家族心中

キジノメ

家族心中

「私のお父さんは、とても賢い人なの。いつも家族を第一に考えてくれて、誰かが辛い時は寄り添ってくれるの。お母さんのことも大事にしているし、私のことも大事にしてくれる。そりゃあ時々怒鳴ることもあるよ。でもね、ちゃんと私のことを考えて怒鳴ってくれるの。後で慰めてくれるから私怖くないし、お父さんが考えてくれるの分かって泣いちゃう。でもね、最近おかしかった。とっても自分勝手なの。ご飯がまずいから怒るし、テレビが五月蝿いから怒鳴るし、隣の家の声が五月蝿いから怒鳴るの。お母さんにも怒るし、私にも怒るの。私ね、最初はね、ああ、お父さんなんかむしゃくしゃしてるんだなあって思って、ほおっておいたの。誰にでもあるじゃない、世の中全てにムカつく時くらい。あなただってあるでしょ? 私もある。だからしょうがないんだなあって思ってたの。でもね、全然直らなくて。お母さんが毎日寝ちゃうようになっちゃって。でもお父さんそれにも怒るの。なんで飯を作らないんだって、なんで掃除しないんだって、なんで俺が買い物に行かなきゃならないんだって。どうせご飯もまずいって捨てるのにね、一番汚すのお父さんなのにね、買い物行っても酒しか買わないのにね。でもお母さんの体調治らなくて。私、ああ、って思ったの。お父さん、きっと誰かに乗り移られてるのよ。悪霊がとり憑いてるの。だから性格変わっちゃったのよ。お父さん、あんなこと言う人じゃなかった。もっと家族の事考えてくれてた。だから私、追い祓おうと思ったの。どうやったらいいか分からないけど、まずは悪霊にそこを退いてもらうよう言葉で伝えてみようと思って取り敢えずお父さんに怒鳴ってね、あ、でもお父さんに怒鳴ってるわけじゃないよ、中にいる悪霊に出てけって怒鳴ったの。で、それでもお父さんが怒るから、悪霊がまだいるんだなあって思って、どうしようかなあって考えて。なんか攻撃したら出てくかなって思って、だから刺したの。包丁で、ぶすって。ちょっと怖かった。お父さんが死んじゃうんじゃないかなってやっぱり思ったの。馬鹿じゃないから私。人刺したら死んじゃうもんね。でも直りそうになかったんだもん。これしか方法が無かったんだもん。お母さん寝たまんまだし、私、もうお父さんといたくなかった。だから、刺したのよ。悪霊が出ていくように刺したの。ダメージを負った人間にとり憑いていたいはずないものね。そしたら悪霊は出ていったのか、お父さん黙っちゃって。成功してたらいいんだけど、一向にお父さんが起き上がらないの。そこにあなたが来たのよ。ねえ、どうすればいいと思う?」


頷いていれば続く話に吐き気を覚えながら、俺は言った。


「取り敢えず、出頭かな」



次の日の新聞には、狂った娘が図った父殺し、とゴシック体でデカデカと書かれていた。

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