第14話 エピローグ?

 大型連休二日目。

  恭二は駐輪場に自転車を止めれば駅前までやってくる。

  空は晴天、午前中ということもあり利用者は多く恭二と同じように時計台の下で待ち合わせする男女の姿も見える。

  恭二は先日の出来事を振り返った。

  激闘を繰り広げたあと、皆にもみくちゃにされ。

  御前と、エンプレスとの決戦だ。勝敗はエンプレスの勝利に終わる。さすがに消耗しきってゲームセンターを後にしてそのまま流れのままカラオケに行った。

  良く分からないがめでたいということで神奈、奏、さらに後から加わった勇介、ゲーセンにいたメンバーにが加わり賑やかなものだった。

  特にカラオケで奏がメタルを歌いながらドラムの如く勇介を殴る蹴るの暴行したのは見事なパフォーマンスだった。また勇介が余計なひと言を言ったのかもしれないが。

  負傷した勇介を引きずりつつ遅くまで騒いだ。その帰りに神奈とは落ちついて話そうという事になり。今に至った。

  ――変わったな。

  そう、恭二は実感する。ゲームを通して見ている世界は変わってしまった。一ヶ月にしてこれだけの変化だ。

  神奈とこれからどれだけの変化を重ねていくのか楽しみだった。

  時計台の時間は9時の十分前。待ち合わせよりやや早い頃あいだ。

  戦闘とは違う緊張感。それを落ちつけるために恭二は思考を巡らせた。

  神奈といられるのはこの一ヶ月のみだ。

  今日、何度目かもしれないイメージトレーニングだ。

  まず、神奈との合流。話もそこそこに移動、まずは都市へ。ゲームの体験会に参加するためだ。

  そこで遊んだ後は適当な店で食事をとりつつゲームの話をした後は都市観光という流れだ。

  何も問題ない、と恭二は判断する。

  今日はお互いを知るための交流だ。故に背伸びする必要はなくありのまま過ごすだけだ。

  程なくして神奈が姿を現した。

  長い黒髪を高い位置で一つに括り、七分そでの白のブラウスに黒のフレアスカートといった出で立ちだ。

  ――やはり高校生には見えない。

  大人びた魅力というのがあるなという感想を恭二は抱く。

  「すまん、待たせたか?」

  「いえ、今来たところです」

  「……言いたかったセリフがいえて満足か?」

  「よく分かりますね」

  「大体男はそういうものだ」

  楽しげに笑って神奈は恭二の横へと並んだ。

  自分の彼女は先輩で堂々としていてアバターギアの世界ではエンプレスと呼ばれる戦士の一人。そしてどこか大人びている彼女。

  その横顔の笑顔は年相応の少女のものだった。 

  「顔を見てどうした?」

  「いや、可愛いなーと」

  その言葉に呆然としてしばらくすればこほんと、神奈は咳払いをして。

  「……君は素直すぎるな。まあだからこそ信用できる訳だが。とはえいえ私は君の事を良く知らない、道中色々聞かせてくれないか?」

  「俺も神奈先輩の事知らないんで、その色々教えてもらえると嬉しい、です」

  なんだろう、この妙に甘ったるい空気。と恭二は思い。さらに

  ――何か話すべきだろうか?

  戸惑っていた。

  普通の女子であれば会話は出来る、奏相手なら普通に会話できる筈だが。

  どうすればいいのだろうか?

  

 

  目の前で思案している恭二に自然と神奈は笑みを浮かべた。

  ――自分に対して本気になってくれている。

  はじめてのデートということで、色々と母と相談して服装をコーディネートした。

  勿論、緊張もしているが。

  ――あの時の戦いほどではない。

  年上としてここはリードすべきだろうと神奈は恭二に少し近づいて。

  「私自身の事をもう少し話そうか……とりあえずはこんな喋り方しているが家はごくごく普通であるとかだろうか」

  「どこかのお嬢様、でなく?」

  「まあそういう目で見られているだろうとは思ったが、残念ながらこの口調は私の弱い部分を隠す強がりだよ」

  「とてもそうは見えませんけど」

  「何年も続けた事だからな」

  さらにひっそりと勉強も続けたために成績優秀なお嬢様という格付けがされて皆からは避けられたがその事は伏せた。

  「とまあ、そんな訳でただ、私は成績が優秀でゲームができるだけの先輩だ。そう構えるな」

  「いや、十分立派だと思いますが……」

  こほん、咳払いして。恭二の言葉を強制的に切る。

  「とにかく、だ。そんなに固く考えずに楽しもう。お互い最初のデートだ。失敗もあるだろうがこれから何度も時間を重ねて覚えていけばいい。ゲームと同じだ」

  「ええ、そうです。……? てっきりアバターギアを教えてくれた先輩と出来ていたんじゃないんですか?」

  首をかしげる恭二にいや、と神奈は首を横に振った。

  ――はたから見ればそう見えていたのか。

  改めて考えると年頃の男女が二人して歩いていたら誤解も受けるかと神奈は納得しつつ。

  「楠先輩とはそういう関係ではない、ただの憧れの先輩というだけだよ。今後も恋心を抱くつもりもないから安心してくれ」

  安堵の表情を恭二は浮かべた。どこか気にかかっていたのだろう。

  「そろそろ移動しようか? 話もしたいが折角のデートだ、こうして誰かと一緒に出歩くのも久々だし、時間一杯楽しみたい」

  「はい!」

  ゲームの世界では師弟のような関係でリアルでは先輩後輩でありカップルだ。妙な関係だと思う。

  これから続くであろう日々もきっと楽しいものだろう。

  今回の海外へと引っ越しのようにままらないこともあるかもしれない。

  だが、帰るべき戦場が、確かにそこにはある事を今回の一件で気付かされた。 

  ――感謝しかないな。

  ようやく一歩進めた、そんな実感を神奈は得ていた。

 

 

 きっかけはゲームだ。

 お互い馬鹿みたいに全力でぶつかって出来た絆だ。

 そんな中でも見つけられるものがある。

  「そうだ先輩、デート終えたら。また一戦しましょうよ」

  「……もう、私と戦う理由はないだろうに」

  「ありますよ。俺もっと強くなりたいですし……それにやっぱ神奈先輩、いや、エンプレスは戦場にいてこそと思いまして」

  「いいだろう。私も負けっぱなしであちらへと渡るうのも癪だ」

  所詮はゲーム。空想上の世界でストレスを解消するもので本気になってやったところで将来何かためになるものでも役に立つ訳でもないのが大体のところだ。

  されどゲーム。本気になることで得られる絆もある。

人から見ればとても奇妙な話だろうけども。

 俺にとってはそれが大事だ。

 「前に、進路について相談しましたよね」

 「ああ、覚えている。答えが、出たのか?」

 「しばらくみんなとバカやってたいんで。この島で進学して時間作るってことで」

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超騎対戦アバターギア 三河怜 @akamati1080

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