第2話 高校生がゲーム実況してみた

 春の日差しが、視聴覚室に差し込む。

 たまに暑いなって思う日も出てきたそんな時期。

 遠くの教室からは管楽器が伸びやかな音色を奏で、窓越しに見えるグラウンドでは野球部が甲子園に向けて練習をしている。

穏やかな放課後は、僕を幸せな気持ちに

「そんな感じにしか始められないから直は普通だって言ってるのよ」

「桜先輩のその貴重なご意見はどこに対してのご意見なんですかね」

 今日も視聴覚室の扉を開けるやいなや強めのツッコミを聞こえていないはずの部分にかましてきた桜先輩。

「いい?動画配信はキャラクターが大事なのよ?そんな普通のことしか言えなかったら視聴者はあっという間に他の動画に流れていくわ」

「その意見はごもっともですけどそもそもそんな普通の男子高校生をスカウトしたのは先輩ですよね?」

「私もミスくらいはするわよ」

「あっさりとミスとか言わないでくださいよ!?っていうか多少は否定しましょうよ!?」

「責任を取りたくないからって逃げ続けるよりもさっさと認めて次をどうするのかを考える方が大切なのよ?」

「今の日本社会に1番大切なことだとは思いますけど、認められたことでよりダメージを受ける人がいることも考えてくれませんか先輩」

 普通なのは認めるけどさ。うん。

 気が付けば桜先輩はいつも通り僕の座っている席の前の席に座っていた。

やれやれ、といった感じでため息をついた先輩が再び話し始めた。

「そもそも、直は何か面白いエピソードとか持ってるの?」

「そうですね・・・あ、そういえば今日のお弁当、2段だったけど上も下も白米でした」

「ははは、ちょーうける」

「真顔で言うのやめてもらっていいですか」

「たまには女子高生らしいことしてみようかと思って」

「SNSならまだしも目の前にいるならせめて表情くらいは偽装してくださいよ」

 そういえば今日教室にもこういうギャルいたなぁ・・・あれ相槌と同じ扱いなんだろうなきっと。ああいうコミュ力ほしい。人生楽しいかどうかは置いといて。

「まったく・・・街中でナンパした子をホテルに連れ込んで服を脱がせたら股間にないはずのものがあるくらいの面白いエピソードはないの?」

「残念ですけどナンパする勇気もないですしそもそも僕高校生だからホテルには入れないですからね?」

「それはたしかに残念ね。それでもホテル代がもったいないから最後まで事に及んでたら100点満点だったのに」

「ホテル代より失うものが大きい気がするのは気のせいですか?」

「何言ってるの?面白いエピソードが得られるならホテル代なんて安いものじゃない。じゃあ直、ナンパしてきて」

「じゃあ、じゃないですよ!っていうかさっきも言ったとおりそもそも高校生はホテルには入れないですから!」

「場所にこだわらなくても、公園のトイレでもどこでもできるじゃない」

「確認ですけど先輩高校生ですよねJKですよね未成年ですよね!?」

 こういうこと、平気で真顔で言うんだよこの先輩。女子高生が恥ずかしげもなく真顔で言う内容じゃないよねこれ?

「とりあえずスキン代はちゃんと部費で落としておくから安心しなさい」

「何に対しての安心なんですか先輩」

「性病」

「まともな回答なんですけどそもそもそこ気にしてくれるなら他に気にしてほしいところがたくさんあるんですけど」

「あ・・・その通りね。領収書の宛名は直でも落ちるから安心しなさい」

「何の安心ですか!?っていうか先生に提出するんですよねその領収書!?確実に怒られるし場合によっては停学させられるやつですよね!?」

「直、男は常に辞表を持って仕事をするものなのよ」

「いつの時代の話ですか!?っていうか完璧特攻隊ですよね!?明らかに停学どころか退学前提で進んでますよね!?」

「大きなことをするために、いつも多少の犠牲は必要なのよ」

「もっともらしいこと言ってますけど確実に犬死ですよこの特攻」

 無駄死にだけはしたくない。っていうかまだ死にたくない・・・じゃなかった、退学したくないよ。入って1ヶ月経ってもないっていうのに。

「仕方ないからこの企画は直のせいでボツね」

「すみません・・・って僕悪くないですよね!?何も間違ったこと言ってませんよね!?」

「この世界からまた一つ面白い企画が握りつぶされたわ」

「人を悪の権化みたいな感じで陥れるのやめてもらっていいですか。っていうか企画って動画にする気だったんですか!?」

「当たり前じゃない。ナンパから終わりまで一部始終隠しカメラで追うに決まってるじゃないの」

「当たり前じゃないですよ!っていうか終わりまでってホテルまでってことですよね!?動画サイトの規定に引っかかって削除されますよ!?」

「X〇〇deoなら大丈夫」

「もう1度確認ですけど先輩高校生ですよねJKですよね未成年ですよね!?」

「もしくは薄い本にしてコミケで売ってもいいわよ」

「先輩、コミケを甘く見すぎてないですか」

「何言ってるの?本人登場してるのよ?羨望の眼差してみてもらえるわよ」

「ひとつも嬉しくないのはなぜなんですかね」

 代償があまりにも大きいよね。

 できたら初体験は普通がいいな・・・。年上のお姉さんに無理やりとか憧れた時もあったけど普通に好きな人とがいい。

 そもそも彼女ができないと話にならないんだけど。

 というわけで、彼女がいなくて授業後の予定がまるっと空いてる僕は、今日もいつも通り面白くて美人な先輩と楽しい部活を頑張ろう。

 ・・・ということにしておこう。美人なのは本当だけど。

「桜先輩。僕、企画考えてきましたよ」

「すごいことみたいに言ってるけど企画担当は直なんだから当たり前じゃない」

「というかそもそも動画における必要な全ての作業の担当僕なんですけどおかしくないですかこの割り振り」

 というか全部自分がやるならもはや部活でなくてソロ活動でもいいんじゃないかって気はしてるんだけどね。

 ソロだったらそもそも動画配信やらないと思うけど。

「で、その企画って何なのよ?」

「動画配信の王道ってやっぱりゲーム実況だと思うんですよ」

 企画を考えるためにいろんな人の動画を見たけど、普通の高校生が簡単に面白い動画を作れそうなのはゲーム実況だと思った。

 実際、みんながゲーム実況をやるがためにゲームが売り切れたとか、本体が買えなかったなんてこともあったし。

 しかし、桜先輩は眉をひそめながら口を開いた。

「権利とかうるさいし、数字が伸びたとしても収入が減るじゃない」

 さすが先輩、中身じゃなくて収入関係でNGだったよ。

「でも有名になったら他の動画上げても数字が伸びやすくなると思いますよ」

 有名にさえなれれば、あとは内容で勝負できると思う。

 ・・・面白い企画ができるかどうかは置いといて。

 一応、この取って付けた撒き餌理論に納得はしてくれたらしく、眉をひそめるのはやめてくれた。

「じゃあ、どんなゲームをやるつもりなの?」

「やっぱりマ〇クラですかね」

未だに根強い人気あるし。みんなやってるし。

「みんながやってるゲームで面白くしようとかその辺に埋もれる普通の高校生Gがよく言えたわね」

 痛いところ突かれた気がする。差別化って大変だよね。

 っていうか普通の高校生Gってほぼ出番ないよね?下手するとセリフどころか登場すらないよね?

「ゲーム実況の定番はホラーゲームよ。初見ならリアクション取りやすいし、アクション要素や謎解き要素もあって出演者の魅力が生かしやすいわ」

 意外と冷静に分析していた桜先輩に思わず感心してしまった。利益しか考えていないと思いきやたまにこうやってまともな意見を言ってくるから尊敬してしまう。

 ・・・こういうまともな意見だけだったらたぶん企画会議は難航しないんだけどな。

 あ、いや、すごいせんぱいですよさくらせんぱい。

「例えば、こういうホラーゲーム実況はどう?」



「じゃあ今日はホラーゲームの実況プレイをします」

 桜先輩があらかじめインストールしておいてくれたフリーゲームのアイコンをダブルクリックする。

「えっと、今日のゲームは・・・『マインスイーパ』?」


『・・・ってこれ昔のパソコンによくある最初から入ってたやつですよね!?』

『ついでだったからソリティアも入れておいてあげたわ』

『何のついでですか!?っていうかホラーでもなんでもないですよあれ!』

『言い忘れたけどうっかり爆弾をクリックしたらあなたの思い出の場所が1箇所ずつ爆破されるようになってるわ』

『テロですよね!?完璧テロですよね!?』

『今いる自宅がいつ爆破されるかドキドキしながらゲームをクリアするのよ』

『怖いですけど!ホラーゲームはそういう怖さじゃないですから!』

『冗談よ。あらためて例えばこういうのはどう?』



「じゃあ今日はホラーゲームの実況プレイをします」

 桜先輩があらかじめインストールしておいてくれたフリーゲームのアイコンをダブルクリックする。

「えっと、今日のゲームは・・・『王子と結婚したプリンセス』?」



『タイトルに一切ホラー感がないんですけど』

『全幼児が泣いたのよ』

『映画の売り文句みたいに言うのやめてもらっていいですか?』

『このゲームはシンデレラが王子と結婚するところから始まるわ。王子との結婚生活を進めるうちに起こっていく後継問題や姑問題、さらには王子のDVや不倫、最終的には国家破産まで、様々起こっていく諸問題に立ち向かっていくゲームよ』

『それはたしかに幼児泣きますね。っていうかどこがホラーなんですか』

『所詮元庶民じゃどうにもならないという絶望感を味わうゲームよ』

『絶望感があれば何でもホラーゲームだと思わないでくださいよ先輩』

『ちなみに第1章はシンデレラで、第2章は白雪姫、他にもたくさんのプリンセスが地獄を見るわ』

『喜々として言わないでもらっていいですか』

 若干笑顔が見える気がするのは僕の性格が歪んでるからなのだろうか。

『仕方ないわね・・・じゃあこういうのはどう?』



「じゃあ今日はホラーゲームの実況プレイをします」

 桜先輩があらかじめインストールしておいてくれたフリーゲームのアイコンをダブルクリックする。

「えっと、今日のゲームは・・・『学校の怪談』です」

 ゲームが立ち上がると同時に、いかにもな感じのタイトルがおどろおどろしい感じで表示される。

「じゃあ始めまーす」

 スタートボタンを押す。

 昔ながらのドット絵で表示されたのは夜の教室にぽつんといる男の子。

 画面下に青い四角が表示され、その中にテキストが表示される。

 ちなみにテキストは読み上げる派だから頑張ってテキストとセリフの区別はつけるようにしよう。

「ここは恐怖村立、怪談高校。」

 フリーゲームらしい、捻りのない感じ。もう少しひねりようがあると思うんだけど。

「気がつけば、僕は夜の教室に一人だった」

 もうこれでもかと繰り返されてきたいかにもな始まり方。フリーゲームらしい、捻りのない感じ。

「さぁ、花子さんをナンパするぞー!・・・って」



『先輩これホラーゲームですよね?』

『普通のホラーゲームじゃ面白くないだからギャルゲー要素を盛り込んでみたわ』

『ギャルゲーって主人公自らこんな積極的にナンパしましたっけ?』

『いい加減ラノベ主人公みたいな鈍感難聴特徴なしの草食系ダメ男に彼女なんてできるわけがないって誰かが教えてあげないといけないのよ』

『夢を売ってるんです!どれだけ普通でも人生何が起こるかわからないっていう夢を売ってるんですよ!』

『そんなことしてるからみんな他力本願になっていくのよ。自分の人生くらい自分で責任持ちなさい』

 カッコイイこと言ったけど、その発言をした張本人は自分で立ち上げた部活の活動から責任まで全て他力本願だということは触れないでおこう。



 薄暗い学校の3階を目指し、階段を登っていく。

 BGMは基本的に無く、階が変わる時の効果音だけが流れる。

 怖い感じのBGMが流れるのも怖いけど、無音にたまに音が鳴るのはもっと怖い。



『勘違いしているようだけど、BGMは権利的につけられなかっただけよ』

『結果的に怖く感じてるからそれについてはあえてつけなかったということにしておいてよかったんじゃないですかね』

『そうやって偶然の産物で過大評価されようとごまかすから続編を作った時に技量不足が明るみに出てバッシングされるのよ』

『実力を超えた評価ほど恐ろしいものはないですからね』

 予期せぬバズりほど恐ろしいものはないよね。次に出したもので失敗すると大バッシング受けるからね。



 最初の怪談はトイレの花子さんが題材らしい。

「トイレの花子さんは3階の女子トイレで、扉を3回ノックして、「花子さんいらっしゃいますか?」という行動を1番手前の個室から順番にやっていって、3番目の個室でやったところで返事がある、という怪談だ。」

 って実際文字で説明出てるからね。

 まあそれはいいとして・・・



『先輩、トイレの花子さんって一般的にはおかっぱ頭で白いワイシャツに赤い吊りスカートの小学生ですよね?』

『そうね。』

『画面に表示されてる女の子・・・』

『おかっぱ頭で白いワイシャツに赤い吊りスカートじゃない』

『小学生にしては随分セクシーな気がするんですけどどうしてですかね』

 画面に表示されている女の子は白いワイシャツのボタンが2つ外れていて、グラビアアイドルのように谷間が見えている。

 スカートにいたっては丈があっていないらしく、日曜日の夕方の大家族のアニメでよく見るような状態になっている。

『今流行りの擬人化でイラストにしたらこうなったのよ』

『花子さん一応人ですよね?死んでるとは言え、人ですよね?』

 ホラーゲームを始めたはずなのに完全にギャルゲーだった件については全て終わってから論議することにしよう。それにこれは油断させるためなのかもしれないし。



 説明のとおり、3階にたどり着き、女子トイレに向かう。

 そして、手前の個室から順番に、説明通りにやっていく。

 トン、トン、トン。

「花子さんいらっしゃいますか?」

 特に何も起こらない。

 隣の個室の前に立つ。

 トン、トン、トン。

「花子さんいらっしゃいますか?」

 特に何も起こらない。

 隣の個室の前に立ち、いよいよ花子さんが登場・・・って。



『先輩、個室2つしかないんですけど』

『ここは村立なのよ?全校生徒10人の高校にそんなに個室がいるわけないじゃない』

『ゲームにその現実感いりますかね』

『木造なのに3階まであるだけありがたいと思いなさい』

『それなら個室1つ増やすくらいできたんじゃないですかね』



 残念ながら、3階のトイレは他に無く、花子さんの登場は叶わなかった。

「花子さんに会えなかった・・・」

 ちなみにこれはゲームの中の男の子のセリフであって、決して自分が思ったわけじゃないからね!ちょっと残念だなーとか思ってないからね!

 残念がっていたら、急にピアノの音が鳴り始めた。

 夜の学校でピアノの音がする。

 音楽室で、幽霊がピアノを弾いているのも学校の怪談あるある。



『先輩、夜の学校でピアノの音はたしかに怖いんですけど』

『怖いでしょう』

『弾いてる曲に恐怖感が一切ないんですけど』

『この曲のどこが怖くないって言うのよ』

『逆に聞きますけどエ〇クトリ〇ルパレードのどこが怖いんですか』

『直は何もわかってないわね。フリーゲームにエレ〇トリカ〇パレードの音源を入れることがどれだけ恐ろしいことかわかってるの?』

『逆にBGMは権利的につけられなかったのにこれだけ入ってるのは何でなんですか』

『最初にふざけてつけたら取るのを忘れたのよ。それに気づいたときほど怖いものはないわ』

『ホラーゲームってそういう恐怖も感じなきゃいけないんですかね』

 配信前の確認って大事だよね。動画もゲームも。



「音楽室のピアノが聞こえるのは、学校で死んでしまった女の子が弾いているから。万が一弾いている姿を見てしまったら・・・」

 テキストは、そこで終わっていた。

 続きが・・・まあ気にならないよね。



『何で続きが気にならないのよ』

『先輩、逆にこんなレインボーな髪色なのに白のワンピースとかいうミスマッチすぎる女の子がグランドピアノ弾いてる絵のどこに恐怖を感じればいいんですかね』

『音楽家なんて大体こういう髪型じゃない』

『こんなレインボーな音楽家、バンドマンぐらいですよね?ピアニストでレインボーってそういないですからね?』

 っていうか最近バンドマンでもなかなか見ないよレインボー。

『しかもこの子、すっぴんなのよ?』

『先輩の恐怖を感じるポイントがもはやわからなくなってきました』

『じゃあ逆に聞くけど夜の学校でレインボーな髪色の白いワンピースの女の子が眉毛のないすっぴんで追いかけてきたら怖くないの?』

『夜の学校で追いかけてくる、だけで十分ですよね?もはや女の子の容姿どうでもいいですよね?』

『しかもこの髪の毛、LEDライトが仕込んであるからレインボーに光るわ』

『逆に明るくなってますよね?恐怖半減しますよね?』



 音楽室に着くと、ピアノのところには誰もいない。

 しかし、音楽は鳴り続けている。

 強制イベントだったらしく、音楽室に入ったところからは、男の子は自動で動いていった。

 ただ、なぜか男の子が向かったのはグランドピアノの方じゃなく、キーボードが置いてあるところだった。

 そして、テキストが表示された。

『・・・電源切り忘れか』



『田舎の高校あるあるね』

『音が出てるもの放置ってそうないですよね』

『大体音楽室の鍵が閉まって無い時点で察しなさい。3階は人の出入り自体ないのよ』

『この間から先輩田舎バカにしすぎてませんか・・・?意外としっかりしてますよ田舎』

『私の両親は田舎に殺されたのよ』

『確かお二人ともしっかりご存命でしたよね?なんならこの間お父さんの不倫がバレて大喧嘩した話してましたよね?』

 ちなみにバレた理由は桜先輩が父親の不倫現場を見つけたため、金銭を要求して取引をもちかけたけど父親が飲まず、母親にリークしたかららしい。

 親でも容赦がない女子高生、それが桜先輩だ。

 なんていうか、先輩に負けない父親がエラいと思う。でも、先輩に負けないなら欲望にも負けないで欲しかった。先輩の性格は母親似らしいから不倫したくなる気持ちもわからなくはないけど。



 結局、音楽室に関しては何も起こらなかった。

 仕方なく、音楽室を出ると、男の子の上に!マークが表示された。

「理科室で物音がしてる!」

 いや、随分嬉しそうだけど夜の学校の理科室で物音がしたら普通怖いからね?

 とりあえず、理科室へと向かうことにした・・・と言っても隣だからすぐ着くんだけど。

「理科室には人体模型があり、夜になると動き出し、校内を歩き回る。万が一、歩き回っている人体模型に出会ってしまったら・・・」

 テキストは、そこで終わっていた。

 続きが・・・今回も気にならないよね。



『さすがにこの擬人化については無理ありすぎませんか?』

『そもそも人体模型なんだから擬人化も何も元々人じゃない』

『そうなんですけど・・・このイラストおかしいところしかないですよね?』

『何一つおかしいところなんてないじゃない』

『まず、人体模型を女体化は予想の範囲内として、こんなに巨乳である必要あるんですかね?』

『直は何もわかってないわね。今や日本の理系の成績は世界に後れを取っているのよ?こうやって巨乳化させることでより人体模型に興味を持つ高校生を増やし、世界と肩を並べられるくらいの日本にするのよ』

『・・・とりあえずその効果男子限定ですよね?』

『甘いわね。ちゃんと人体模型と骨格標本のBL本もNow On Sale』

『売らなくていいし今何で英語で言ったんですか!?』

『この方がスタイリッシュなCM感出るじゃない』

『何で一切内容にスタイリッシュ感がない人体模型と骨格標本のBL本をスタイリッシュに宣伝しようと思ったんですか』

 夜景の綺麗なところで肩を寄せ合う人体模型と骨格標本とか需要があるのかわかんないし、万が一あったとしてもその人と分かり合える気がしないよ僕。

『そしてそもそも上も下も隠れてない時点でこれR18ですよね?完璧アウトですよね?』

『これはアートだからセーフに決まってるじゃない』

『昔そう言って性器をモチーフにいろいろ作って捕まった人いましたよね?』

 みんなはマネしちゃダメだよ?ちゃんと隠すものは隠そうね?

『・・・で、そもそもこの絵、何で右に偏ってるんですか?』

 イラストは青背景に人体模型が描かれているが、右によっていて、人体模型は半身しか描かれていない。

 そう、単純に全裸の女性が半分だけ描かれているように見えるだけで、内蔵とかの部分が完全にカットされている。

『常に正面に被写体を置くとかアート感がないじゃない。中心から少しずらすことでアート感が一気に高まるのよ。動画配信者ならこれくらいの基礎基本くらい押さえておきなさいよ』

『すみません・・・って怒られるのおかしいですよね!?っていうかもはやこれ中心から少しじゃないですよね!?完全に右端ですよね!?集合写真でやられたら泣くやつですよね!?』

 写真を撮る人、本当に端っこの人には気をつけてね。目をつぶったくらいはいいけど、端で切れるとすっごい寂しいから。



 理科室に着くと、たしかに人体模型はあった。

「何だ、男か」

 と、テキストが表示された瞬間、男の子は理科室を出た。

 ・・・そもそも女の人体模型ってあるのかな。

っていうか音の正体もはやどうでもよくなってるよね?

「そうか、わかったぞ!美術室だ!」

 あ、これもテキストが表示されてるから。

 基本的に、もはやホラー要素はおまけでしかないことはわかってきたので、男の子のテンションについてはもう触れないでおこう。

 何がわかったのかわからないけど、とりあえず美術室へ行けばいいことはわかった。

「美術室といえば、人の形をした彫刻や、肖像画など、動いたら怖いものが盛りだくさん!まさにホラーの玉手箱や!」



『先輩、これ一応ホラーゲームですよね?』

『どこからどう見てもホラーゲームじゃない』

『ホラーゲームってこんな食レポみたいなテキスト普通出てこないですよね』

『きゃー、そんなすぽっとあるのいってみたーい』

『せめて自分で妄想した物に対してくらいは嘘でもいいから感情込めてもらっていいですか』

『ちょっと全米泣かせてくるわ』

『そんな気軽に泣かせられたらとっくに世界は平和になってますよ』

『映〇業界じゃ毎週のように泣いてるじゃない』

 広〇業界の激闘が見える他にコピーが見つからなかった映画がいくつかあると思うけどどの作品かは思っても内緒にしておこうね。

『あと、珍しくイラストがホラー感があるのはいいんですけど』

 今までと違って、女体化やセクシー感は一切なく、ホラー感のあるイラストが付いていた。

 うん、それはいいんだけどさ。

『このモナ・リザ、貞子ですよね?』

 長い髪の女性が絵の中から出てくるイラスト。長い黒髪に白い服。完璧に貞子。

『モナ・リザよ』

『モナ・リザの服って白じゃないですよね!?』

『貞子みたいにって発注したら行き違ったのよ』

『・・・コミュニケーションって大事ですね』

 相手に正しく伝えるのって難しいよね。

『それにしてもムンクの叫びの人、貞子の前に置く必要があったんですかね』

『ホラー感出るじゃない』

『あれ、そういう叫びじゃないと思いますよ』

 もはやここまでくるとホラー感がゲシュタルト崩壊してるよね。



 美術室に入ると、1番動きそうなダビデ像には(当たり前のように)目もくれず、ミロのヴィーナスの前へ行く。

 しかし、残念ながら動く気配は一切ない。

 そのまま、壁にかけられたモナ・リザの前に行く。

 これも残念ながら、動く気配は一切なかった。

「・・・仕方ない、帰ろう」

 ついに、男の子は諦めたらしく、1階へと降り、土間へと向かっていった。


 当然、土間は閉まっている。

 しかも、外から南京錠で。


 学校にはすでに誰もいない。

 男の子はポケットから携帯を取り出し、先生や友達に連絡しようとした、その時だった。

「・・・誰も連絡できない」

考えてみれば、授業が終わっても誰も起こしてくれず、いることすら気づかれずに、学校のみんなは帰ってしまった。

 中央に男の子を残し、画面は黒くなった。

 そして、男の子が消えると同時に、テキストが表示された。

「僕には、友達がいない」



「・・・先輩」

「何?」

「ホラーゲームでしたね」

 ただのクソエロギャルゲーだと思ってたけど、絶望感漂うホラーゲームだった。

 ホラーゲームの定義って何だろうとは思うけど。

「もっとも怖いのは幽霊じゃなく、人間なのよ。覚えておきなさい」

「はい・・・って、このゲームに関しては人間が怖いというよりも孤独だという絶望ですよね?」

「生徒が10人ということは先生たちを合わせても全部で20人足らずの人しかいない学校よ。そこで忘れ去られるなんてことあると思うの?」

「なぜか背筋がぞっとしてきたのでやめませんかこの話」

 これで男の子が自殺して化けて出たらいよいよ完璧なホラーゲームだよね。

 何だろう、ここに来て幽霊をナンパしたい気持ちがわかった気がするよ。バカにしてごめんね。

「じゃあ直、このゲーム作って」

「・・・え?」

「動画配信するのに、まずはゲームがいるでしょ?」

「・・・逆に何で普通の男子高校生がゲーム作れるって思ったのか教えてもらっていいですか?」


 こうして今日も桜先輩の企画はボツとなり、動画の収録はできなかった。

 というか、できたとしても数ヶ月かかるからね、これ。たぶんゲーム作るって企画で動画作れるからね。

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桜先輩の妄想動画は今日も配信されない あおいろ @aoiwenico

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