第9話 来訪する者
何かが動き出そうとしていた事に気が付かなかった
だから初めから逃げ出さずに居られたんだと思う
今となってはよかったのか悪かったのか分からない
畑に辿りついた僕を村人たちが手を振って迎えてくれる
「寝坊か?坊主」
強面のおじさんが威勢のいい笑い方で僕を捉えた
「寝坊……です」
どっとみんなが笑う
回覧板なぞ読まず、酔っ払ってぐっすり眠っていたとはとても言えないし
「本当のとこ、酔っ払って寝てたんだろ」
バレバレなのはわかってたけど
「そういや坊主、回覧は読んだか?にしても騎士団が来るなんて珍し」
「朝読んで慌てたよ」
彼らは僕が騎士団を嫌って、離れて来たと思っててくれてるから
なんとなくそんな空気
彼らは僕らが何でもよくて、ここに住まう仲間であることには変わりがないと口を揃えて言うのだ
「ほれみろ若いのは文字読むのなんてしねぇんだよ。あいつは隠れたか?」
「彼なら川に行ったよ」
指差す方は彼の絆を感じる場所
平和にその時間を迎える準備はできていた
そんな会話からしばらくして、気だるそうに村へ入ってきた騎士の名ばかり調査か始まった
「よし、この村は被害無しだな」
野獣被害が無いのは変だと言いながら記録していたそれも終盤を迎えた
騎士団の記帳が終わり、次の村へ出立した彼らを皆が面白く無さそうに囁く
そんな中、ゾッとするような気配が踊り来るのを僕の意識の1つが捉えた
主の纏う風の吹き抜ける力ではない
「何か来る」
僕の呟きにおじさんが反応する
「異形か?」
違う。けれどよく知った力の流れだった
周りにある力を喰らい、変化させながら突き進むそれは
「ライダーだ」
「どうする」
「下手に手は出してこないはず」
おじさんが僕の肩を軽く、いや、力の加減がなってない叩き方で叩いた
「肩の力を抜け、坊主」
ぱっと顔を上げると、これまで僕が出会ったことの無い自信を持った人の顔がそこに
「えっと……」
なんだか恥ずかしくなったけど、同時に満ちていく妙な気持ちになった
しかし、そんな間もほんの一瞬だった
ライダーの気配は乱れに乱れて、ついには放散するようにマナが消失したのを感じた
「悲鳴だ」
ドラゴンの悲鳴はライダーとテイマー、そしてルーンの加護を持つ一部の人間にしか聞こえない
それが聞こえること自体が珍しく、たとえ聞こえたとしても雑音にしかなり得ない草笛のような高い音
僕が走り出そうとすると、襟首が掴まれ強い力で引き戻された
「おい!坊主!どうした!?」
「ドラゴンの悲鳴が聞こえるんだ!」
「それじゃあお前さん......」
「助けにいく!」
掴む腕から逃れて走り出すと、骨笛の低くこもる音が震えた
おじさんの笛の音だ
この村で唯一の蓄魔、ナイトメアがどこからとも無く姿を現し、僕に並走してみせる
馬の形を模したそいつに手を伸ばすと、手綱が出現して、いつの間にか背に乗せられていた
「頼む!」
嗎が疾風を呼び込み、グンと身体が圧を受けとった
その少し前で人とドラゴンが落ちてくるのが見える
「ナイトメア、受け止めてくれ!」
僕の呼び出したルーンに反応したナイトメアが馬から膜のある型へと変わり、そして孕んだ空気で彼らを受け止めた
転がり落ちた僕は何とか立ち上がり駆け寄った
けれど、受け止めた者に心当たりがあるが故にその足は少しばかり重かった
「きちゃったのか…」
受け止めた少年は嘗て後輩だったライダーの卵。
いつの間にか彼は自らの髪に似た美しい金色のパートナーと長距離を飛べるまでに成長していた
気絶していて動かない彼と、彼のパートナーを撫でてやる
さてさて、彼らをどうすればいいのだろうか
生憎悩ませる頭は持ち合わせていないのに
竜と共に 小鳩 @kobato0403
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