監禁少女5

ウメ 花言葉は忍耐、忠実、高潔。

7月28日(木)

監禁2日目


 目が覚めると、ようやく落ち着いて部屋の様子を見ることが出来た。

 そこにはピアノはそのまま置いてあったが、以前この部屋を見に来た時にあった、他の物が一切無くなっていた。変わりにテレビや保存食が詰め込まれた棚、ベッド、おまるなどが置かれていた。テレビは娯楽がないと寂しいからという理由であんずが置いていったのだろうか? しかしこの部屋の状況は、以前からかがりをこの部屋に閉じこめようとしていたことの表われであった。

かがりが、ふと思い出してみると、そういえば、テスト勉強をするために泊まっていた時に、あんずは「片付けがあるから」と言って、他の部屋に行っていたが、それはこの部屋の片付けだったのではないだろうか? かがりには、そう思えて仕方がなかった。

結局、この日もかがりは食事を拒否し、出された水だけを飲み部屋の隅に屈み込んでいた。


7月29日(金)

監禁3日目


 かがりがようやくメシを食ってくれた。心配したぜ。全然食おうとしねえし、気分でも悪いのかと思っちまったぜ。

 こんな時あいつだったら、

「でも、久々に食べられるお食事はかがりさんのお口にあったのでしょうか? もし、お口にあってなかったら大変ですわね。後できちんと感想を聞いておかないといけませんわね」

 とか、

「はぁ、かがりさんってお腹が空いた時はどの様に食べるのかしら? やっぱり、何時もどおり丁寧に食べるのかしら? それとも、人目もはばからずにガツガツ食べるのかしら? まあ、私はどっちであっても、そんなかがりさんのことが嫌いになったりはしませんもの。うふふふふふふふふふふふふふふふ」

 なんて言いそうだよな。おえっ、気持ち悪っ。やっぱり私には、コイスルオトメとかいうのは分かんねぇぜ。でもこれで、お前が勇気がなくて出来なかった、牧野かがりの独り占めが出来たぜぇ~。嬉しいだろぉ~。ひゃはははははははははは。


7月31日(日)

監禁5日目


     カチャッ   キキィィー

「おはようございます。かがりさん。ご機嫌いかがですか?」

 あんずは、朝の支度をすると朝食を持って防音室にやって来る。そして、朝の挨拶をするのだった。

「……良い訳無いじゃないですか。いつまでここに閉じこめる気なんですか! 学校が始まったらどうするの!?」

 部屋の隅で屈み込んでいたかがりは、力なく話し始めるが、次第に顔に怒りが滲みだしてきた。

「そうね。学校が始まったら出してあげるわ。でも夏休みの間は、何があっても外には出さないわ」

「それなら、外に出れたらまずは警察に行くわ。そして、ここに監禁されたことを言えば貴女はもうおしまいよ。あんずちゃん」

 仮に、もしここから出されなかったとしても、学校が始まれば、じきにここも見つかるだろうというのが、かがりの考えだった。

「あなたはそんなこと出来ないわ。かがりさん。そのことを警察に言えばどれほどの迷惑がかかるか分かっているのかしら? 千曲ビルディングだけでなく、学園の経歴にも傷をつけることにもなるのよ。だからあなたは、大人しく夏休みには何事も無かったかのように振る舞うしかないのよ。それが嫌なら、さっさと関係を認めて、今後一切奴との関係を絶ちなさい。そうすればもっと早く外に出してあげるわよ」

「だから、富太郎とは何の関係も無いって言ってるでしょ!」

「そう、あくまで嘘をつき続ける気なのね。分かったわ。じゃあ今日のご飯は抜きにします。きちんと反省なさい」

 そう言ってあんずは、水だけ置いて部屋を出た。

     ガチャン   カチッ


8月5日(金)

監禁10日目


「そうだ、かがりさん。あなたに伝えておくことがあるの。不服だけれども10日から一週間くらい実家に帰ることになったの。その日からの食事は流石に用意できないから、そこにある保存食を食べて耐えてちょうだい。あと、おまるの掃除も出来ないから、帰って来るまではそのままで我慢してちょうだい。でも、できるだけ早く帰って来られる様にするわ」

 それに対して、かがりは何も答えない。

「それじゃあ、かがりさん。おやすみなさい」

     ガチャン   カチッ

 この日の夕食は、あんずの手作りハンバーグであった。通気性の良くない防音室の中にその臭いは2日ほど残っていた。


8月9日(火)

監禁14日目


 明日からクソババアの所に行かなければならねぇ。かがりの奴を置いて行くのは癪だが、外に出す訳にもいかねぇし、ましてや、クソババアの所に連れていくなんてのはぜってぇねえ。仕方ないから部屋の中にいてもらうことになったが、食料はきちんと用意したし、水もある。そして、心が広い私は、監禁している奴にも、きちんとテレビという娯楽を与えてやった。私ってマジ天使。これで私がいない間も、発狂することなく幸せに暮らせるでしょう! めでたしめでたしってな! ぎゃははははははは。……はぁ、めんどくせ。


8月10日(水)

監禁15日目


「それじゃあ行ってくるわね。できるだけ早く帰ってこれるようにするから」

 そう言ってあんずは、今日の朝食であるカフェオレとトースト、そしてスクランブルエッグを置いて部屋を出ていった。

 かがりは朝食を食べ終わるとすぐに、部屋から出るための方法を考え始めた。扉を蹴破ろうにも、かがりにそれほどの力は無く、部屋中にドンドンという音が虚しく響くだけだった。

 仕方なく鍵を開ける道具を探してみたが、鍵を開けるのに使えそうなものは何も無かった。

 結局かがりは今日の脱出は諦めて、テレビを点けた。まず流れたのは、かがりが好きだったお笑い番組であった。しかし、自分がこんな状況にあるのに、バカなことをしている人たち見てだんだん嫌な気持ちになってきたかがりは、テレビを消してベッドに飛び込んだ。

 そして、だんだんこの生活に慣れていっている自分の有り様に溜息を吐きながら、この日はベッドの上で一日を終えた。


マツ 花言葉は不老長寿、哀れみ、慈悲。

8月13日(土)

富太郎の自宅


「はぁ……。かがりの奴一体何してんだよ。まだ既読付かねえのかよ」

 富太郎は、スマートフォンのSNSアプリ「LINK」でかがりに5日ほど目に送った文章を見ながら呟いた。

 それは、富太郎が実家に戻ることになったのだが一緒に戻らないかという誘いの内容の連絡だった。できるだけ返事は早くしてもらったほうがありがたいので、寮にでも直接行って話してきたいぐらいなのだが、寮のある学園周辺は、男性禁制なので立ち入ることは出来ない。よって仕方なくスマホの前で、返事を待つしかなかったのであった。

「あいつのことだし、すぐ傍にあるのに『スマホ無くしちゃったよ~(泣)』とか言ってそうだな。うん、それもあり得るぞ」

 二人が小学生の頃、時々かがりが、「とみたろ~。ふでばこ無ぐじじゃっだよぉ~」などと言って、富太郎に泣きついてくることが多々あったのだが、大概は、ランドセルの前段ポケットに入っていたりと、案外すぐそこにあるのに気付かない、灯台下暗しとでもいえる出来事がよくあったのだが、今、スマホが筆箱と同じような状態になっているのだとすれば。と考えると、かがりが色々な意味で心配になってくる富太郎であった。

 結局、かがりがどうしていたかは、このとき富太郎は知る由も無かったのだが、後日、彼の通報もあって、かがりが監禁されていることが発覚することとなった。


ジャスミン 花言葉は愛想のよい、優美、愛らしさ、官能的。和名は茉莉花。中国名は素馨。

8月15日(月)

あんずの実家


 ようやく5日目だ。あと1日、あと1日耐えればこの苦行から解放される。

 そう思いながら、あんずは実家のマンションで取引先の社長たちとの会食パーティーに出席していた。

 社長たちからは、「あのあんずちゃんがもうこんなに大きくなって」とか「あんずちゃんももう高校生か~」などといった、定型句の様な文句を心にも無く話されるのを、笑ってなんとかごまかしてきていた。

 流石に、自分とは関係ない親の会社だとしても、いざ自分が会社を立てるとなれば、彼らからも支援を受けなければいけないだろうし、もちろん千曲ビルディングからの支援も受けることが出来るだろう。そのためには、彼らには悪い印象を与えないようにしなければならないし、彼らと取引する親の会社も潰させるわけにはいかないので、怒鳴り散らして帰りたいという逸る気持ちを抑えて笑顔を作っていた。

 そんなこんなで、疲労困憊となったあんずは、東京に帰る準備をしてすぐに眠りに落ちたのであった。


8月16日(火)

東京トライタワー駅


 東京トライタワーは、慶応の大火によって荒廃した江戸の復興の象徴として建てられ、戦災で失われた初代東京タワー。そしてその跡地に戦後復興の象徴でとして建てられた二代目東京タワーをもとに、二代目と同型のタワーとその二本の間にもう一本の巨大な電波塔を建てた東京のシンボルであった。

 また、旧東京タワー二本の大展望台付近から下は繋がれて、商業施設の入った駅となっており、地下には全国各地へと繋がっているリニア幹線鉄道の駅があり、そこから降りれば地下鉄や、ほかの鉄道を用いて東京中どこへでも行けるターミナル駅となっていた。

 そんな、東京トライタワー駅にリニア幹線鉄道で長野から帰ってきたあんずは、地上6階にある大ホームで電車を待っていた。

<間もなく、普通・池袋行が、13番ホームに参ります。危険ですので……>

 チャイムが鳴り、アナウンスが流れ始め電車がホームに入ってきた。

 そして、扉が開いた。と同時に車両が爆発した。


あんずの自宅 防音室

監禁21日目


 何か変な感じがしたかがりは、缶詰に入った肉とペットボトルに入ったぬるい水という昼食を食べながらテレビを点けた。

 するとどの局でも同じ内容を放送していた。

〈東京トライタワー駅で爆発! 死傷者多数の模様。MLFによる爆弾テロか?〉

 トライタワーの側面からは、黒い煙がもうもうと上がっている様子が中継ヘリコプターのカメラによって映し出されていた。

 主犯と疑われているMLFは以前から、日菊各地で爆弾テロなどを起こしており、リーダーと目されている烏丸籐也。通称カラスノエンドウらMLFの幹部陣は指名手配されている。

 テレビでも、彼らは目的なく人を殺そうとする狂人であると報道され、テロに対して注意するよう呼びかけられ、空港や駅などでも検査は厳重に行われていた。しかし今回は、自爆テロや爆弾をホームや電車の中に置いてから起爆するといった方法ではなく、車両整備の段階で、内部に爆弾が仕掛けられていたことが分かったということが報道されていた。

 そんなニュースを聞いて、かがりは心配になっていた。あんずが爆発にあっていたらどうしようかと。それは帰ってこなければ、味気ない食事を食べ続けなればならないということもあるが、やはり、友人であったあんずが怪我でもしていたらという心配でもあった。

 東京内の交通機関は数日止まったままになるらしいので、あんずが無事であったとしても戻るには数日かかるであろうと思って、かがりはあんずが帰ってくるのを待つことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る