重なり合う世界

 雪乃は湯船に浸かりながら、今日のことを考えていた。

 コンビニで埃まみれになってしまった雪乃は、家に帰るや否や母の質問攻めにあった。隠しても近所の事ですぐばれてしまうので、コンビニで事故に遭ったことは話した。ただ、また死にそうな目にあったと正直に言ってしまうと、凄く面倒な事になりそうだったので、そこらへんは適当にぼやかしてはいたが。

 それでも、事故のことは色々と聞かれたが、雪乃に大した怪我がない事が分かると、今度は、追い立てられるように風呂に入らされた。かすり傷をしたところが染みたが、事故で受けたストレスがお湯の中でほぐれていくのを雪乃は感じていた。落ち着いてくると次第に頭の中も冷静になってきた。

 天井についた湯気を見ながら、雪乃は事故のことを改めて振り返った。

 (あのままいたら…)

 車が猛スピードで店に飛び込んでくる場面が、その脳裏によみがえった。ぐしゃぐしゃになったあの本棚も。

 (また、助けられたんだ…)

 冬哉が雪乃を引き寄せ、そのまま抱きかかえるようにうずくまる場面が頭に浮かんだ。

 (でも…)

 雪乃の手を引っ張る冬哉の姿を思い出しながら、雪乃はなにか違和感を感じていた。

 (なして、あの時、急に)

 冬哉が来てすぐ自分の手を引いていったが、こんな事故が起こるような気配は、そのとき微塵もなかったように思う。にもかかわらず、冬哉があのSUVのことをずっと気にしていたように、雪乃には思えた。

 (ああなるの、知ってた?)

 あのときの冬哉の行動は、事故のことを事前に知っていたとしか思えないような行動だった。

 (したっけ、あの場所指定したの冬哉さんだし…)

 天井から落ちてきた湯気が雪乃の顔に落ちてきた。その冷たさに一瞬顔をしまめながら、昨日の会話を思い出していた。

 『明日、さっきのバス停のとこのコンビニで待っててくんないか?』

 『時間は、そうだな、8時くらい』

 『遅れるかもしれないけど、立ち読みでもして待ってて』

 『話したいこともあるし』

 そして、事故のあとの会話。

 『ああ。もういいんだ…』

 脳裏に浮かぶマフラーのない首もと…。

 さっき感じた違和感が、更に大きく膨らんでいた。

 (わざと…)

 雪乃はすぐにかぶりを振った。

 「そんなわけないっしょ!」

 思わず言葉が口から出ていた。そして、その言葉を打ち消すように、雪乃はそのまま頭から湯船に潜った。


 次の日も…。

 雪乃はずっと昨日の事故のことばかり考えていた。午前中の授業が終わり、昼休みになっても変わらず、学校の廊下をずっと考え事しながら歩いていた。

 (そうだよ!知ってるわけないべさ。冬哉さん、超能力者だとでも言うんかい)

 途中、何人もの生徒がすれ違いざま雪乃に声をかけるが、それに気付くことなく歩いていった。

 (第一、わざとあそこに誘ったんだとしても、間際に助けに来たりするかい?)

 周りにも気付かず、ただ難しい顔をして歩いている雪乃の姿を、周りの生徒がいぶかしげに見ていた。

 (じゃあ、知らなかった?したら、なしてあんなふうに外に連れ出すことが出来たんさ?)

 前方から男子が走ってきて雪乃にぶつかりそうになったが、雪乃はそれにも全く気がつくことなくまっすぐ歩いていった。

 (でも知ってたら、なしてあそこをわざわざ待ち合わせなんかに…)

 もう何度繰り返したか分からない思考の堂々巡りに嵌ったまま、雪乃は昼のパンの販売でごった返す購買部についた。雪乃は考え事をしたまま、ガラス張りの冷蔵庫から牛乳を取り出し、そのまま元来た廊下をもどっていた。もちろんお金は払っていないが、あまりにも自然なその動作に誰もそのことに気付いていなかった。気づいていないのは当の本人も一緒だった。

 (そういえば…)

 動物園の帰り、冬哉のポケベルをあたふたと止める姿と、その後、難しい顔でバスの窓からじっと外を見つめる姿を思い出していた。

 (あのときから、様子がおかしかった…)

 そして、バスをおりたあと、冬哉がまっすぐ雪乃の家に向かう姿を思い出したところで、雪乃は足を止める。

 (あのとき、あたしの家どこにあるのか知ってたみたいだった。教えたことないのに…。初めて来たはずなのに…。なして…)

 考えれば考えるほど、疑念が深まっていく。考えることを止められなくなっていた雪乃は、思考の渦に引きずられるかのように、またふらふらと歩き出していた。

 その前方の廊下に、瑞枝が壁に寄りかかり腕組みして立っていた。しかし、雪乃はその姿に全く気付くことのなく瑞枝のほうへと近づいていった。そして、その手前まで来ると、急に立ち止まって、頭をかきむしりながら大きな声を出した。

 「あーっ!もう、わかんない!頭が破裂する!もう、やめた!考えるの!」

 「ああそうね。そのほうがいいんでないの(良いんじゃないの)」

 瑞枝は腕組みしたまま雪乃の独り言に返事をした。

 「わっ!いたの?」

 「いたのじゃないよ!あんたはね、何かに熱中したり、考え込んだりしたら、すぐに周りが見えなくなって、たまにとんでもないことすんの!」

 ようやく、我に返った雪乃に、瑞枝は怒鳴りつけるように言った。

 「な、なして、いきなしそんな風に怒ってるのさ」(いきなし=いきなり)

 訳も分からず怒鳴られた雪乃も、思わず言い返した。

 「とんでもないことってなにさ!あたしがなんかしたんかい!」

 瑞枝は雪乃が手に持っている牛乳を指差した。

 「雪乃、手に持ってるのなにさ?」

 「えっ、牛乳…」

 「それ、お金払ったんかい?」

 雪乃はやっと自分が本当に『とんでもない事』をしてしまっている事に気付いた。

 「わっ!わっ!わっ!」

 雪乃は叫びながら、牛乳を持った手を瑞枝の前に差し出して、

 「瑞枝、どーしよう、どーしよう!これ」

 「すぐ払ってきな」

 瑞枝は、腕組みしたままあごで購買部の方向を指して言った。

 「うん、うん、わかった、わかった!」

 雪乃は何度も頷き、回れ右で購買部へ飛んでいった。走り去る雪乃をみて、瑞枝は小さく溜息をついていた。


 その日の放課後。

 いつもの喫茶店のいつもの席に二人は座っていた。

 窓から夕方の日が差す中、雪乃は宿題をしていた。暫くすると、少し顔を上げチラリと上目遣いに冬哉を見た。冬哉は手に本を開いて持っているが、本のほうは見ずに、考え事をしているような難しい顔をして、ぼーっと窓の外を眺めていた。雪乃はその様子を見て、少し考え込むように視線を落とし、小さく溜息をついてから、宿題に戻っていた。

 カウンターの中で食器を拭いていたマスターは、そんな二人の様子を少し心配そうに見ていた。


 次の日の休み時間。

 雪乃は自分の席からぼーっと窓の外を眺めていた。その様子を少し離れたところから瑞枝がじっと見ていた。そこに、桂子が寄ってきて小さな声で話しかけてきた。

 「雪乃ちゃん、どうしちゃったんだろう。朝からずーっとあんなんだねぇ」

 瑞枝は何も言わず、横目でチラリと桂子を見た。

 「彼氏とうまくいってないのかなあ」

 桂子の言葉を聞いて、瑞枝は急に怒り出した。

 「知らんわ!そんなの」

 大きな声でそう言って席を立つと、スタスタと大股で歩き、教室を出ていった。

 「え、なに。どうして怒っちゃったの?ねえ」

 桂子も瑞枝を追いかけて教室を出て行った。一瞬クラスがざわつく中、雪乃だけは相変わらずぼーっと外を見ていた。


 そして、その日の放課後。

 普段は何食わぬ顔をして、カウンターで作業をしているマスターたが、この日はあからさまに客席のほうを気にしていた。視線の先には、いつもの席に座っている雪乃と冬哉がいた。冬哉は相変わらず本を手にしたまま難しい顔をして窓の外を見ていた。雪乃もシャーペンを片手に参考書を手に公式を小さな声で暗唱しているが、なかなか集中できない様子だ。

 「質量mの物体を動摩擦係数μの床で水平方向にTの力で引くときの運動方程式と加速度… m a = T - μm g で、a=… a=…。あー、なんだったっけ」

 雪乃、上を向いて暗唱していた顔を参考書に一旦戻した。が、すぐに少しだけ顔を上げ、上目遣いに冬哉を覗き見た。冬哉はその視線に気付いて言った。

 「なに?」

 「いや、なんも…」

 と言って、あわてて視線を落とす雪乃。冬哉も再び外に視線を戻した。また少しすると雪乃は上目遣いに冬哉をじっと見つめた。冬哉は、その強い視線を感じ、少しイラついたような口調で話しかけた。

 「だから…。なに」

 「えっ」

 「さっきから人の顔見て…」

 「えっ、あの、その」

 聞かれて思わずあたふたする雪乃。

 「いや、だから、その…」

 言い訳を探していた雪乃は、冬哉が持っていた本の表紙にあった、『量子論』の文字に目を留めた。

 「そ、それ、りょ、量子論の本ですよね」

 「そうだね…」

 「いま、物理で四苦八苦してるから、そんな難しいの…。なんか、すごいなあって…」

 「あ、そう…」

 と言って冬哉は再び外に視線を戻した。ただ、冬哉と何でもいいから話がしたかった雪乃は、ようやく得た話の取っ掛かりを逃すまいと、その話題で知っていること全てを吐き出すように話しだした。

 「あ、でも、でも、量子論って、昔、ちょっとだけ読んだことあるんです。いや、そんな難しいのじゃなくて、絵が一杯あって、入門書って言うか、サルでも分かるって書いてあったやつで…。あたし、物理とか苦手だけど、あれは、公式とかなんか一杯あって、すっごくややこしいからダメなんですけどね。でも、わたしSFとか好きだから、読んでみたんです。ちょっと、ちょっとだけですけどね。難しかったけど面白かったです。あれ、その、えーっと…。なんだったっけかな?そう、猫!猫の話とか強烈に印象残ってます。印象に残っているし、おもしろいなあとは思ったんですけど、結局、理屈はよくわかんなかったんだけど…」

 「シュレディンガーの猫ね」

 外を向いたまま、冬哉はポツリと言った。

 「そう、シュレディンガー!シュレディンガーの猫!そんな名前です」

 冬哉、ぼーっと外を向いたまま、誰に話すという感じでもなく続けた。

 「量子論に関する有名な思考実験。まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターが1台、それと青酸ガスの発生装置を1台。そして、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動する仕組みにする。で、装置が作動して青酸ガスが発生すれば猫は死ぬ。だけど、量子力学の確率解釈では、粒子は様々な状態が『重なりあった状態』で存在し、観測することによって初めて、粒子はいずれかの状態に収束すると考えられるから、原子核のアルファ崩壊によって起こるアルファ粒子の放出も、観測されるまでは放出されるケースと放出されないケースが『重なり合った状態』で存在している事になる。だから観測されるまで、つまり、箱の蓋が開けられるまでは、猫は死んでいる状態と生きている状態が『重なり合った状態』で存在しているという奇妙な状態になる。当時のコペンハーゲン学派の唱える量子論の確率解釈に対する批判として、この思考事件は提出された」

 淡々とではあったが、一気に話し出した冬哉に雪乃は戸惑った。言っている事もあまりよく理解できていなかったが、それでも雪乃は必死になって相槌を打った。

 「そ、そう。そんなような、話でしたね」

 冬哉は更に続けた。

 「20世紀後半には、確率解釈は実証的に正しいものとして認識されていたようだけれど、この確率解釈自体どうしても感覚的に受け入れがたい部分が出来てしまう。でも、アルファ崩壊が起きるから、猫が死ぬって考えるのではなくて、蓋を開けたとき猫が死んでいるか生きているか、先に結論が出ていると考えれば、今、観測前の状態でアルファ崩壊が起きているかどうかは、改めて考えなくても問題はなくなる」

 冬哉が何を言っているのか、雪乃にはだんだん理解できなくなっていた。

 「え、どうゆうこと、です?」

 「物事は当然原因があって、結果があるはずだけど、実は結果が先にあって、そこからたくさんある可能性から一つが原因として導き出され、収束していくとしたら」

 雪乃、ますます話しについていけず、少し首をかしげ黙って聞いていた。

 「時間の流れを逆に考えれば分かると思う。要は、蓋を開けたとき猫が死んでいれば、開ける前に粒子は放出されていたわけだし、生きていれば粒子が放出されなかったわけで、その先に見られるはずの結果次第で、すでに観測前の状況は固定されていると考えれば、観測前はその時点でどんな状態であっても、つまり見た目上、いろんな可能性が『重なりあった状態』であるように見えたとしても、なにも問題はなくなるんじゃないかな」

 「時間の流れを逆に…?」

 「時間は過去から未来へと流れているように感じるけど、実は未来から過去へと形作られていて、一瞬先の事象を元に、現在の事象がいくつもの可能性の中から一つ一つ辻褄を合わせるように収斂しているんだと考える事も出来るんじゃないかな。更に、宇宙は大きな事象から順々に結果と原因がきっちり辻褄合わせられているけど、宇宙の最小単位、ミクロの粒子の世界までは来るときっちりと因果律を合わせる必要がなくって、結果と結びつく前の混沌とした『重なり合った状態』が表に現れてくるんじゃないかと考えると。なんとなく合点がいくような気がする」

 突拍子も無い話になって、雪乃は戸惑っていた。

 「いや、でも、未来から過去に時間が流れてるって…。やっぱり、違うような…」

 「流れてるんじゃなくて、形成される方向が見た目とは逆じゃないかって事。電流は電子の流れでプラスからマイナスに流れているけど、実際に電子はマイナスからプラスに流れているように、見た目の感覚と、実際の事象が全く違っているなんてことままあることで、ガリレオやコペルニクスの時にもうすでに実証されている」

 「うーーーん。でもなあ…」

 そういうと雪乃はしばらく考え込んだ。冬哉は相変わらず外を見つめたまま。

 「なんとなく、言ってることは分かる気がするんだけど…。未来から現在が形成されるってことになると、未来はもう全て決まってしまっていることですよねえ。自分の将来とか全て決まっていて、変える余地もないってことで。それって、凄く面白くないって言うか、つまんないって言うか…」

 この言葉にも、冬哉は外を見たまま、独り言でも言うように続けた。

 「全く変える余地がないってことはなくって、人間の意識とか感情っていうのは、物理法則とは全く別のところで動いているから、コントロールしきれない部分があって、それが不確定要素になっているって考えられないかな。そして、そのことでまさに気まぐれに、一瞬先の未来とつながらない現在が選択されてしまう事があって、そのことで小さな改変が起きることはよくあることだと。ただ、それは右足から歩き出すところを左足から歩き出したりといった小さなことで、さすがに、大きく未来を変える事は起き難いんだけど。でも、それも全く起きない事でもなくて、ごく稀にだけど、強い意識の力で未来に大きく影響を及ぼすような変化が起きることがあるとも考えられないかな」

 最後に、相変わらず外のほうを向いたままではあるが、少しキッと厳しい表情になって冬哉は言葉を続けた。

 「そう、強い意志が、未来を…、運命をも変えてしまう事もあるって」

 ここまで言って、冬哉はすっかり黙り込んでしまった。雪乃はすっかりその話に感心した様子で目を丸くして冬哉を見つめていた。

 「冬哉さん、それってなんかの本で読んだ話ですか?」

 冬哉、その言葉に初めて「ハッ」と我に返り、雪乃の方を見る。

 「えっ?」

 「いや、時間が未来から過去に形作られてるって、全く聞いた事ない話だけど。内容も良くは分からなかったんだけど、なんとなく納得できるような気がして。なにか偉い学者さんが書いたか何かかなと思って」

 「いや、その、そんなんじゃないけど」

 なぜか、急にしどろもどろになる冬哉。

 「じゃあ、冬哉さんが考えたことなんですか?凄いなあ。あたしなんか思いもつかない」

 「いや、その、ね…。あ、ごめん。俺、今日用事あるんだ。もう行かないと」

 と言って、冬哉は急に立ち上がった。そしてテーブルに千円札二枚置き、

 「悪い、これ払っといて。おつりはいいから」

 と言い残し、出口へ向った。雪乃もお札を持って立ち上がり、冬哉の方を向いていった。

 「あ、冬哉さん、これ、こんなにいらない」

 「いや、いいから。ごめんな、急に、じゃ」

 冬哉はそのまま逃げるように外に出てしまった。雪乃はその姿をそのまま見つめ、小さく溜息をついてから、寂しそうにゆっくりと座り、目の前のアイスティーのストローに口をつけた。


 その少し離れたところで、自転車から降りて手にハンドルを持ったまま、瑞枝がじっと立っていた。瑞枝は暫く前にここに来て、一部始終を見ていた。そして、雪乃が独りになると、ゆっくり自転車を押して、その場から離れていった。


 それから暫くして、雪乃は少し肩を落とし元気のない様子で喫茶店の外に出た。そして、ショーケースのほうを振り向いて、中にいるテディベアを見つめて言った。

 「バイバイ…。明日も、また来るからね…」

 そう言って軽く手を振ると、雪乃はゆっくりと自分の自転車が止めてあるところに向かった。

 買物公園に出て、自分の自転車が置いているところにつくと、鍵をはずそうと前輪の前にかがんだ。すると、自分とよく似た格好の足が、自分の視界を横切り、通り過ぎていくのを見た。それは、一瞬の出来事だったが、自分と同じ靴下、同じローファーで、ローファーにつけている小さなアクセサリーまで一緒だったことをはっきりと見ていた。もちろん、たまたま偶然一緒だったということも十二分に考えられるのだが、なぜかそのときは、自分の足が目の前を通り過ぎていったとしか、雪乃には思えなかった.

 雪乃がそのまま顔を上げると、雪乃とそっくりな後姿をした女の子がそのまま歩いていた。雪乃はその場で立ち上がり、その子のことを呆然と見つめていた。そして、その子がすぐ前の交差点を曲がったとき、その子の横顔がちらりと見えた。その顔を見た雪乃は、矢も立てもたまらず早足でその女の子を追いかけていった。どうしても、その顔をはっきりと確かめないといけないという衝動に雪乃は駆られていた。交差点を曲がりその女の子に追いついた雪乃は、その子の肩に手をかけた。突然肩をつかまれた女の子は驚いて雪乃のほうに振り向いた。その驚いた顔は、思ったとおり雪乃と全く同じ顔だった。そのとき、二人の雪乃が同じ空間の同じ場所にいた。


 すると、雪乃の意識は肩をつかまれ振り向いたほうの雪乃の瞳に吸い込まれていき、やがてその意識はもう一人の雪乃に同化して入れ替わった。と同時に、肩に手をかけたほうの雪乃、元の雪乃は跡形もなく消えてしまっていた。

 「あっ、あれ」

 一人に戻った雪乃は、そのままあたりをキョロキョロと見回していた。


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