エピローグ 氷の武人は黒狼を甘やかす

 帝都キョホホトーラの宇宙港の地上エントランスに女神が降り立った。

 少なくともそう思ったのは俺だけじゃないはずだ。


 うっとりと愛らしいランを見ている連中がいるのに気がついた。


 最後に見た立体映像より伸びた黒に近い茶色の肩までのストレートの髪をレースのシュシュだったかでしばって広がった袖に膝丈の水色のワンピースの上に悩ましい黒の胸までの見せコルセット風のに可愛い革の紐ヒール靴姿に動悸がしそうだ。


 あの凛々しくも美しいランとのギャップにニヤニヤしそうな顔をなんとか引き締めた。


 俺の姿はランにあってるだろうな? もう少しで制服で来そうになってキヨタカにコーデネーターを呼んでおります、制服では引かれますと言われて、頑張ったんだが……


 黒のジャケットにグレーのVネックのTシャツにデニムの細身のパンツに編み上げ靴が準備されていて、プロポーズ成功時に使う正装がトルソーにかけられていたとき、執事の本気を見た気がした。


 ツバサノイオリにもランから荷物の件で問い合わせがあって、大変礼儀正しいお嬢様でよろしゅうございましたとキヨタカのメガネに涙が光ってたな。


 キヨタカも命に替えておもてなしいたしますと言ってたが……不安だ……いやキヨジ爺よりはマシなんだろうか?


 「ナルフサ〜久しぶり〜」

 愛らしい声に心臓が高鳴った。

 「……ランか? 」

 思わず瞬きをして本物だと言う感動をおさえた。

 「ランですよ」

 可愛い声が追い打ちをかける。

 「こんなに……本物はいいな」

 感動のあまり思わずランと手をつないだ。


 武器ダコはあるが小さい可愛い手にニヤけが止まらない。


 えーとナルフサさん、私はお子様じゃないですがな。

 と抗議するランの愛らしさにニヤける顔を抑えながら、ラン、キョホホトーラは大都会だ、迷子になると死ぬぞと軍関係者から仕入れた情報を少し大げさに伝えた。


 キョホホトーラにも暗部はあり迷い込んだ観光客が被害に合うこともあるらしい、もちろんこの辺は治安はいいので武器を持ち込もうとしたらせいぜい小型銃くらいにしてくださいと弟に槍を取り上げられた。


 一応、小型銃も持っているが……丸腰に近いと不安だ。

 ランは何に替えても守るがな。


 そのランは珍しそうにキョホホトーラの街並みを見回している。

 

 空道には流線型の飛行車が行き交い、高い建物と木々も建物の間から生え、歩道に掃除ロボットが人々の間で普段通り動いている。


 どこが珍しいのかわからない、いつもの風景だ。

 よっぽど、ランが住んでるヤエフ星の方が自然がいっぱいで居住可能な星として珍しいと思うが?


 「車もあるが、歩くか? 」

 「うん、良いの? 」

 ランはまだ周りを見ながら少し上の空だ。


 そんなに珍しいか?

 少しあるきながら例の博物館に近い方へ誘導する。

 中空に『失われた青い星文明展〜古代宇宙船への誘い〜』と描かれた青い星とそこから出で行く古代移住宇宙船の宣伝映像に立ち止まった。


 うわーと可愛い声が聞こえた。

 ああ、あれは失われた蒼い星文明展、見たかったんだよね〜、いけないと思ってたから余計に……とヨダレが出そうな様子で口を開けて見入っている。


 これは、あたりだな、我が君は本当にどこまで読んでおられるのか……

 まあ、ありがたく使わせていただこう。


 例の会長からもらったチケットのカードをジャケットの内ポケットからだした。


 「ラン、ヨダレがたれてるぞ、相変わらず歴史とか遺跡とか好きなんだな」

 俺は少し人の悪い笑みを浮かべてカードを二枚振った。


 ランがきれいな黒目がちな目を見開いた。


 「神様〜ナルフサ様〜」

 「コネは最大限に利用するもんだ」

 ランがしがみついたので少しニヤけながら俺は片目をつぶった。


 あのケルファーゼの若長さんとの逢引ならいくらでも準備しますぞ、ついでに広告塔になって……いえそこまでは黒狼の貴公子に頼めませんしなと会長がブツブツ言ってた。


 お祖父様ファイトですと結構愛らしい令嬢が応援してた、祖父思いのいいお嬢さんだなと思ったくらいだが、ヒロミチに話したらあのお嬢さん可愛いのに俺が知り合いてーと騒いでた。


 ともかく、次の赤い船団の軌跡展のチケットも準備してくれるらしいしな。


 青い星展〜と嬉しそうなランの頭を思わずミツヒコ皇子殿下のようになでて腰を抱いた。


 本物のランはいいなとつぶやくとあのナルフサさん歩き難いのですがと上目遣いで見られてドキドキしながら離して手をつなぎ直した。


 帝立国際博物館で蒼い星文明展を見て、今は離れた 星々国々も昔は一つの星にたくさんの国々が詰め込まれてたなんてファンタジーだよね~と楽しそうなランを堪能した。


 ああ、生ラン最高だ。


 ミュージアムショップで色々と買い込んでるランを見ながら傭兵団長をはじめとする傭兵団の方々への貢物が準備できているかキヨタカにメールをしてからあえて次回の企画の映像ポスターの前に立った。


 ランが気がついてこちらに来たので、今度は赤い船団の軌跡展もやるみたいだ、一緒に行こうと誘うと、わーい、移住船から居住可能な星を探しに行った英雄たちの船だよね~いきたい……でもうまくキョホホトーラに来れるかな? 案外ご指名多いんだよね、まあ、うまく休めたら行こうかな? あとチケット取れたらだけどね、と大喜びだったのでそのときは任せておけ、と胸を叩いた。


 わーい、持つべきものはコネ持ちの親友だね。

 とランは言ってたが『親友』で終わるつもりはない。


 「さて、いい時間だし食事でも行くか」

 ロリアミットの時計で時間を確認するとちょうどよかったので今度は腕を出した。


 えーと……く、組むの? とランが少し戸惑ってる様子なので、ここに手をおいておけ、キョホホトーラで迷子になると……と言うと慌ててランは慌てて手をおいた。


 道を歩くと美しいランを老若男女うっとりと見ている視線に気がついたが呼んでおいた車にまでなんとか冷静にエスコートした。



 ジンに聞いた最新のレストランの屋上庭園を予約しておいたが……気に入ってくれるだろうか?


 お待ちしておりましたイーシス様と支配人が出てきて予約しておいた話が他人に聞かれづらい岩の間から湧き出る泉のそばの東屋風の席に案内された。


 一応カジュアルな若者向けなキョホホトーラ料理にしたんだが、ランは綺麗〜食べるのがもったいない〜と嬉しそうだった。


 一応高級店らしく人が作ってると聞いてランに話の種に伝えるとすごいとおどろかれた。


 キョホホトーラは人口が多いから人がサービス業についてることも多いんだがな……まあ、そのうち気がつくだろう。


 「ランはうまそうに食べるな」

 「美味しいよ? 」

 ランが可愛く小首をかしげたので顔がアツくなった気がして皿を押し付けた。


 楽しそうなランを堪能しながらさてどうするかと策をねる。


 あえて頼んでおいた、二回目にあったときに持っていったのと同じぬば玉の星海にランが気がついて可愛く笑った。


 どうしたと白々しく聞くとなんかナルフサと二回目にあったときにじいちゃんがラッパのみしてたねぇとランがグラスを揺らした。


 そうだなと答えながら次はもっといい格の酒を飲ましてやろうと思った。


 ランが化粧室に立ったすきに客室係をよんで会計をカードで済ませた。


 出るときにランが払うと言ったがもちろんもらわなかった。

 飲みに行くときおごってくれというとそれじゃ悪いよと言いながらも可愛くごちそうさまでしたと頭を下げた姿を見たときに今度は伝統的なキョホホトーラ料理の老舗につれていってやると内心愛しさがとまらなかった。


 車でドライブしていたらなんか楽しそうに笑っていたのでどうしたか聞くと予想外の答えが返ってきた。


 「スーパーマーケット行かないよね」

 スーパーマーケットだと? 行ったことはあるといえばあるぞ。

 なんでスーパーマーケットなんだ?

 「スーパーマーケット? 軍に入りたてのときに何度か使いっぱしりで行ったことがあるぞ」

 あそこは24時間営業なんだよなと清光宮廷近くの軍の本部から少し離れた大型スーパーを思い出した。



 ものがありすぎて先輩の下着とかお菓子とかわからなくてイーシスのボンがぁと呆れられた結果、他のものと出されるようになったが……あんまりいまでもよくわからんと首を傾げるとランがうーんやっぱりとつぶやいた。


 よーし徹底的に庶民な居酒屋探すぞーって拳を小さく振り上げてたがどういうことだ?


 通信機を駆使してランが調べた居酒屋は、あんまり行ったことのない地域にあり珍しかった。


 酒を飲むからキヨタカに車を取りにきて、迎えを連絡したらよこすように手配するようメールすると最高級のお車でお迎えにあがりますと返ってきたので不安だ。


 まあ、この地域も治安はそこそこいいし大丈夫だろう。


 ビルの地下にある居酒屋はランがすごく残念そうに人が給仕してるとつぶやいた。


 自動給仕ロボットウェーターがいる店がいいならキョホホトーラなら高級ホテルだな、そのうち連れて行ってやろう。


 「キョホホトーラは大都会だから人材が豊富だ」

 「そうなんだ、でも料理は自動調理器だよね」

 人間な給仕に気を取られてるとランに面白くなくてこっちを向けと手で顔を向けた。


 自動調理器は業務用らしく盛り付けが庶民的でおもしろいと思いながら話を切り出した。


 「ウェーターはともかく縁談が来てるとか? 」

 「具体的にはきてないけどアルセム傭兵団の若団長とオルデーファ傭兵団の次男とジェタゼアミ傭兵団の双子が嫁にくれか婿入りでもいいとじいちゃんに直談判したらしいよ、そんなにケルファーゼ傭兵団が魅力的なのかな? 」

 そんなにか? ランのモテっぷりを改めて思い知った。

 確かその他に権力増強を狙う我が君の母親の違う弟皇子殿下とかからも縁談があったが全力で拒否したとフィン団長からの裏情報があったな。


 頑張れよ、ナル坊〜とタバコをふかしてニヤリとするフィン団長が見える気がした。

 

 「それだけじゃないと思うが……確かに創生の傭兵団たちの団結力は強い……特に中心的なケルファーゼ傭兵団と血をつなぐのも……」

 いや、諦めるなと俺はつぶやいた。


 気がつくとランは酒を次々と頼んでのみながらグラスを空けている。

 つまみもうん、庶民的だと楽しそうだ。


 可愛すぎると思いながら酒を一口飲んで薄いと思った。

 流石、庶民的な店だと妙に感心した。


 「それで、ランは誰かと約束したのか? 」

 「してれば、来てないよ、ナルフサ、なんでキョホホトーラに住んでんのさ〜」

 近くに住んでれば偽装婚約とか頼め……高位貴族のボンには無理か……と口の中でぼやいてるランにそうか、そんなに俺は対象外かと暗い笑みを浮かべた。


 偽装婚約だとって、悪かったよーモテないんで頼める人はナルフサしかいないんだよー。


 ケルファーゼ傭兵団の若いモンとは次期団長として接することが多いんで飲み会のときもぐでんぐでんに酔っぱらえないし……


 ランが可愛く言い訳した。


 「そうか、酔っぱらいたいたいのか」

 「うん、みんなみたいに恋バナとかしたいよ〜ナルフサさん、それ美味しそう」

 サムライ•ロックと言うらしいぞ飲むか? よってきたのか可愛く甘えたのでグラスを差し出した。


 恋バナって恋愛相談とかアレか? 誰か好きなやつでもいるのか?

 暗い笑い声が出そうになるのを抑えながら樂しそうなランにさらに酒をすすめた。


 とりあえず何か話そうと……なんで俺は『子守り武人』って呼ばれてる黒歴史を話すんだぁ〜現在進行形だが捨て身すぎだろうがぁ……


 「子供の面倒も見られるぞ」

 ヤケクソで酒を飲んだ。

 「うん、えらいね〜」

 よってきたのか妙に色っぽい声でランがほめた。

 「だから、いつでも嫁に来ていいぞ」

 「うん〜行っちゃうよー、共働きだからちゃんと子供も見てね〜」

 言質を取った、酔ってたなんて言わせない。

 俺はランの落とした刺し身を箸でつまんでショーユをつけてランに憧れのあーんをすると素直に口を開いて食べた。


 「では、今からお前は俺の婚約者だ、愛してる」

 甘く微笑んで調子にのってランの手の甲にキスした。

 ランを見ると赤くなってて可愛かった

 よろしくお願い致します〜と甘い声が聞こえて何かに火がついた。


 「こんなに甘い笑み浮かべてると令嬢に食べられちゃうよ」

 「お前だけだ」

 色っぽくランが俺を見たので囁いた。

 「……じゃあ、私に食べられちゃうよ」

 「骨まで食ってくれ」

 真っ赤になったランが可愛くて思わず顔を近づけ唇を奪った。


 酒とトマトの味が蠱惑的だ。


 「もっと、味わうか? 」

 「……うん……」

 ランの可愛さに理性が飛んで、ラン、食べて良いかと聞いたらコクンと頷かれたので通信機でキヨタカのよこした使用人に連絡した。


 会計をしようと立ち上がるといっちゃ嫌だと可愛かった。

 ウェーターを呼んでカードを渡すと……ブラックホールカード〜と震えられた……おい、そのくらいで動揺してどうする?


 前のカジュアルキョホホトーラレストランは全然大丈夫だったぞ。


 電子マネーでできればと呼ばれて出てきた店主に言われた。

 まあ、電子マネーも用意しているが、飲食店がブラックホールカードくらいで動揺してどうする?


 フェニックスプラチナカードを出されたら動揺しても良いと思うが……


 無事に会計を終えて使用人が運転するながいソファーがコの字に並んだ車にウトウトしだしたランを横抱きにして連れ込んだ。


 別邸ツバサノイオリにつくとキヨタカとキヨジ爺をはじめ使用人たちが並んで出迎えて大歓迎だった。


 すごいね……かなり酒に酔ってるランが可愛く笑った。

 そのまま、ベッドに連れ込んで……本当に骨まで食べてくれるか? ときくとうん、いいよとベッドに押し倒されて……官能の深みという天国に行ってしまった。


 ああ、ランが、生ランが……止まらない……


 肉食動物のような幸せの一夜が明けた。

 暖かいランのぬくもりを感じながらさてどうにプロポーズしようと思いながら眠りについた。


 モゾモゾと腕の下でランが動くのを感じた。

 何かさがしてる?


 目を開けるとランと視線があった。

 なんかジタバタしている……腕に力を込めた。

 「え、えへ? 」

 「逃げる気か? 」

 子犬を追い詰めるように甘く攻め立てた。

 「これはなんかの……」

 ランが逃げようとしたので抱きしめてみつめた。

 「責任を取れ」

 ああ、そうだ責任がランにはある。

 え? えーと普通男女逆なんじゃないかな? 私は全然責任とか気にしてな……とか言って目をパチパチさせてるのが可愛い。

 

 「俺の心を奪った責任を取れ」

 耳元で甘く囁き、耳たぶをアマガミした。


 なんて甘美なんだろう。


 「愛してる、結婚してくれ」

 甘い声でランの耳元で囁いた。

 「私、私庶民で傭兵で全然、おしとやかじゃないよ」

 ランが戸惑った声で返したので別に問題ないと微笑んだ。


 ランをみるとなんか嬉しそうに開き直ってる。

 あ、あれ? やっぱり食われたのは俺か?


 「こんな傭兵庶民でいいなら責任取るけど……」

 「末永くよろしく頼む」

 俺は嬉しくて満面の笑みを浮かべた。

 

 その後まだ早いことに気がついて嬉しさのあまりランを再び堪能した。


 気がついたら昼だった。 


 足……足腰がたたない、この体力バカ武人〜とランにパンチされた。


 こ、婚約破棄かとオロオロとラン抱きかかえて用意された風呂に入れて、私の荷物はときかれて使用人に触らせて良いか? と聞いたら、ここはホテルじゃないんかいと突っ込まれた。


 あ、あれ? 別邸『ツバサノイオリ』って説明してなかったか?


 わーん色々とダメージがとランがジタバタしたのでバスタオルで拭きながら押さえ込んでとりあえず準備されていた支度を手伝って着させた。


 キヨタカが使用人に指示して準備しておいた。

 銀の雫庵の饅頭と星影玉露が置かれたテーブルにランを膝に乗せてついた。


 キヨジ爺とキヨタカが執事の正装をして控えている。

 使用人たちも何人も控えている。


 「なんでこんなに歓迎ムードなのさ」

 「俺の大切な人を連れてくると言っただけだが」

 足腰のたたないランを膝の上に乗せて饅頭をあ~んしたが奪い取られて自分で食べられた。


 仕方なく俺も自分の分にかみついた。


 蒼い星時代からの老舗で皇室御用達の饅頭は皮まで甘くてほんのりサクラの香りがする餡がうまい。


 くっそーと言いながらもこの餡美味しーとかわいい顔のランにもっと食うかと聞くと頷かれた。


 こちらのお饅頭をどうぞと涼しい顔でキヨタカが饅頭をランに包装をむいて膝まずいて饅頭を渡した。


 「リアル執事さんだぁ」

 ランが妙に喜んだ、俺は思わずキヨタカをにらんだ。

 「ぼっちゃま、嫉妬深いと嫌われますよ」

 にっこりと余裕シャクシャクな様子にムッと来たがランを抱きしめて抑えた。


 ナルフサさん、あんまりキツイとなにかでちゃうとポンポン腕を叩かれたので緩めて頭頂部にキスした。


 ナルフサぼっちゃ〜良かったですなぁとキヨジ爺がハンカチで涙を拭った。


 おい、お前らどれだけ俺がモテないと思ってるんだぁ。


 まあ、モテないけどな。


 可愛いランを堪能しながら俺も次のみかん饅頭にかぶりついた。




 次の日さっそく役所に婚姻証明書を出してはれて伴侶同士となった。


 準備しておいた、清楚なサクラ色のツーピースがランによく似合ってた。


 ナルフサ、その格好反則です、似合いすぎ〜と俺のたいしたことのない正装姿も褒めてくれた。


 ソラヒコ皇太子殿下我が君のランと婚姻して良い許可証を役所でだすとあっさり婚姻できた。


 ソラヒコ皇太子もグルかいーとランが驚いた顔をして俺を見上げた。

 

 近衛武官は主の許可がないと結婚できないと説明した。

 ああ、ジンも嫁をもらうときに我が君の許可証をもらっていたからな、貴族なんてある程度の政略は仕方ない。


 政敵とか色々あるからかな? と小首をかしげたランが可愛くて抱き上げたくなった。


 俺はランが好きだから結婚するんだぞと手を握るとそ、そうなんだとしたを向いて真っ赤になられた。


 可愛すぎる、家に帰ってもう……


 おめでとうございますと婚姻課の職員の声で正気に帰って良かったぞ。


 大丈夫かな、私とランが心配そうだったがその日も抑えがきかなかった俺をゆるてくれ〜



 さらに翌日イーシスの本家に挨拶に行ったらキヨジ爺とキヨタカが手を回さなくても大歓迎だった。


 「黒狼の貴公子……ラン•ケルファーゼさんがうちの嫁に……でかした愚息〜」

 「よかったですね」

 俺を差し置いてランが義娘に~嫁に~と当主な母親とその伴侶な父親は大興奮だった。


 なぜか有給取っていた弟は黒狼の貴公子がなんで兄上様のお嫁さんに~どうやって騙したんですか? と言いやがった。


 だましただと? 今度の休みは兄がしっかり鍛えてやろうじゃないか?

  

 ランは相変わらず私は庶民だけど傭兵だけど大丈夫かなと心配そうだったが、間違いなく大丈夫だ。


 創生の傭兵団の若長の称号は伊達じゃないんだぞ。


 

 もちろん、我が君にもランを連れて挨拶に行った。


 いつもの螺鈿細工の椅子にすわる我が君はクスクス笑いながら


 「ナルフサ〜、この子守りむっつり武人〜よかったね」

 と祝福のお言葉をいただいた。

 

 なんかランが口を押さえてるのが見えた。

 笑いたければ笑え〜


 その後、ミツヒコ皇子殿下にランを紹介した時に、なる、抱っこ〜とせがまれて抱いてなぜかランが笑いそうになってた。


 悪かったな、子守り武人で。


 青きお方様との間のミツヒコ皇子殿下を後見し立太子するためにも早く子どもをとの我が君のお考えはわかっているのだが……


 何年か後に産まれたうちの息子たちと娘はミツヒコ皇子殿下の護衛兼遊び相手に自然に選ばれた。


 息子たちは少々荒い遊びや高度な学習に付き合わされても大丈夫だったが娘はミツヒコ皇子殿下にある意味寵愛され振り回され、いつか殴りたいですと拳を振り上げてた。


 あの子が一番、なるに似てるとミツヒコ皇子殿下が構いまくるのでいつか切れるんじゃないかと不安に思ってる。


 爽やかで礼儀正しい皇子殿下らしいと外面がいいしモテるのに……あれか? 好きな娘をついいじめて嫌われると言うやつか?



 いざとなったら最速の宇宙船を準備してとランがつぶやいてるのを、複雑な思いで聞いた。


 まあ、子供たちのことは、この際また機会があったら本人たちにまかせることにしよう。


 現在進行形でこのお姉様〜ってランにまとわりつく令嬢どもは何だ?


 どこでランが来るのを知った? 諜報組織より恐ろしいな。

 

 「あ~ん素敵〜本当に黒狼の貴公子様が息してますわ〜」

 「図々しいのではなくて、私は……」

 「イーシス卿とご婚姻なんておいたわしい」

 お姉様と呼んでもよろしいかしらって見事にランに取り付いている。


 どこで我が君に挨拶に来ることを知ったんだぁ〜

 ジンが好奇心いっぱいで見ながら護衛してるのが見えた。


 俺は咳払いをしてランを後ろから抱きしめた。


 「ご令嬢方、ランは私の伴侶なのをお忘れなく」

 ランの耳たぶにキスした。


 きゃーさすが黒狼の貴公子様〜氷の武人様を溶かした功労者ですわ〜とは一体何なんだぁー。


 一応愛想笑いと挨拶くらいしてるはずだぞ。


 あとで別邸に戻ってランにあれは何さと詰問されたのでラン以外に愛想笑い以外を浮かべる義理はないと真面目にいったら回し蹴りされた。

 

 少しはご近所づきあいとか考えなよ〜って言われながら、俺は愛されてると嬉しかった。



 この変態と小突かれたのでこれでお前を甘やかす権利を得たと嬉しそうに笑ってこれ幸いと押し倒した。


 ああ、幸せだ……柔らかいランの身体を抱きしめて思った。


 俺の心の氷を氷解させたのはランなのだから責任とって一生一緒にいてほしいとまだ寝ているランの首すじに何度も口付けた。

 

 お前の仕事の邪魔はしないから必ずこの腕の中に帰ってきてほしい。


 ……だからって指名が入ったからって速攻で腕の中から出ていくことないじゃないか。


 仕事が大事なのは理解している……だが。


 ラン、愛してる〜だからはやく帰って来てくれ〜。

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甘やかす権利〜責任を取れと美丈夫武人に迫られました〜 阿野根の作者 @anonenosakusha

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