第2話

将来 何になりたいかを聞かれたとき

私はこう答える

『夢をあたえる人』

それは素敵ね と言われ 会話が終わる


人がどう思おうとも かまわない

私の溢れる想いは 流れは とめられない


「うー…」

「もう、入学式はじまってるー」

講堂での式典は理事長の祝辞が読まれている最中だった。

国立魔法機関大学の理事長は世間にはまだ知られていない存在。

今日初めて姿を現したのだ。

「広い講堂だわ、理事長が小さく見える」

「それにすごいカメラの数」

世界中から報道機関が集まって来ている。

それだけ今日は注目されているのだ。

「何百台あるの、圧倒されるわね」

式典は世界にライブ放送されている。

理事長の一挙手一投足が

世界中の言葉で訳され、説明され

この星に住む全ての国の人々に届いている。


(みんな なにを想うの)


周りの報道カメラから祝辞を読んでいる理事長へと顔を向けた

「!!」

目が合った…ような気がした。

綺麗なエメラルド色に光る目に見つめられたような…

いやいや、こんなに広い講堂だもの

きっと気のせい…

「パタン」祝辞が台の上に置かれ、

音がマイクを通して講堂に響いた

一瞬の静寂が訪れすぐに破れる

「なんじ」

理事長の声が静寂を切り裂くとともに

光りの矢が何本も私の体を突き抜た。

(えっ、なに。体が動かない)

急に私が両手を前に突き出したまま固まってしまったので

周りの人たちが心配しているのがわかる。

(どうやら私だけが時間が止まってしまったようね)

(うーん、この事から考えるに…そうね、これは、

理事長の魔法に違いないわ!)

(魔法初体験ね!ふふふ…)

(嬉しさが止まらない) などと考えていると

「ぽん」と

肩に手を置かれると同時に魔法が解けてしまった

ショートカットの黒髪には猫の髪留め(可愛い)

黒縁メガネに腕まくりされた黒のスーツ

むちむちなタイトスカート

それになにより

スーツから垣間見られる溢れそうな胸

「危険だわ!」(この人は危険!)

「うっ」と、後ずさりするとその人の顔が

「グッ」と、近づいた。

綺麗な瞳…

「星が輝いているみたい」

(目をそらすことができない)

(この人も理事長と同じエメラルドグリーンだ)

頬が熱くなり照れながら見つめていると

グッとネクタイをつかまれた。

「お前か、遅刻者は。いい根性だな」

すごい形相で睨まれた。

(ああっ、終わった…私の青春、私の楽しい学園ライフ…さようなら…)

「まあ良い」

理事長の声が力なく聞こえてきた

ため息交じりの声がなんだか、仕方がないのでおまえをもう許してやるよ、と言われたような感じがした(ありがとうございます!理事長様‼)

「ですが…理事長」

スーツのお姉さんはとても不満そうだ。

「ふふっ…」

安心して気が緩み、声と笑みが少し漏れてしまった

(まずい…見られたかしら…)

そーっと上目づかいにお姉さんを見ると顔はまだ壇上に向いていた

(まだ終わっていないみたいですね。私の青春は)

ぐっ、と小さくこぶしを握る

「そちよ こちらに参れ」理事長がちょんちょんと指先で手招きをした

「はいっ」遅刻の負い目はすっかり無くなっていた

掴まれていたネクタイが緩んでいたので直しながら

ざわつく人々の真ん中を歩いていった。

「ほうっ」

(多くの者がいる中で、この堂々とした立ち振る舞い。なかなか肝が座っておるの)


「すみませんでした。式典を台無しにしてしまって…」

壇上にかけ上がりながら深々と頭を下げて謝った…

すると台座⁈が視界に入る

理事長が居ると思われるその場所に

5,60センチの台座があるのだ

その上には黒色の赤いリボンがついた小さな革靴が乗っている

徐々に頭を上げながらなめるように足元から腰へ胸へと視線を上げていく

(子供?)

理事長ではなくそこには子供がいるのだ

「何で子供がここにいるの」

思わず声に出てしまった

「誰が子供じゃ!」といい『ぷくっー』とほっぺたがふくれた

「可愛いー」と思わず頭を撫でてしまった

「わしが理事長じゃ」と手を払われてしまった

「…」

理解できず『キョトン』とした、まぬけな顔が世界中に流れる

私の顔を見た理事長は微笑んでもう一度優しく言ってくれる

「ようきた、入学おめでとう」

私はよく人に言われる

『前向きで良いね』と…

「入学を許していただいてありがとうございます!」

そう、私は他の誰よりも心の切り変えが早くマイナスをプラスに変える事を得意としているのだ

「こんなに可愛い魔女が理事長だなんて、なんてついているのかしら。楽しい毎日をおくれそう」

心の声が漏れていた。

これを聞いた理事長はやれやれ、と肩をすくめて見せた

「そちは。ここから何が見える」突然言われる

(えっ?)

「見てみよ。見渡してみよ」

壇上からこの広い講堂に目を向けた

ここに集まった多くの人々が目に飛び込んでくる

私が今立っている場所が認識できた

視線が体いっぱいにのしかかってくる

頭が、肩が、腕が……

身体中がすごく重い



(大丈夫)

心に響いた

(信じて)

安心する

(そばにいるよ)

もう大丈夫!


(ほう、立て直したか)

「そちにもう一度問おう。何が見える」

「はい!人々の想いが、希望が、そして夢が見えます!」

「うむ。よい答えじゃ」(褒めてもらえて嬉しい)

「それでは、そちの夢を答えてみよ」


私は誰に何を言われても迷わない


魔女を理解し人々に魔女の事を知ってもらうこと

魔女と人の夢を

一緒に紡いでいける世界をつくること

過去と今と未来のすべての者のために


『夢を与える人になる』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫にあるまじき しろだん @sakuwa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ