第4話 ツンデレと青森県民

「ひゃっほーい! ついたぜ駆け出しの町にぃー!」


 町の入り口の門で、俺は叫んだ。


「なんでそんなに元気なのよ……」

「だって異世界特有の人種が沢山いるんだぞ? 待ってろエルフ! 待ってろケモ耳!」

「普通の人間に見えるけど……?」


 確かにポニ子ちゃんの言う通り、見渡す限りでは人間族しかいない。お楽しみはこれからだってことかな。焦らすねえ。


「これ、なんて読むの?」


 マイたんが背と手を伸ばして、門に貼り付けてある看板を指さす。


「僕も見たことがないな……」

「まあ文字の読み書きができないのはよくあることだ」


「なんでそんなにご都合主義なの?」

「異世界モノは八割主人公の御都合通りにシナリオが動くからな」


 まぁそこが面白いところなんだけどね。


「つまらなさそう……」


 ポニ子ちゃんがうへぇと嫌な顔をする。おい、俺の一年間に謝罪しやがれ。


「英語だったら通じたのだか……」

「あぁ。でも俺らは日本語を話すだけでこっちの世界の人には伝わるから安心しろ。これも異世界補正だ……って――」


 あれ? 俺誰に話してんの。視点を声の主の方へ、は?


「なんで堅物メガネがいるんだよ!」


 俺、マイたん、ポニ子ちゃんの隣にいたのはさっさと去ぬべき人物だった。


「僕も町が気になってな」

「お前いつからそこにいたんだ!?」

「マイたんたちが出発したときから」

「最初からじゃねえか!」


 なんなのあんた、ツンデレの極みかよ?


「……まぁいい。早速そこの商人に話を聞こうぜ」


 しかし自分の能力を知る前には消えてもらおう。この世から。


 俺は門から続く店舗通りを見る。

 こういうのは無難に一番近くのおっさんに聞くことしよう。


「おーい、おっさん。ちょっと話があるんだが」

「#$%&%#?」

「ん? ちょっともう一回」


 日本語にしても訛りすぎだよおっさん。出身どこ? 青森?


「$$*%$¥&?」


 待てよまずこれ日本語か?


「私には何を言ってるのかわからなかったわ」

「マイたんも」

「聞いたことない言語だな……一体何語だ?」


 俺の後にいた三人がなんとも情けないことをボヤいている。


「変態は何言ってるのかわかった?」


 どうしよう、全然わからない。しかしここでリーダーというのをみせつけて置かないと……。


 俺は部下三人の方を振り返ると、自信ありげに言って見せた!


「あぁ、俺には女神様からの異世界補正があるからな。……『ようこそこの町へ』って言ってる。ちょっと青森の訛りがすごくてわかりづらかっただけだ」

「うぉー、すごい」


 マイたんだけが俺に尊敬の視線を送ってくれた。しかしポニ子ちゃんと堅物メガネは酷いくらいのジト目。


「嘘をつくな、声が震えているぞ?」

「目が泳ぎまくっちゃってるわよ。あと青森だとしても訛り過ぎよ、あんた今すぐ青森県民に謝罪しなさい」

「すいません」


 してから思った。なぜ俺が青森人に謝らなければならないのか、と。


「で、異世界補正ってのはどうしたの?」

「言語補助はなかったみたいです。何言ってるのか全然わからなかった」


 だからどんな言葉を発してもステータスが展開しないのか。そうだ、きっとそうだ。


「ほらな! やはりここは異世界とかいう場所ではないんだ。きっとここはどこか辺境の国で――」

「マイたんもそう思ったけど、たった今、ここが異世界だと確信がついた。あれ見て」


 堅物メガネの服の袖を引っ張るマイたん。

 一斉に俺ら三人も「あれ」を見る。


「は……なんだあれは!?」

「とっ、トカゲ?」


 道のど真ん中を爬虫類が走る。爬虫類とは言っても日本にいるようなちっこいのではなく、人間の体よりも数倍は大きい。その上には人らしきものが乗っていて、競馬みたいにムチみたいなものを叩きつけていた。


 そのまま物凄い勢いと速さで俺らの目の前を通過すると、門を抜け去り町を出る。


「ああ、あれは輸送用トカゲだな」

「うぁおー」


 マイたんは頭上で手を叩く。それにしてもなんでこの環境におどろかないのだろう? もしや隠れ異世界ファンタジーファンだったりするのか……、いやないな。


「……映画の撮影にしては凝っていたわね」

「僕達もこの映画にエキストラとして出演したってことかな」

「まだ信じないつもりかよ……」


 現実逃避のためにお互い笑い合う二人。明らかにぴよぴよ状態だし、汗が吹き出している。


「っだぁぁぁ!」


 何かが吹っ切れたポニ子ちゃんの表情が突然暗くなる。


「*&$$¥?」

「@♪$$&¥*$#¥*♪?」


もちろん店舗通りを歩いていた町人たちに変な目で見られた。


「どうしたポニ子ちゃん、ついに壊れたか?」

「えぇそうね。もうこんなのうんざりよ!」


 なんだろう、今にも大爆発しそうだ……。


「どうやら慌てふためいている模様」


 しかしマイたんの冷静な解析が、さらに彼女の火をつけた。


「なんなのよこれ! 変だと思わないの? でも変態は全く帰る気ないし! もういい、ここからは私一人で行くわ!」


 本当に壊れた。ポニ子ちゃんの怒りは大爆発。


「ポニ子ちゃん!?」


 しかし俺の呼び止めも無視し、そのままズケズケ歩いていって三叉路に向かっては左折してしまった。


「ポニ子ちゃん、一人でどうやって帰るつもりだよ……ってか帰れんのかこの世界から?」


「では僕もここから先は一人で行こう」

「うん、じゃあねバイバーイ」

「止めろよ!」


「いやお前本当ツンデレだな」

「ふん……せいぜい異世界というのを楽しむんだな」


 堅物メガネも一人で三叉路を右折していった。結局信じてはくれないのか……。


 ここが異世界というのは確定してもいいだろう。地球にはあんなデカいトカゲはいない。見渡してみれば店先の野菜らしきものも見たことのないものばかりだ。


「だから一人で行って何ができんだよお前ら。何も知らないくせに……って俺も知らねーのか」


 まさか異世界がこんなハードモードだったなんて知らなかった。まさか言語が通じないなんて思わなかったし、そう言えばルール説明してくれるはずの女神も出てこない。


 俺とマイたんはただ立ち尽くすだけだった。


「どーすんだよあいつら……」


 堅物メガネが消えたのは嬉しい誤算だったが、ポニ子ちゃんがいなくなるというのは非常に困る。だって俺の嫁一号(予定)なんだよ?


「マイたんは居なくなったりしないよな?」


「日本には『流れ』というのがある。ということでマイたんは二人が行っていない奥に行く。ではさらば」


「俺の未来の妻なのに?」

「世界には遠距離恋愛というのがある」


 結局マイたんも町の奥へと入っていってしまった。恋愛すらしてないじゃないか。


 言語が分からなくてチートもできないところに、仲間が現れて一緒に解決って流れじゃなかったのかよ。


 なんだこれ。


 神様ー。俺を送る世界、間違えてますよ?

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異世界ハードモーズ! 小林歩夢 @kobayakawairon

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