附録(extra)

注解(column):閻(えん)という国

【目次】

●序文

●概要

●行政機関

●行政区画

●通貨

●宗教

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●序文


えん」は、軒轅けんえん民族による王朝であり、多民族国家である。

 軒轅文化は初め、樺榎かか大陸(巨大極まる九州大陸の一地域)を縦断する星辰せいしんの流域に勃興ぼっこうし、その当時は樺榎文明と呼ばれた。


 樺榎は長き戦乱の果てに、一度はとう国として統一されるも、数代で北のらい国・南のだん国に分裂。それを再び統一したのが、閻の太祖たいそていであった。

 これが六百年ほど前のことである(したがって、齢六百を超える仙人は閻国の出身ではないことになるが、仙籍せんせき自体は前の国から引き継ぎがなされている)。


 かつては軍事力によって領土を拡大していたが、ここ百年ほど前から経済・商業に力を入れ、覇権的帝国から経済的帝国として繁栄。

 軍事力による領土拡大から内政への切り替わりの際は、不満を持った軍部との内紛で分裂しかけたが、時の皇帝(儀天ぎてんてい)がどうにか乗り切って今へ到る。


 ちなみに、頼と壇は現在も外家拳系武術・頼派と、内家拳系武術・壇派にその名や文化を残している。


                 ◆


●概要


国名:

 大閻帝国(大閻、閻、閻王朝、閻国)。


面積:

 約2300万平方公里キロ


人口:

 5億人弱。


言語:

 現代軒轅語(キラ・ニメル語族)。


民族:

 黒髪黒目の軒轅民族が主流だが、地域によって他民族との混交が激しい。

 それとは別に40~50ほどの少数民族が国内に存在し、中でもウルス族・我蘭族・イユスンフ族・ニメル族・宋族の五つの民族には自治区が設けられている(他の少数民族も、おおむねこれら自治区内に散らばっている)。


文化水準:

 先進国。火力樹霊発電によって冷蔵電視函テレビなどが普及している。


成人年齢:

 満18歳。


平均寿命:

 80歳前半。皇族は天戸108歳となっているが、国民である地戸は72歳。犯罪などの失点がなければ、およそ80歳まで生きるものが大半。


教育:

 およそ7歳から16歳まで約9年の義務教育期間がある。識字率は九割。

 初級学校(5年、多くは6年制)→初級中学(3年または4年制)→上級中学の順。その後は希望する者が(学校側の求める水準に適えば)大学、専門学校へ進む。


婚姻:

 同意した成人同士であれば誰とでも可(性別は問わない)。

 結婚によって姓は変わらないが、戸籍はどちらか片方に統合される。

 一夫多妻、一妻多夫は民族自治区など一部地域のみ可。


戸籍制度:

 閻国の皇族は天戸てんこ(寿命108年)、臣民は地戸ちこ(寿命72年、最大100年まで延長可)に戸籍登録されているが、仙人は新たに専用の戸籍(寿命無制限)へ移される。


政治体制:

 立憲君主制。〝科挙かきょ〟という厳しい国家試験を勝ち抜いた官僚が実際の政治を行い、皇帝は国教(道教)の法王として祭祀と外交に務めている。


通貨:

 後述。


暦:

 皇帝紀年法による太陰暦と元号制、通称帝国暦。27日*13ヶ月、うるう日の概念あり。毎年発行される暦には、暦注れきちゅうという道士による占いが記載されている。

 なお作中第二部の時間軸・1308年は、元号上は「碩徳けんとく元年」である(※前年までは和世わせい11年といい、時元じげんていが退位して改元された)。


宗教:

 後述。


保有神格:

 主要なものだけで365柱(都市樹霊などを除いた数)。

 この数には人格を持たない純粋神格の他、存命中の神仙も含む。


                 ◆


●行政機関


 二府四院七省である。


道家どうか冥府めいふ

 ▽大教院だいきょういん

  ▽神霊庁しんれいちょう

   ▽公教局こうきょうきょく


 冥府は現世の裏側・冥界(冥土。閻では鬼郷きごうと呼び習わす)全般を管理する。

 建前上は閻国の行政機関として組み込まれているが、神仙によって運営されているため、他の省庁は基本的に干渉できない上位の存在である。

 皇帝は冥府に対して強権を発動することも出来るが、それも一生に一度行えるかどうかであり、不干渉を貫く方が多い。


 神霊庁は仙人界が人間社会側へ開いている窓口であり、都市樹霊や神灵カミを管理する。これもまた、同様に神仙が運営する省庁である。


 公教局は道士など人間の手によって運営されており、道士の出家試験(国家資格)の実施、道士の登録、身分証明証の発行などを担当している。


宰相さいしょう

 ▽大法だいほういん

  ▽顕章けんしょうしょう

  ▽承嘉しょうかしょう


 大法院は司法機関で、顕章省が司法と警察を担当する一方、承嘉省が土地戸籍を担当する(これは功罪が国に定められた寿命に影響するためである)。

 ただし仙人になると、仙人用の戸籍(仙籍せんせき)に入って、神霊庁側の担当になる。


 ▽大旗だいきいん


 大旗院は軍部で、国防を担当する「外軍」、国内の反乱分子に対処する「内軍」、皇帝直属(親衛隊)の「禁軍」の三種類に分かれる。

 軍の細かい構成は割愛。


 ▽国務こくむいん


 国務院は立法・行政機関で、以下の五つの省で運営される。


  ▽祥瑞しょうずいしょう:宮中諸事(祭祀と外交)。

  ▽暁台ぎょうだいしょう:公共工事。

  ▽含章がんしょうしょう:官僚人事。

  ▽修礼しゅうれいしょう:教育と文化。

  ▽康禄こうろくしょう:財政。


各省の長は尚書しょうしょと呼ばれる。


                 ◆


●通貨


 作中ではあまり触れられていないが、貨幣や銀行も存在する。

 閻で使われる通貨は、大閻中央銀行が発行する平等びょうどうよう葉幣ようへい)である。基本単位は「葉」、補助単位に「」と「」がある。

 1葉=10芽=100子。


 硬貨は1子、10子、5芽、1葉、50葉、100葉の6種類。

(日本円で1円、10円、50円、100円、500円、1000円程度)

 このうち子は四角形で、他は円形である。

 紙幣は200葉、500葉、1000葉、2000葉の4種類。

(日本円で2千円、5千円、1万円、2万円程度)

 硬貨の材質は、100葉が金、50葉と1葉が銀、5芽と10・1子が琥珀である。


 この世界には〝鉱樹こうじゅ〟と言って、樹脂・木材・霊媒を採掘する山のような巨樹がいくつか存在するため、安定した品質の琥珀が昔から貨幣に利用されていた。

 南海岸側の媽江澳まこうおう半島にそびえる、全長二百公尺メートル超の〝天梯象てんていぞう〟などが有名。


                 ◆


●行政区画

 閻には、18州・4省(4自治区)・3直轄市・2特別行政区、計27の一級行政区画が存在する。州の下に府、県、市、郷(鎮)と続く。

樺東かとう地方

楚天そてん

浙州せっしゅう

がん

鴻浦こうほ市(直轄市)

▼樺北地方

しん

兀勒思うるすしょう(ウルス自治区)

玄都げんと市(首都)

津冠しんかん市(直轄市)

▼西北地方

そう

百範ひゃくはん

新寧しんねい我蘭がらん省(我蘭族自治区)

也亦いゆすん省(イユスンフ自治区)

▼西南地方

※かつてここに人口八百万の都市・蜀京しょくけいがあったが、仙人が間違えてふっ飛ばしたため、現在は大陸最大の湖・霹靂へきれきになっている。

はく

尼弥勒にめる省(ニメル自治区)

▼中南地方

ゆう

わい

けい

しょう

猶東ゆうとうそう省(宋族自治区)

媽京まきょう特別行政区

笛津てきしん特別行政区

▼東北地方

烏桓うこう

通火つうか


                 ◆


●閻の宗教


 現在、多様な宗教が信仰されており、無宗教者も存在する。最も信者が多いのは「道教」で、寺院は閻国全土におよそ85万余カ所、道士250~300万人程度。


 閻国自体は道教を保護しており、各地に道教寺院(官立かんりつ道観どうかん)を建立している。全体のうち、二割は私設の民間寺院である。

 しかし、どちらにせよ道士になるためには国家試験に合格し、「度牒どちょう」という身分証明書を与えられる必要がある(在家道士は除く)。


(※霊的弱者「ニング」は戸籍上死亡扱いとなるが、閻で唯一公的なニング共同体として認められている「はちしゅう」の道士も、ニングとしての制限を受けながら道士として扱われている)

(なお、仙人になるとニングの不具合がすべて解消される)


 こうした正式な「道士」は、国から衣食住を給付される官吏であり、税なども免除される一方、公教局によって「道僧格どうそうかく」という特殊な法律下におかれる。

 これは単なる刑法のみならず、宗派を超えて道士が守るべき戒律であり、邪仙・左道使いはこれに反した存在である。


 また国家に対する反逆、その謀議、窃盗や殺人については、一般人よりも厳しく罰せられることと定められている。

 出家資格の国家試験、出家者の登録などの待遇は、すべての道士が超越者である神仙の候補者であることから来ている。類似の制度は閻に限った話ではない。


                 ◆


 樺榎大陸は戦乱に明け暮れた土地であり、悠久の時を生きる仙人の目には、現在の閻も泡沫の秩序にしか映らないだろう。それでも、たかだか百年も生きられない多くの人間たちにとって、継承される文化と土地、寄って立つべき国家は重要である。


 北の大国・ソキヤ連邦との戦争(寧順ねいじゅん戦争)から十年と少し。講和こそ成立したものの、両国の関係は微妙な均衡の上に成り立っている。

 西の大国・イムダレットとは寧順戦争以前に敗北を喫し、一部の土地を租借されるはめとなった。現在少しずつ返還されているが、治安回復にはまだまだ遠い。


 現在、自治区としてまとめられている地域も、元はと言えば帝国側の侵略を受けた土地であり、住民側の不満や、人道上の罪を非難されている(※この世界には「人権」の概念も存在している)。とかく火種には事欠かない。


 火がついて輝くままに失墜するか、更に高く飛躍していくのか。

 閻という国は、正負どちらにせよまだまだ精力に満ち溢れている。


(終わり)

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