの会話をよそに、テンマに歩み寄る少年がいた。
「テンマさァん。そろそろですよォ」
「うむ」
「しかしまァ、
「……
異世界にて全ての対話は終えたと言わんばかりに、
覇王は口を開いた。
「――会場の皆さん。今の試合の凄惨さを、目に焼き付けていただけたと思う」
それは
「この戦いを優勝した今、遠慮なく断言させてもらおう。これこそが真の
「何を言ってるんだ、この男は!」
「冗談も休み休み言え!」
「
「本当に中学生なのか!?」
観客が口々に上げる声を意にも介さず、テンマは空に突き出した掌を握った。
「皆さんは想像もしていないだろう。我々のような組織の存在を。我々の同胞が、既に――全国各地で、このように勝利を収めていることを!」
顔は逆光に隠れているが、その全員が黒衣。その全員が全日本大会への進出者。
そして。その全員がテンマと同じく、悪しきメモリの使い手である……!
「我々『アンチクトン』は……日本全国の
力なく倒れたままで、その恐るべき宣告を聞き届けるしかなかった。
「アンチ……クトン……!」
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