序章 クリスマスイブ編 4
「「いただきまーす!」」
予想通り、夕飯はカレーライスだった。
うん、カレーはうまい!
……ライスの部分にまで納豆が侵食していて、茶色一色な件についてはさておく。
「それでね~
お互いの家に帰ったあと、
「…………
「…………母さんは一応俺の母さんだよね?」
あえてロリコン説については否定しないでおく……二次元限定で。
実際、小さくて可愛いのは大好きだが、紳士はノータッチが原則だ。
さて、一応紹介をしておこう。この言葉汚い年増が、昭子ことうちの母さんだ。
「殺すぞクソガキ」
訂正。この若作りしてるそこそこ美人なお方がわたくしのお母さまでございます。
「なんか微妙にトゲがある気がすんだけど……まぁいいわ」
当たり前のように地の文に入り込んで来ているわけだけど、これにはちゃんとした理由がある。
僕の母さん、渦原明子はなんと相手の心が読めるのである。
読心術なんてチート能力すぎませんかねぇ?
「ま、家族限定の能力だけどね。……こいつが二次元萌えしてるのを聞かされて、毎日悩みが絶えないわ」
「……俺も被害者だと思うんだ。だからごめん、許してください」
自分の心を読まれるのはいい気がしない。
けど、親って能力とか関係なしに僕達のことを理解してること、あると思うからまぁ、そこまで気にしていない。
それと、本人曰く一定レベルの内容までしか理解することが出来ないらしい。
「それで、そのワッペンがプレゼントってわけね」
「うん、かわいいワッペンだよね~」
サンタのワッペンを左手に取り、よく観察してみる。トナカイに引かれている赤い服を着たおじいさんが、大きな白い袋を担いで笑顔を振りまいていた。
…………なんだこのサンタ、じっと僕を見つめているみたいで気味が悪い。目線を遮るように僕は握りしめた。
――瞬間、身体に違和感を覚えた。
「そうか? なんか、よーくみるとこのサンタ、気持ち悪いんだけど……」
違和感の正体は、きっとこのワッペンだろう。
周囲の人から白い目線を向けられるのには……うん、正直馴れてしまった。
けど、人形とかの無機物的な何かに見られていると思うと……ねぇ? 怖くない?
「え~、かわいいよ? しーくん、貰ったプレゼントを悪く言うのはひどいと思うな」
「まぁそうだけど……ほら、このサンタの目をよく見てみろよ」
左手を広げて露葉に見せる。
「はーい。…………あれ、しーくん。なんにもないよ?」
「え? そんなことはないはず……え?」
しかし、左手にはサンタはおろか何も握られていなかったのだった。
「あれ、どこいったんだろ……」
「しーくん、なくしちゃダメだよ~!」
「いやいやいや、ほんとついさっきまで握ってたってば!」
ずっと椅子に座ってカレーを食べているだけだし、ワッペンが消える要素など無い。うん、おかしな話だ。
「あー、なるほどなるほど、そーいうことね」
露葉と二人して困惑していると、母さんだけは納得がいったように繰り返し頷いていた。
「そういうことって……どういうこと?」
「あんた、分からないの?」
頭を横に振る。一応、机の下も確認してみたが、そこに落ちているわけでも無い。
「昭子さん、わたしもさっぱりだから教えて欲しいな~」
「二人してニブチンだねぇ、呆れたわ。そうね……ヒントは、あんた達にとっての今日だからよ」
「「…………今日だから??」」
お互いに顔を見合わせる。今日は、クリスマスイブ。それと…………あっ!
「もしかして……これって、俺の
「そ~なの、しーくん⁉」
「いや、俺も良く分からないけど……」
「多分、そうじゃないかしら。あくまで可能性の話だけど……私にはワッペンが消えたように感じたし」
どうやら、あの薄気味悪いサンタのワッペンは、僕の新しいチカラの犠牲となったようである。気持ち悪くした罰だ。因果応報。
「すごいねしーくん! ……でも、プレゼントを消しちゃうと、あの子が悲しむと思うなぁ」
「まぁそうだよな。…………ねぇ母さん、どうやったら戻ってくるかな?」
「あんたね、そんなの知るわけないでしょ……。残念だけど、もう戻って来ないんじゃないかしら」
「そんなぁ~! じゃあ、あの子に誤りにいくしかないね、しーくん」
「そうだな……。今度会ったら、しっかりと謝っておくよ」
実際、才能がどういうように作用したのかが分からないから、無事に返ってくる可能性は少ない。無くしたことは、話題に出さなければバレない気もするけど……あまりそういうのは好きじゃないから、ちゃんと伝えて謝ろう。
しかし、物体を消す能力、か。
誤って美少女フィギュアとか消したりしないか不安だ。今度はしっかりと、自分の意志で使ってみたい。なんか邪魔なものないかな……あー、目の前にあったわ。
「…………しーくん、どーしたの? さっきからカレーの上に手を置いたり、じーっと見つめたりしてるけど」
残念。色々と試してみたけど、カレーに無意味に添えられているネバネバを消すことは出来なかった。露葉には悪いけど、納豆の入っていない普通のカレーが食べたいなぁ。
「いや、別になんでもないよ」
「露葉ちゃん。コイツ、能力を使って納豆を消そうとしていたわよ」
「ちょっ、母さん余計なことを言わないで」
ガッ。
「ねぇ、しーくん」
「…………はい」
ガガッ。
「正座♪」
「……………………はい」
露葉に鬼の形相で両肩を捕まれた僕は、大人しく一時間ほど床の上に正座をしたまま、納豆にしっかりと感謝をしながら、カレーをいただきました。
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