監禁少女6
マリーゴールド 花言葉は信頼、嫉妬、絶望。
8月?日
監禁?日目
あれから何日が経ったのだろうか?悲惨な内容しか流れてこないテレビは消しっぱなしとなっており、一日の感覚は無くなっていた。部屋の電気は寝るのに邪魔にならない豆電球だけにしており、仄明るく部屋を灯していた。
あれから、2日目まではテレビを点けており確実に分かっている。だが、それ以降は全く分からなかった。もしかするとまだ3日目なのかもしれないし、実は20日ほど経っているかもしれない。
今、確実に分っているのは、置いてあった食料と水が切れていること。おまるはもう使えない状態になっていること。叫んでみても、壁を叩いてみても、隣の部屋の人には聞こえないということ。追いつめられて、自分の排泄物を食べたりしたこと。そして、自分の足にはもう立ち上がる力が残っていないこと。そして最後に、もう先は長くないこと。であった。もうすぐ力尽きてしまうからなのか、視界にはノイズが走り始めた。
すると突然、扉を開けてあんずが入ってきた。そして、地面に横たわっているあんずに対して涙を流して語りかけた。
「ごめんなさい。かがりさん。こんなになるまで待たせてしまって。やっと、やっと帰ってこられたわ。さあ、この手をお取りになって」
そういってあんずが手を差し出すと、かがりも弱弱しく手を差し伸ばした。
「お帰りなさい。あんずちゃん。私、ずっと、ずっと待ってたんだよ……」
かがりの手を優しく掴んだあんずは、かがりを自分の方へと引き寄せて微笑んだ。
「これからはずっと一緒よ。かがりさん」
* * *
8月27日、警視庁に「音信不通の幼馴染みの少女を探してほしい」といった内容の通報があった。
警視庁が捜査した結果、その少女。牧野かがりは、コスモス女学院の生徒で、学生寮である藤華荘に下宿している事が分かった。藤華荘の管理人、野田藤華に問い合わせてみると、彼女は千曲ビルディングの令嬢、千曲あんずの家に行っている事が判明。彼女の家に捜査に伺うと、不在であった為、強制捜査を実行。部屋の中に痩せこけ、ドアに手を伸ばしたまま息絶えていたかがりさんを発見。千曲あんずを、逮捕・監禁致死傷罪で指名手配した。
彼女の母親に問い合わせてみたところ、16日まで、長野の実家にいたことが判明。彼女の交通記録を情報省が確認した結果、彼女が「東京トライタワー駅爆破事件」に巻き込まれて死亡している事が確認された。なお、彼女の遺体は、爆弾を搭載した車両の側にいたとみられるために、発見されなかった。
事件の被害者・加害者両名が死亡しており、事件の詳細が掴めなかったため、警視庁は竜胆警視総監直々の命令により、心霊特別捜査官、紫苑の派遣を決定した。
シオン 花言葉は追憶、君を忘れない、遠方にある人を思う。
9月6日(火)
東宮タワーハイツ 8001号室
暗闇と静寂に包まれた部屋。生活感はほとんど無く、存在するのはほのかな腐臭を放つ遺体と糞尿の香り、そして、散らばった空の缶詰とペットボトルだけであった。
そんな部屋に女性が一人立っていた。
彼女の名は紫苑。彼女は警視庁の特別捜査官で、霊との会話、霊の記憶を視ることが出来るという特殊な能力を持っていた。
彼女の今回の仕事は、この部屋で監禁されていたと思われる少女・牧野かがりと、この家の持ち主であった千曲あんずの関係を調べることであった。
「さあ、かがりちゃん。あなたの記憶、視させてもらうわね」
* * *
「そうだったの。あんずちゃんにとって、かがりちゃんは、自分の全てを受け止めてもらえる親友。かがりちゃんにとって、自分より優れている尊敬すべき親友として、互いに特別な感情を抱いていた。結果、両想いだったって訳じゃない。二人とも再会できて良かったわね。あと、捜査に協力ありがとうね」
「紫苑さん。今回の件、どうマスコミに報告しますか?」
彼女の部下である婦警が部屋に入って紫苑に話しかける。
「そうね。ここで起こったことはもみ消すわ。上からもその方針で行くように言われているしね。遺族には、友達を迎えに行ってトライタワーのテロに巻き込まれて死亡して、遺体の回収は出来なかったとでも言っておけばいいわ」
「了解しました」
そう言って婦警は部屋を後にしようとする。
「……にしてもあれねぇ」
すると紫苑が彼女を引き留めるように呟いた。
「と申しますと?」
「今年は豊作ね。夏休みが終わるまでに二件なんて」
「ええ、全くです。前回のは元からヤバい娘でしたが、感情の暴走という点において、教育プログラムの副作用がここまで顕著に出るなんて。今年の新入生には期待出来そうです」
「今回通報してきた梅野富太郎だったっけ? 彼、面白い子ね。約束は守るかぁ。あ。あと、おばちゃんも人が悪いわね。把握しながらも連絡しないなんて」
「教育プログラムの適正を見る上ではある程度事件はあったほうがいいですけど、やっぱり彼女たちが考えていることは理解出来ません。裏で女皇陛下ともつながっているみたいですし」
「まあ、我々下々の者が知っても何もないわよ。ところで、彼女たちの能力推定はどうだったかしら?」
「それもそうですね。えー、二人とも適合度はB。あんずさんは、アプリコット、能力は
「まあ、いまさら嘆いても遅いわ。でもまあ、今回の件は、トライタワーのテロでコスモス女学院の生徒が死亡したとしか伝わらないわ。学園はただの被害者。悪いのはMLFだけよ」
「紫苑さん、ほんとMLF嫌いですね。何かあったんですか?」
「ええ、まぁ、ちょっとね。そんなことより疲れたわ。早く帰りましょ。臭いし」
「そっ、そうですね。行きましょう」
そう言いながら、二人は部屋を後にした。
そして、紫苑は婦警には聞こえないように囁く。
「ねぇ瑞香。もうすぐだよ。もうすぐMLFを……」
* * *
これは少女たちが互いを愛し、道を違えていく物語。
「彼女たちはこの結果に満足したのよね? 彼女たちが満足したというのなら、それはそれで良いと思わないかしら? そして、最も絶望的な死の瞬間までもが、幸せな瞬間だというのなら、彼女たちほど羨ましい人間はいないわよね。どうかしら? 白百合の
錯愛リリスファクション 監禁少女(完)
監禁少女 アハレイト・カーク @ahratkirk83
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