序章 クリスマスイヴ編 5

「………さっむ」

「さむいね~」



 二人で冬の寒空を見上げる。



「しーくんの才能ぎふと、結局どんなチカラなんだろうね」

「物体に干渉するってことは確かなんだろうけど……」


 ワッペンに才能を暴発させてしまった後、僕は色々なものに才能を試してみた。

 けど、あれっきり何も消失せず、身体に違和感が訪れることも無かった。


 母さん曰く、才能は最初は頻繁には使えないとのことだ。ゲームでいえば、今はレベル1。

 1回使えば、しばらくは燃料切れってことだろう。



「ワッペンも見つからなかったね~。やっぱり、無くなっちゃったのかなぁ」

「そうかもしれないな……はぁ」

 無くなった、という確証はないけど。

 手元にあの子からのプレゼントが無いのは事実だ。


 それこそ

「椎太は 才能が暴発して プレゼントを消してしまった!」って、某RPGのごとく解説が入ればわかりやすいんだけど。

 現実の特殊能力ってのは、色々な意味で厄介らしい。


「物体を消す才能、なのかな。これ。こんな風に暴発してもっと大事なものを無くすのは嫌だから、気をつけないとなぁ」

「そうだね~……」



 才能を背負う覚悟ってのが必要なんだろうか。



「しーくんはきっと、才能が身についたら大喜びするんだろうな~って思ってたけど。う~ん、残念?だね」

「いやぁ、俺もそう思ってた。才能って、なんかカッコイイし。俺にしかない才能だ~って、どんな才能でも騒ぎ倒すつもりだったんだけどなぁ……」


 実際、消失させる才能とか、すごくカッコイイ。

 めっちゃ強くね?って今でも思う。


 けど、デメリットとかガン無視してたんだな。

 自分の浅はかさにちょっと反省。

 プレゼントの件は残念だけど、最初にガツンと頭を冷やせたのは、それはそれで良かったのかもしれない。



露葉つゆはは……まだ才能に心当たりは無いんだよな」

「ん~。そだね~、私が気づいてないだけかもだけど~。しーくん何か気付いた?」

「特には。いつも通りの露葉だと思うが……って近い近い!!」


 露葉がのぞき込むように顔を近づけてきた。

 本人は、えへへ~、といたずらっぽく笑っているが……こんな誰もが癒されるよう可愛さ溢れた顔を間近にどうにか平常心を保っている、僕の気持ちを察してほしい。

 付き合いの長い僕だから変な気に至ってないけど、その辺の男子なら勘違いしかねないと思う。



 そーいえば昔から、露葉はスキンシップ豊かだったなぁ。



「昭子さんと同じ才能があれば良かったな~」

「……はぁ?急に何言ってんだか」

「だって、しーくんが考えてる恥ずかしいこととか、いっぱい分かるんでしょ?」

「俺のことが分かって何になるんだ……って、これ以上俺のプライバシーを侵害するのはやめてくれ」


「え~、いいじゃんいいじゃん~!」

「ふ~ん? だったら露葉。もし俺が、露葉の考えてることが丸分かりになる才能、身についたとしたらどう思うよ」

「ふぇ? 別に私は大丈夫だよ~?しーくんに隠すことなんて、何もないも~ん!」

「それはそれでどうなんだか……」

「えへへ~」


 時折、露葉が何を考えているのか分からなくなる。

 今だって、一歩間違えれば告白にしか聞こえないセリフを軽く話すし。



 露葉が僕のことを好き、って勘違いしてしまいそうになったことは数え切れない。



 でも、それはありえない感情だ。




 僕達は、幼馴染みで。


 ただの幼馴染みを越えた、固い絆で結ばれはいるが。


 恋愛とは、また別の話なのだ。




「う~ん。なんだろ~ね、私の才能」

「まあ、急ぐ必要もないんじゃないか? どうせそのうち分かるだろうし、高校入学したら、嫌というほど扱うんだろうしな」

「あ~そっかぁ。この前の説明会で、才能の授業もやりますよ~って言ってたもんね。その時に教えてくれるかな~?」

「そうそう。ま、その前に露葉は受験勉強だな」

「あ~も~!今日くらい忘れたかったのに~!しーくんのバカ!」

 ポカポカ、と軽く殴られた。


「ごめんごめん。明日からも勉強見てやるから、許してくれよ」

「う~。いいよね、しーくんなんだかんだ頭いいから。ずるい」



 僕は紅朱雀高校に、特待生としての進学が決まっている。

 親が……あんな感じに厳しいから…………。

 怒られないように毎日勉強してたら、自然と学年トップレベルの成績を修めていて。

 気付いたら推薦をもらえるレベルになっていた。



 紅朱雀高校は毎年人気があり、倍率がかなり高い。

 実は露葉も、紅朱雀高校に進学希望だ。


 地元でも有数の進学校で、近年、才能開発の授業を取り入れたり、学費が安かったり。制服の可愛さも、女子人気の一つかもしれない。


 ちなみに露葉も成績はいい方だ。

 普通に勉強していれば受かるだろう。


 露葉は塾にはいってない。

 その代わり?として、時間のあるときに僕が勉強を見てあげたりしている。




「…………あっ!みてみて!しーくん!」



 雪だ。


 月あかりに照らされた薄暗い空から、白い粉がヒラヒラと舞い降りる。


「わぁ、ホワイトクリスマスだ!!」


 どうやら神様は、プレゼントを1つおまけしてくれたようだ。




 それにしても……


 嬉しそうにはしゃぐ露葉の姿は、まるで白銀の妖精のようだ。



 …………。



「ま、今日はクリスマスイヴだけどな」

「…………はぁ。しーくんのバカ」




 露葉を想う気持ちが、どうなのかは今の僕には分からない。


 けど……この笑顔は護り続けたい。

 僕は密かに、心に誓ったのだった。





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「しーくんは、気づいてるのかなぁ……」



 雪のプレゼントは、本当に嬉しかった。

 でも、今風邪を引いたら受験に響くから、って。

 私は自分の部屋に戻った。



「ねぇしーくん。私や昭子さんの前以外では、『俺』って、言わなくなったよね」



 家には私一人しかいない。

 だから、独り言を聞かれる心配もない。



 しーくんは、ずっと悩んでいる。



 私も、ずっと悩んでいる。




「神様。もし本当にいるのでしたら、私の才能、昭子さんと同じものにしてくれませんか?」



 さっきの発言は、私の本心。

 本当に、しーくんの気持ちを、知りたい。


 知りたくて、仕方がない。




 知りたい。



 知りたい。知りたい。




 知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい







「…………………」



 しーくんには、幸せになってほしい。


 私に、幸せの意味を、教えてくれた人だから。

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