監禁少女4
サルビア 花言葉は尊敬、知恵、良い家庭、家族愛。和名は緋衣草(ひごろもそう)。
7月12日(火)
皇立コスモス女学院 1‐B教室
かがりは授業を熱心に取り組むことも出来ず、常に上の空になってしまっていた。
あんずは、富太郎と再会した次の日から様子が変わってしまった。無口になり、かがりにも話しかけてこなくなっていた。演奏会に行ったもののあんずは、かがりには話しかけてはこなかった。
「はぁ……。あんずちゃんどうしちゃたんだろう」
「こらっ!かがりさん。何度注意すれば分かるのですか!」
数学の担当教師サルビアこと、
「す、すいません」
周囲の生徒たちがかがりの方を見て、くすくすと笑っていた。かがりは、恥ずかしさで顔を赤くして机に顔を伏せてしまった。
* * *
この日の授業が終わり、かがりが帰る準備をしていると、突然あんずが話しかけてきた。
「ねえ、かがりさん。もうすぐテストでしょう。一緒に勉強しようと思いまして、家に泊まっていかれませんか?」
突然の申し出に、かがりは驚くも、久々にあんずと話せたのが嬉しかったのか嬉々として答えた。
「うん。いいよ。でも、大家さんに数日間家を空けるって言ってこなきゃいけないし、お泊まりの準備もしなくちゃいけないから、また後で連絡するね」
「ええ、分かったわ。それではまた後で会いましょう」
そう言って二人は別れた。あんずはかがりが遠く離れたのを確認すると独り言のように喋り始めた。
「けっ。ようやく静かになりやがった。消え失せるのに一ヶ月以上掛けさせるなんてよぉ。久々に話しかけたから、びっくりされちまったじゃねえか。まあいい。これで邪魔する奴はいなくなったことだし落ち着いて事を進められるぜ。喜べあんず、お前の望んだ愛の形。もうすぐ実現できそうだぜ」
学生寮『藤華荘』
「ねえ、おばちゃん。友達の家でお泊まりしてくることになったから、ちょっとの間部屋を空けるね」
かがりは、あんずの家で泊まるための準備を終えて自室を出ると、寮の前を掃除していた大家の野田藤華に話しかける。
「あら、そうかい。でも、かがりちゃんにもお友達が出来たんだねぇ。おばちゃん嬉しいわ~」
「やめてよ、おばちゃ~ん。私だって友達はいたんだよ」
地元には、幼稚園の頃からの付き合いの友人が三人いるので嘘ではない。
「あら、そうだったの?ごめんなさいね~。まあ大丈夫よ、心配しないで。部屋の掃除もおばちゃんがやっておくから、心置き無くお泊まり、楽しんでおいで。あっ、ところでそのお友達ってのは誰だい?」
「千曲あんずって娘なんですけど……」
「あー、あのお嬢さまね。分かったわ。じゃあ、いってらっしゃい」
「はーい。それじゃあ行ってくるね」
「あいよ。気をつけて行っといで」
かがりは、そう言ってあんずへと電話を掛けながら、彼女の自宅の方へと向かって行った。
東宮タワーハイツ あんずの自宅
「おじゃましまーす」
かがりは、あんずに扉を開けてもらって彼女の家へと入る。これまでに何十回としてきたことであるが、この日は何か何時もとは違うように感じられた。これから数日間ここに泊まるということもあり、心がそわそわしているからだろうか?
「いらっしゃい、かがりさん。さっそく本題ですけれども、今回のテスト、自信はいかほどですか?」
「うーん、あんまりだなぁ。やっぱり歴史系が自信無いなぁ。あとは数学かなぁ」
かがり自身、あまり勉強できる方では無いので、コスモス女学院には健康診断の結果で入学していた。逆にあんずは、成績優秀ということで入学しており、入学試験においては学年三位というエリートであった。
「他の教科は大丈夫かしら?」
「うーんと、国語は大丈夫。古典はまあまあ。生物は余裕。あっ、科学はやばいかも」
「それなら今日は、日菊史か世界史、どちらが良いかしら?」
「じゃあ、日菊史で」
「分かったわ。じゃあまず今日は、今回のテスト範囲の内容の復習から始めましょうか。終わったらお茶を出してあげるわ」
「やった! よーし、頑張るぞ~!」
そうして、かがりはあんずの家で泊まりながら、テスト勉強をすることになった。
フジ 花言葉は優しさ、歓迎、決して離れない、恋に酔う。
7月27日(水)
皇立コスモス女学院 1‐B教室
そんなこんなでついにやって来たテスト返却日。かがりは自信と不安を半々でこの日を迎えていた。
「かがりさん。自信を持ちなさい。あれだけ勉強を頑張ったんですから大丈夫ですよ」
「うぅ、ありがとうあんずちゃん。でもやっぱり不安だよ……」
教室の扉が開き、カトレアが入って来た。
「はーい。じゃあテスト返していくから、出席番号順に前に出てきてくださいね」
* * *
「や、やった……」
かがりは机の上に広げたテストを見て呟いた。
「すごいじゃない。全教科80点以上、素晴らしいわ」
「ありがとう、あんずちゃんが勉強を教えてくれたおかげだよ」
「そんなことないわよ。あなたが頑張ったから、今回の点数が取れたのよ」
ちなみに、あんずの点数は全教科90点以上であった。
「はーい、皆さん。見直しは終わりましたか? 今から全校集会ですので、廊下に出てくださいね」
二人を含め、B組の生徒はすぐに廊下に二列で並んだ。
東宮タワーハイツ あんずの自宅
「明日から夏休みか~。何しよっかなぁ~」
かがりは、お泊まりセットを取りにあんずの家によっていた。
「そうねぇ。私は実家に戻って来るように言われているので、帰らないといけませんし……」
彼女の実家は長野にある。帰って何をするかというと、親戚同士の集まりや、社長令嬢として、社長である母親に付いて取引先との会合に行ったりするらしいが、彼女はそういった他者との触れ合いはあまり好きではないために、あんずは実家へは帰りたくないのである。しかし母親に「戻って来い」と言われたならば帰らなくてはいけない。あんずはそう思ってしまうのだった。
「そっかぁ、あんずちゃんが実家に帰るなら、私も富太郎と一緒に実家に帰ろうかなぁ」
すると突然、あんずは慌てた様子でかがりに話しかけてきた。
「そ、そうですわ。まだ帰るまでは時間がありますし、折角ですからもう少しの間家に泊まっていきませんこと? そうですわ。そうしましょう」
「え、ちょ、ちょっと? どうしたの? あんずちゃん?」
状況を理解できていないかがりを、あんずは防音室へと背中を押して連れ込んだ。
「……どうしたの、あんずちゃん? なんかおかしいよ」
かがりは、あんずに対して困惑した表情で泣きながら呟いた。
「……ねえ、かがりさん。あなたとあの富太郎って男はどういう関係なのかしら?」
「えっ? 富太郎とはただの幼馴染みで、別に恋人とかなんかじゃないよ?」
突然ここに連れ込まれて、何をされるのかと考えていた時に、富太郎との関係を聞かれたために、かがりは拍子抜けしてしまった。
実際彼女からして、富太郎との関係は、あくまで幼馴染みの関係であった。しかし、ほのかに恋ごころともいえるものが、久々に会っていなかったこともあってかうまれてきていた。ちなみに富太郎としては、かがりは最近会っていなかった女友達としか考えていなかった。しかし、ずっと一緒に居ようと約束したことを破ってしまい、少々かがりに対して申し訳ないという気持ちがあった。
「ただの幼馴染みねぇ。……信じられないわね」
「へ?」
ただ、現在における真実を述べた。なのに、信じられなかった彼女は、ふ抜けた声をあげた。
「だからあなたにはしばらく、ここで暮らしてもらうわ。大丈夫、安心して。料理も洗濯もちゃんとしてあげるから」
「・・・」
あんずの言っていることが理解できなかったかがりは黙りこんだ。
「これであなたと触れ合えるのは私だけになる。嬉しいわ、かがりさん」
「うおわぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁっ」
あんずが話した言葉の意味をようやく理解できたかがりは、半狂乱になりながらあんずへと飛び掛かった。
「あら、あぶないじゃない」
そう言ってあんずは軽々とかがりの飛び掛かりを往なした。行く先を失ったかがりは壁へと激突し泣きじゃくった。
「あ、そうだ。この部屋の防音は完璧だから、どれだけ叫んだり、壁を叩いたって、隣の部屋にも聞こえないからね」
そう言ってあんずは扉の方へと歩いて行った。そして扉の前に着くとかがりの方を向いて微笑みかけた。
ガチャン カチッ
音と共にかがりはこの部屋に閉じこめられる。
結局、かがりはこの日泣き続け、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。
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