氷の武人は黒狼に会えず子守り武人になる

 何が悲しくて我が最愛のランを他の男にやらなければならん。

 俺は通信機を潰しそうになった。


 帝都キョホホトーラの清光宮廷はきらびやかな外見と裏腹になんか渦巻いてるらしい。


 武門イーシス家の俺にはよくわからないんだが、大星公が正妃に子供を作らないならば、他の皇子を押しますぞと我が君を脅したときは冷凍武人と呼ばれてる俺でも冷気を感じた。


 壮麗な宮廷の我が君の執務室は空調設備完璧のはずなんだが……


 いい度胸だねと我が君が冷たく微笑んだとき、最高に元々好意一つないはずの大星公に宇宙の果まで逃げろと言いたくなった。


 敵もさるもので動揺してるようには見えなかったが……


 民意と公認傭兵団を味方につけた我が君に対抗できる皇子殿下はいないと言うこととなったようだ。


 その影で早く若長を落とせと圧力を我が君にかけられた。

 ついでに全星公認傭兵協会名誉理事のフィン団長にも早く婿に来いと度々キョホホトーラに来るたびに酒盛りの席に呼び出され絡まれた。

 

 この間なんぞ大星公が裏から回したらしい高級コンパニオンの派遣の護衛の仕事で支配人にうちに嫁に来ないかと誘惑されてたぞ……違った引き抜きか?


 その前の仕事の商人の接待では例の歓楽星で男女取り混ぜてモテモテで、娘を彷彿とさせたって古参の連中が言ってたしな、最高位の高級男娼に指名されたけど断ったらしい、良かったな、娘と違って自由人じゃなくてよ。


 とか色々不安を掻き立てる会話をしてくださった。


 フィン団長は跡取りだったランの母親にお前は自由だと言って育てたら、自由奔放すぎて、男女ともにモテまくり、あっちの星、こっちの星ごとに恋人がいたらしい。


 そして、最終的にとある星で公務で出かけて宇宙海賊に襲われてた、皇子殿下を助けて、惚れられて、皇族の狂気な恋に押して押して押しまくられて婿に来るならと言う条件で結婚したらしい。


 フィン団長は皇族の婿がきた時点でなんか教育間違ったと気がついたらしく、ランにはお前は庶民だ、普通の人だ、大庶民だと教育しまくり、あの慎ましくもカリスマばっちりの変な美人ができたようだ。

 

 俺は、お前が気に入ってるんだ、変な権力者にランを攫われる前にさっさともらいに来やがれとタバコをフィン団長が吸った。


 そうしたいのは山々だが、なかなか忙しい。


 今日も我が君に少しは社交をするように命ぜられパーティに貴族の正装で出ているが、そんなことしてる間があれば修練してるか、ランに会いに行きたい。


 最近、どういうわけか若い令嬢に声をかけられることが多くなった、どうしてもこういう場に出なければならないのであれば、ランと出たい。


 ランならやはりロイヤルブルーの肩を出した衣装がいいだろうか? それとも黒レースの膝丈のミニドレスだろうか?


 きっと形の良い足が魅力的だろうなぁと思いながらウェーターから赤ワインをもらった。


 「ナルフサ様」

 誰かが声をかけた、だ。


 良くも姿が見せられたものだなとワイングラスを握りしめた。


 「何か? 」

 「まあ、相変わらず、冷凍されておりますのね」

 こんなに愛らしいワタクシが声をかけておりますのに……色っぽいため息と聞きましたのにとかしましいことを言い出した。


 この女、本当に俺の頭部血管に恨みでもあるのだろうか? それとも高血圧にさせる会の会長か?


 それより、取り巻き男保護者はどこいった。

 思わずため息が出た。


 「まあ、そんなにワタクシのことを」

 あほ女が俺のすぐ横に来て見上げていた。


 気持ち悪い。


 「俺はもうあなたと関係ないはずだが? 」

 「まあ、最近恋煩いをしてるのかと噂されてるのをご存知ですの? 」

 ワタクシの事を想って言い出せないと聞いておもいまして参りましたのに……とが俺の腹をつついた。


 本当に武器を持ち込めないのが残念だ。

 頭部血管保護の為に早々に撃退しないとな。


 「はこの宇宙一の美人に恋煩いしてるのですよ」

 お前ごときお呼びでない、そう思いながら冷たい笑みを浮かべた。

 「ワタクシも実はナルフサ様を……」

 がモジモジしだした様子にげんなりする。


 青き姫君やランならともかく元婚約者お前ごときが宇宙一の美人? 一度3DMRIでも検査したほうが良いと思うが……


 流石全宇宙、頭部血管撲滅の会、代表なだけあるなと妙に感心していたら、やっと取り巻き保護者の一人がやってきた。


 すみません、すみません、すみません〜と謝ってワタクシは氷の武人に愛をおしえて完璧な逆ハーするの~と騒ぐアホ女をあとからやってきたもう一人の保護者と引きずっていった。


 何だったんだ? いったい?


 「あの女、相変わらずぶっ飛んでますね」

 ジンが貴族の格好をして物陰から出てきた。

 「見てたのなら、なんとかしてくれ」

 「いやですよ、僕だってあの女にどんだけ付きまとわれたと思ってるんですか」

 挙句の果がソラヒコ殿下に紹介してくださいませですよ、アホですか? とジンが天井を仰いだ。


 ジンも被害に合ってたか……まあ、名門貴族の次男だしな、皇太子殿下付の近衛武官がそんな迂闊なことをするわけないと言っておこう。


 「大きなお星様の差し金みたいですよ」

 ジンがこちらを見た。


 なるほど、我が君に影響力が薄くなった大星公が俺にあの女をぶつけてきたわけか……あの人も歳を取りすぎて焼きが回ったんじゃないか?


 色仕掛けなら、ランレベルの美人、いやランを連れてこい〜


 

 次の日、青き姫君……お方様を膝に乗せてイチャイチャとソファーでしている我が君を恨みがましい目でみたら、例の女は撃退できたみたいだね〜と爽やかに微笑まれた。


 なんか、図られた気がしたが……まあいい。


 あ、そこだめーとか私室ですが、やめてください。

 まあ、始業前だから仕方ないか……


 今度、有給あげるから、若長をキョホホトーラに誘ってデートすればと我が君は青きお方様の首元にキスをした。


 ありがたい話と受けておいたのに〜……なんでランと繋がらないんだぁ〜


 おかけになったメールは星通信範囲外にいらっしゃいますか、電源が切られておりますって何だぁ〜


 俺もランも仕事柄、結構良い機種使ってたよなぁ〜

 とりあえず預けておいて……このままウザイって無視されたらと震えながら、休みは弟と鍛錬して終わった。


 兄上の体力バカ〜ってお前も国軍の軍人だろうがぁ、弟〜。


 半年後、ランから返信メールが届いたときは我が君とかなり遠い星まで来ていて、キョホホトーラに誘うどころじゃなかった。


 平和は良いけど食いっぱぐれないようにするのが大変とメールがきて、あえなくて残念と思いながらお前ならやれるとメールを返してタケミにそれじゃ、女の子に伝わらないです、先輩と突っ込まれたのでヘットロックをかけてかわいがってやった。

 

 ちょうどその頃、オルギ星に我が君の外交護衛について行ってて、公女殿下に付きまとわれた。


 「ナルフサ殿、ケルファーゼの若長様と仲がいいそうじゃな、紹介してたもれ」

 「殿下、ラン……ケルファーゼの若長殿になんの御用がお有りでございますか? 」

 一応外交なので仕方なく腕にしがみつく公女殿下を見た。


 「エルドローエ星の公女殿下と良いライバルなのじゃが、生ラン若長様にあっちゃいました〜と小賢しい映像メールをもらってのう……私が若長様の大ファンと知っておりながら……あ~や~つ〜」

 ぎりぎりと腕をつねられものすごく痛かったがやせ我慢で乗り切った。


 「ランとはしばらく会えてません」

 「さようか? ソラヒコ皇太子殿下には、そなたとラン若長様が大変仲が良いと聞いたのだがのう」

 公女殿下は扇を口元にあてて私を見上げた。


 肉食動物に捕食されそうな宇宙ネズミにでもなった気がしたが耐えた。


 まあ、良いわ、いつか紹介してたもれと耳元で囁いて公女殿下は去って行かれた。


 その場面が配信されてオルギ星、公女殿下と良い仲とか恐ろしい噂が少しだけたったけど、全力で否定しておいた。


 ランの耳に入ってもなんとも思わないのはわかってる……だが気持ちの問題だ。


 青きお方様が御懐妊なされて我が君が嬉しさのあまり赤子用品をオーダーメイドしていた頃、エルグレスケール種苗店がシルサム星大統領からの御懐妊祝いとして珍しい虹色に輝く花を持ってきた。


 「今回はケルファーゼの若長はんを頼めへんかったんでヒヤヒヤでしたわ」

 体格の良いエルグレスケール種苗店、社長が汗を拭き拭き従業員に指示して大鉢に植えられた虹色の花を皇太子宮の居間に設置している。


 「ランを、若長をご存知なのか? 」

 「このお花の苗をシルサムまで護衛してくれたんですわ」

 安心安全でしたで〜と社長が笑った。


 ランがかかわったと思うとなんか愛着が湧いた。

 我が君に許可をいただいてランにも見せようと心に決めた。


 もちろん、いいよーいっそなんか花贈ったら? と我が君はお青きお方様の腹に耳をあてながらおっしゃった。


 種苗店には中庭に子どもが転んでも怪我しないように空気芝を発注したようだ。


 本当に子煩悩でいらっしゃる。と思いながら十二枚の虹色の花弁が輝く花を3D立体映像メールで撮影してついでに声を入れて送った。


 ありがとう〜とランの可憐な声が返ってきてニヤニヤしてたらヒロミチに気持ち悪っと言われた。


 もちろん返信は仕事頑張れだ。

 ランにそれ以外返したら邪念が伝わって嫌われそうだしな。


 しばらくして大きなお星様のせいでイーリス近衛武官、美しい令嬢と交際? と例の女との映像がゴシップ配信に載って出版社に殴り込みをかけそうになって我が君に凄腕弁護士を紹介された。


 その日の夜にあれは事実無根だ〜と言うメールを送ったが返ってきたメールがそっけないもので元婚約者あの女と関係者〜潰してやる〜と心に決めた。


 そんなこんなでイーシス家のコネを使いまくり元婚約者あの女を潰したり、大きなお星様大星公の間諜や手先を潰したりして我が君に、頑張ってねと笑われてるうちに……何年もたった。


 ランとはこまめに連絡を取っていたがそれこそ生ランに全く会えずに何年もたってしまった。


 その間になぜか俺は、皇太子殿下付近衛隊長になっていた。

 フジーク隊長が皇帝陛下付近衛隊長にご栄転されたからなのだが……


 「モテモテだね、子守り武人」

 螺鈿細工の椅子に足を組んで腰掛けて我が君が手を広げた。

 ミツヒコ〜父様のとこにもおいで〜と甘い声を出してる。


 「いや、なるがいいの」

 青きお方様によく似た青黒い髪の美しい幼児が俺の胸にしがみついた。

 只今、絶賛、我が君溺愛のご子息なミツヒコ皇子殿下に取り憑かれ中だ。


 何がいいのか乳母よりも俺に抱っこ〜とねだる。


 「……ナルフサ……」

 「我が君、恨みがましい目で見ないでください」

 私はやっと可愛い我が子とふれあう時間をとったのにと我が君は顔に手をやった。

 


 「なるがいいのー」

 「ナルフサ、ちょっと有給休暇を取る予定はないかい? 」

 我が君が嫉妬深い眼差しで俺を見た。


 「そうですわ、ナルフサさんはワーカホリック気味ですもの」

 青きお方様がクスクス笑いながら侍女に浮遊ワゴンを操作させてお茶とお菓子とジュースを持ってこられた。


 「かあしゃま〜」

 ミツヒコ皇子殿下は嬉しそうに手をパタパタさせた。

 「ミツヒコ、父様がだっこしたいみたいですよ」

 「……あい」

 渋々、本当に渋々ミツヒコ皇子殿下は我が君の腕にだかれた。


 なんで、ミツヒコはナルフサが好きなんだい?

 なるは強いの、怖くないのと可愛くミツヒコ皇子殿下が小首をかしげた。


 そうなんだと我が君が目を細めた。

 と~しゃま怖い〜とミツヒコ皇子殿下がギャン泣きして慌てて俺が受け取った。


 ミツヒコ〜私が悪かった〜

 我が君が慌ててミツヒコ皇子殿下を撫でた。


 だんだん落ち着いてミツヒコ皇子殿下がうとうとしだした頃、我が君が俺に命じた。


 「……子守り武人、若長との結婚のみ許可する、だからさっさと落としてきなよね」

 「落とすも何も会えてません」

 「このどヘタレ〜」

 我が君が叫んだ。


 わ~んとふたたび泣き出したミツヒコ皇子殿下の背中をポンポンと叩きながら、有給休暇取れてればとっくの昔にとってランに会いに行ってると思った。


 

 本当に何年も何年もあえてないんだなと思った矢先フィン団長に呼び出された。


 ランに、所帯を持つようにすすめる、ナル坊、お前はどうする?

 薄暗いバーでタバコの煙をふかしているフィン団長の目が光った。


 「ランを嫁にください、絶対に捕まえてみせます」

 「そうか、協力は惜しまないぜ」

 フィン団長が笑った、お供できてたらしい傭兵のおっさんたちもよーしまかせろと胸を叩いた。

 

 我が君にも打ち明けてケルファーゼ傭兵団のおっさんや団長とも打ち合わせを重ねて、ついに決行日がやってきた。


 やっと近衛武官の慶事の正装が使えるねと我が君に笑われたり、ナル坊〜この機種どう使うんだ? とかきかれたりしたのもいい思い出……になるといいなぁ。


 本当に俺に相談メールが来るかすごく不安だ。

 でも、あいつは団員に弱みは見せねぇから大丈夫だとフィン団長もおっさんたちもすこし寂しそうに言ってたしな。


 信じて待つとしよう。

 背中のミツヒコ皇子殿下がホカホカでなぐさめられた。


 決行日の昼休みに愛しいランからメールが来た。

 ほれ、俺の言った通りナル坊に来ただろう? とフィン団長がニヤニヤ笑ってるのが見えそうだった。


 私もソロソロいい歳になったし、傭兵団も継がないとだし、伴侶を探そうかなぁ……(汗)


 もちろんそのメールに速攻で返した。


 いつが暇だ、キョホホトーラに来れるか? 会おう。


 うん、ありがとう、予定確認するねとドキドキしながら待ってる俺のもとへ答えが返って来てめでたく会うことになった。


 「子守り武人、作戦決行か? 」

 「お前まで子守り武人いうな」

 メールを覗き込んだヒロミチをちらっと見た。


 作戦の事は皇太子付近衛武官仲間に我が君のおかげ様で周知されまくっている。


 「若長様がイーシス隊長のお嫁さんになったら、きっと会えますよね、タケミ先輩」

 新人女性近衛武官、エリゼがウキウキ隣で食事をしていたタケミに小首をかしげた。

 「取らぬ狸の皮算用っていう言葉もあるんだよ、エリゼ」

 「タケミ、あとで覚えてろよ」

 わ~先輩、隊長〜すみません〜と失言大魔王タケミが慌てる様子を見ながらあとで鍛錬してやろうと思った。


 うん、ケルファーゼ傭兵団のおっさんたちもフィン団長もラン指名の仕事をなんとか団長が直々でるとかなんとかで分散して受けてくれたみたいだし、事がなったら最高級の酒とかでお礼をしないとな……


 ああ、そういえば、この間いやいや我が君のご命令で出たパーティの主催者が、ランが好きそうな博物館の企画展のスポンサーをしてて、たしかいくらでもチケットを都合すると言ってたな……連絡してみるか……


 あとは別邸の用意だな「ツバサノイオリ」辺りが大昔の蒼い星風レトロで良いか?


 キヨジ爺に連絡して……っておいキヨジ爺先走るな〜


 ぼっちゃまが女性を連れ込まれるのですぞー最高級のおもてなしを〜と画面の向こうで執事長で爺やだったキヨジ爺が大騒ぎしていてなんか頭が痛くなった。

 

 次席執事でキヨジ爺の息子のキヨタカに頼むか……


 そんなこんなで愛しいランが来る日が来た。

 もちろん車も購入してばっちりと準備した。


 ファッションもコーディネーターに頼んでたぶん、さり気ないおしゃれになってるはずだ。


 そんなことを思いながらアンティークだというロリアミットの腕時計で時間を確かめながら宇宙港の地上エントランスについた。


 本当に来るんだよなと心配になった頃、愛しい、この宇宙一可愛い若長の姿が見えて抑えるのが必死だった。


 生ランの威力は凄すぎる。


 さあ、どうにプロポーズしようか……

 頑張るぞと心の中で拳を振り上げてあるき出した。

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