氷の武人は黒狼に背中をあずける
若長殿は今は何をしてるのだろうか。
そんなことを思いながら、
青い王族の生き残りにかの青き姫君がいるらしいことはこちらに逃げてきた青い王族の末端の情報で分かったのだが、細かい位置がわからない。
ケルファーゼ傭兵団に情報収集のプロがいるとのことで我が君が聞いて来てほしいとなんなら若長殿を落としてもいいよと少し調子を戻してニヤリとされたので休暇をいただいた。
若長殿が俺のような無骨ものに落とされるわけないと思いながら荷物を詰め込んでいく。
ご下賜された酒は戦時ためか良い物ではあるが一流品まで行かなかった、終わったらもっと良い物を贈らねばと思いながら小型浮遊機をケルファーゼの宇宙船まで駆る。
手入れの良い宇宙船の前で油断なく作業する公認傭兵にラン殿に会いたい旨をつげると指で招いてついてきなと短く告げられた。
通路の歴史と最新システムの融合のような整備技術に関心しながらついていくと奥まった団長室と書かれた部屋にみちびかれた。
「なんで、帝国の武人様が俺たちに用があるんだ? 」
タバコをふかした渋い壮年の男性が宇宙船の団長室の机にブーツを履いたまま足を投げた姿勢で俺を見た。
身体が震えないように腹に力を入れて見つめ返した。
「ラン・ケルファーゼ殿に会いに来た」
「ランにか? 」
するどい眼差しで俺を探るように見る、フィン・ケルファーゼ団長にもう少しで引きそうになった。
「ランは庶民な公認傭兵だぞ、あんたみたいな貴族のボンと釣り合わないぜ」
「ケルファーゼの若長が
清光宮廷にラン殿が引き取られれば皇帝陛下の姪姫君だぞ。
皇帝陛下は唯一の同母の弟皇子殿下を溺愛していたと聞いてるし、なくなった戦闘の相手の集団はこのケルファーゼ傭兵団も動いたが、皇帝の影猫とかいう特殊な軍が動いて完膚無きままに消滅させたとか聞いた気がするが……
そう、『皇族の狂気』によって今ではその宙域には小惑星もないとか。
しかも、ケルファーゼ傭兵団自体も創生の傭兵団の中心として支持ありまくりの公認傭兵団だ。
それに皇帝陛下は弟君に良く似た美しいラン殿を間違いなく溺愛するだろう……そうなればイーシス家ごとき出る幕は無い。
「むしろ、俺がふさわしいかどうか……」
ボソリとつぶやくと何故かさり気なくこちらを警戒していた中年傭兵にポンっと肩をたたかれ同情の眼差しを向けられた。
フィン傭兵団長がニヤリと笑った。
「若モン、気にいった、ナルフサって言ったか? ナル坊だな、ランが庶民ってことだけ覚えてりゃ、いつでも来ていいぞ」
むしろうちに婿に来るかぁとフィン傭兵団長がワハハと笑いながら携帯灰皿を呼び寄せて浮いてきたそれにタバコを押し付けて消した。
自分を知る若モンがいるなんて帝国軍も捨てたもんじゃねぇ、酒盛りでもするかぁとフィン団長が足を下におろして立ち上がって伸びをした。
「ああ、そうだ、ランはちょっと偵察の連中とつなぎをつけてるんだがよ、ちょうどいい情報が来たから、ナル坊んとこの主に送ってやんな」
通信機を出しなとフィン団長がニヤリと笑った。
慌てて出してもらった情報は青き姫君のいる古代の移住宇宙船遺跡の詳細な場所でしかも斥候による安全な侵入通路まで入ってた。
早速緊急メールで戦略本部に送ってとりあえず帰ろうとすると我が君から
文面から狂いそうな様子が見えたし中年傭兵の首に絡みついた太い腕を解くのが大変そうだったので
おい、こりゃ、そうそうお目にかかれねぇぜとか言われたが……本当にそうなのだろうか? 普通に晩酌するクラスの酒よりは少しだけ上だが?
団長室の床に直接座って楽しく酒を飲んでると軽やかな足音がして、麗しい彼の人が扉を開けた。
「ランー、おめー本当に女子力とかいうのがないなぁ」
フィン団長がまだ何か言っていたが俺はラン殿に釘付けだった。
麗しい顔に返り血がついてさえそのカリスマ性はかがやくばかりだ。
「あ……」
俺に気がついたようでびっくりしたラン殿の黒目が可愛いと思わずにやけそうになった。
「ラン殿、おかえり」
にやけそうなのを微笑みにかえて手を上げた。
「この間のことをナルフサさんが心配して差し入れもって来てくださったってーのになんて格好だ」
フィン団長が酒を瓶のまま口に運びながらラン殿が怪我をしてないか確かめるようにみた。
特に何も言わないところを見ると大丈夫らしい。
「
偵察のサナンを待ってたら襲ってきて、やばかったよ。と愛らしい声で答えた。
あの貴重な情報はこの愛らしい若長が苦労して送ってくれたらしい、無駄にできないと心に誓った。
ナル坊〜、酒が溢れるもったいないぜ〜いう、傭兵のグエリさんの声で気がついた。
もう少しでグラスを潰すところだった。
あの一族の唯一の弱点は女性が生まれにくいことだ。
女性を中心に一妻多夫で多種族交配可能な帝国人の女性は、子供を作り一族で地位を確立したいはぐれの若い男どもが狙うわけか……
今回こちらについたのも嫁欲しさだったな。
ラン殿に目をつけた趣味の良さには褒めてやる。
だが、ラン殿にプチられていなければ、この手で……
後に、あの種族のたくましさに惚れるゲテモノ好きもいたと聞いた、だが食生活が合わないと騒いだらしい。
まあ、この際どうでもいい話だ。
ポケットからハンカチを出しそっと立ち上がる。
可愛く頬をかきながら困った顔をしながら酒瓶をかかげる団長と傭兵と対応しているラン殿の横に立ってハンカチを渡した。
「可愛い顔が台無しだ」
「あの、シャワー行きますから」
困惑の表情をされて返された。
外商が持ってきたのを適当に購入したが、触り心地が悪かったか?
そ、それにシャワー……
「そ、そうか」
美しいラン殿の肢体にお湯がかかる様を想像して思わずハンカチを握りしめた。
「このむっつりスケベ、何想像してんだよ」
「ナル坊〜だめだぞ〜」
傭兵たちがニヤリと笑って手招きしたので再び座り込んで酒を飲み交わした。
「そういや、ナル坊、あの古代の移住宇宙船はな、もともとは砦としてつかってたからな、侵入通路の罠に注意しろよ」
「ガーリア弾とか飛んできそうだな」
「いや、ビビセタ砲だ、まだ生きてる」
「原子炉も微妙に稼働してるぜ、ロンダース社、今もあるだけあっていい仕事してるぜ」
団長と傭兵たちが飲酒で口が軽くなったらしく次々に情報をくれた。
もちろん、秘すべき事は話してないのだろうが、ナル坊と呼ばれて荒々しく接されるのもなんか楽しい。
近衛武官でも少し浮いてる自覚はある。
楽しく酒を酌み交わしていたらいつの間にかフィン団長も傭兵たちも沈没していた。
俺はそんなに酒を飲まんから気が付かなかったが、ザルだったらしい。
そんなことを思いながら情報を我が君に送ってると軽やかな足音とともに清々しい香りの若長が……ラン殿が戻ってきた。
くつろぐとき用らしいチュニックとレギンスが可愛い。
「じいちゃんたち、いっちゃいましたね」
「おかえり、ラン殿、何か飲むか? 」
可愛く微笑んだラン殿に見惚れながら浮遊ワゴンを呼び寄せた。
その柚子みかんジュースがいいですとラン殿が床に座った。
ジュースをその美しい手に渡し互いの武運に乾杯した。
「ローガどもに襲われたそうだが」
「プチっちゃいました、まずかったかな? 」
チョロっと舌を出す様子すら愛らしい若長に、いや、大丈夫だと答えながらカラスミチーズカナッペと牡蠣オイル漬けカナッペがのった皿を差し出した。
わ、すごいですねと嬉しそうでもっと食べさせたくなって今度は女性が好きそうな菓子でも持ってこようと誓った。
その日はわかった事は、ラン殿に恋人がいないことくらいだ。
もっと知りたいと思いながらいつの間にか寝落ちして気がついたら毛布がかけられてそのまま団長室で傭兵たちと討ち死にしていた。
う、不覚と呻く俺に笑いながら朝食を食べさせて送ってくれたラン殿に感謝しながら我が君のところに出勤すると、ふーん、幸せそうで良かったねとどこか不機嫌そうだった。
我が君にケルファーゼ傭兵団長からの伝言を伝えると、肉食獣のような笑みを浮かべた。
俺でさえ震え上がりそうな笑みで大星公の回し者が大半の文官どもは気絶寸前だった。
「頑張って、若長を落としてね」
御座から降りられた我が君に肩を叩かれてやっと震えが抑えられたことに気がついた。
ケルファーゼ傭兵団との連携作戦で反乱軍を確実に押していった。
ラン殿……ランとも確実に仲良くなっていった、それに傭兵団の傭兵たちもフィン傭兵団長も気持ちいい人たちばかりで、自分がイーシス家の跡取りでなければ……我が君の武人でなければ、今の地位を捨てて、ケルファーゼ傭兵団に入りたいくらいだ。
もちろんランにナルフサと呼んでもらって背中を任せてともに戦ったり、一口ユキチーズケーキを口に放り込んで至福の表情を堪能したりすることが一番の幸せだ。
青き姫君救出作戦のときに肝が冷えた。
圧倒的な帝国軍と公認傭兵に押される反乱軍を前に美しき青き姫君は指を組んで2つの軍の間に小型浮遊機に乗って立ちふさがった。
「
「今更なのでございますよ、姫君」
青みが一般人より濃い貴族らしい電子
レーザーが青き姫君の三本目の足を貫いた。
足から焦げる匂いがして姫君が崩れ落ちた。
すごく後ろが怖いんだが……我が君、殺気を抑えてください。
我が君が浮遊機に飛び移った。
我が君に抱き起こされた姫君が弱々しく目を開けた。
「よっぽど、滅亡したいようだ」
「ソラヒコ、おやめください」
苦痛に眉をひそめながら細い声でとめる姫君。
不用意に前に出るなって突っ込んでいいかとヒロミチがつぶやいてタケミとダメです先輩と怒られてる。
ジンは暴走したらこの星特有のサヴォティン酒が飲めなくなりますし、ナルフサ、ちょっと息の根止めてきませんか? と物騒な光を目に宿して二オジェの刀を鞘から少しだけ出した。
なんて物騒な仲間たちなんだ。
フジーク隊長が俺の毛根が死滅したらお前らから補ってやると常々おっしゃってるが、死滅する日も近いかもしれない。
幸い、優しいが迂闊すぎる、青き姫君の懇願のおかげでこの星の命は救われた。
そして姫君そっくりの弟君が強大なソルレージェ帝国の後ろ盾の元、星王陛下に即位され、反乱は無事に討伐された。
元々は傍系王族だったが、本家はもういないので我が君がニコニコとゴリ押ししたのを見た。
まあ、傍系王族だったせいで嫁に出来なかったらしいからなぁ。
青き姫君は、
身体で説得された青き姫君は星王姉殿下となられたことにより無事に我が君寵愛のご側室となることとなった。
初恋を実らせて我が君うらやまし……いや……
ちなみにランと簡易陣で別れ前のデートをしてたときに我が君が青き姫君に噛み付くような深い口づけをしていて、真っ赤なランを可愛いと思いながらも我が君に蹴りを入れたくなった。
我が君の情報操作で帝国紀の純愛とかマスコミに流して大星公の妨害を封じた手腕はさすがと思った。
でも、早く若長を落としなよとはどういうことですか?
ともかく、戦争は終わりランとひとまず別れることとなった。
もちろん、そのままにするつもりはない、なかったんだが……なぜか、その後何年も何年も会えなかった。
たぶんヤケになった大星公の
忘れられないように出張先の酒とかお菓子とか民族楽器とか送って電波がいいときはメールしたり
実際には全く会えなかった。
まったく、要領悪いよねってなんですか我が君〜
貴方のとばっちりですよ~。
ランが恋人出来たとか言い出したら有給申請してプロポーズしに行きますのでご覚悟を。
うん、頑張ってって何ですかぁ〜
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