韋駄天ノ戦乙女

No-kiryoku

始マリノ陣:宵闇ヲ駆ケシ者

駆ける。


――――――荒涼なる大地


たった独り、禍々しい闇の中に沈む森の中を駆け抜ける。


――――――天を貫く俊嶽


 相手の数は……5匹、いや、6匹か。前方を見据えたまま、経験則を基とするおおよその目算を立てる。


――――――曠然たる蒼海


 背後より迫る荒々しい足音が、彼我の差を縮めてくるにつれ、獰猛な息遣いと唸り声がはっきりと感じられるようになる。


――――――酷暑なる砂原


 鬱蒼と立ちはだかる木々を避けつつ、腰に佩いた愛剣の柄に手を添える。


――――――彼らは、何処ともなく、幾度となく、戦場に立つ。そこに狩るべきモノがいる限り


 やがて、黒々とした視界の遥か先に淡い光が差し込む。それは近付くにつれ、その光度を増し、明瞭な境界として浮かび上がる。


――――――弱者は強者に淘汰され、強者は弱者から搾取する。勝者には栄光と富が、敗者には死と嘲笑がもたらされる


 視界が霞む程の超速は、急速に境界から溢れる光を拡大させる。それは闇を溶かし、世界を包み込み、やがて境界すらをも曖昧に消し去り、そして――――――


――――――そんな残酷かつ単純なパワーバランスとルールの上に成り立つ世界で、彼らは飄々と、それが当たり前であるかのように、宣う


 勢いよく森から飛び出した私は、身体を捻り反転しつつ、鞘から愛剣を引き抜く。

 涼やかな擦過音を鳴らしその全容を露にした刀身が、月光を反射し、狂乱的な美しさを見せる。その輝きはまるで、これより始まる殺戮への歓びを示しているようで……


――――――『勝ち続ければいい、それだけだ』と


 極限まで研ぎ澄まされた精神世界の中で、私は、自分が無意識に笑みを浮かべていたことを自覚した。


――――――人々は、彼らのことを、蔑みと畏怖とを込め、こう呼ぶ


 身体中を駆け巡る高揚感を理性で押さえつけ、私は小さく呟く。


――――――法外の狩人アウスト


「まず、一匹目」


 振り向くと同時、私は静かに剣を薙いだ。

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