エピローグ
ああ。目の前が暗くなってきた。
まだ太陽は登っているのに、僕の観る世界は、夜のようだ。足も、もう動かせない。精神状態が悪いだけでこうも異常がでるのか。
近くの壁に手をつき、歩みを止める。警告音のような「音」が頭の中に鳴り響き、思考を邪魔してくる。
なんだこれ。ロボットなんかに襲われる前に、死にそうだ。せめて、この「音」の正体を。それを突き止めたあとに、楽に死ねればいいなぁ。
壁に沿って歩きはじめたが、いつまでたっても、景色が変わっているような気がしない。それもそのはず、殆ど動けていないのだ。
これは本格的にまずい。身体がぐらつく。それに合わせて、暗い視界も歪む。頭から地面に沈み込むように、倒れる。その瞬間いろんなことが頭の中をよぎった。
「はは。これが......走馬灯ってやつかな......」
倒れながら、今まで経験したことが一瞬のうちに思い出される。
そういえば、始めから、身体がとてつもなく重かった。歩き出すときの足は、重かった。なのに、不思議と疲れはなかった。疲れだけじゃない。痛みだって感じなかった。
何故。
僕はどうして、感覚がないんだ。
全部示されていたんだ。
殺戮ロボットの近くにいたお供のロボットは、僕を見ても拘束しようとしなかった。
最初の饒舌なロボットは、目が見えなかったのに、最後の生産ロボットは僕を監視できていた。誰の目を通して僕が襲われそうになったところを見たのか。
それに、僕は記憶が無いのに、知識は豊富だった。
極めつけに、生産ロボットのあの言葉。
「ヒサシブリノライキャクダナ」
久しぶりの来客。僕はおそらくこの意味を勘違いしていた。
久しぶりに来客が来たという意味ではなかったのだ。
来客である、この僕が、久しぶりだったんだ。
散らばっていたパズルのピースが繋がっていく。
つまり、僕は──
人間なんかではなかった。
痛みも疲れも感じるはずがない。そう生産ロボットが言っていたじゃないか。
殺戮ロボットのお供のロボットが僕を発見しても拘束しなかったのは、当たり前だ。敵意を向けるべき人間ではなかったのだから。
饒舌なロボットの目は見えなかったけれど、僕を監視できる。僕自体の目から監視していたんだ。
知識が豊富なわけだ。なにせ、機械なんだから。必要な情報だけ、刷り込むのに、手間はかからない。
すべてのロボットを生産ロボットが産みだしているのだから、僕と会ったことがあるのは当たり前だ。生まれた時僕は生産ロボットに会ったんだ。
塔に入る時、ドアに足をぶつけたが、ぶつけた音も人間の出す音じゃなかった。
何故気づかなかったんだ。
僕は自分が信じていた人間ではない。人間を憎む、あの機械達と同じ4番目、いや0番目の特殊なロボットなんだ。
今なら人を憎んだロボット達の気持ちもわかる。僕は自分が人間なのだと信じていた。それほど、ロボットも人間も違いはない、ということだ。
そんななかで、まるで、物のように、扱われてきたロボットはどう思うか、言葉にする必要も無い。
僕は地面に倒れふした。立ち上がろうと思ってももう全く動かない。
僕はロボットだった。
では、この「音」は。
動けば動くほど「音」は大きくなっていった。時間が経てば経つほど「音」は大きくなっていった。
生産ロボットは、何故、僕を殺す気もなく、襲ってきたのか。
この「音」は警告音のようなものでは無い。警告音そのものだ。
動き、時間が経過すれば、消耗する。生産ロボットは、銃で僕を脅し、わざと走って逃げさせた。そうして消耗させた。
何を。
バッテリーだ。
音源は僕だった。
薄れゆく意識の中で、僕は確かに聞いた。
「バッテリーの残量が無くなりました。活動を停止します。繰り返します──」
あんなにうるさかったあの「音」はもう、聞こえない。
No difference 粟楠 春夜 @kuwashu
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