序章 クリスマスイブ編 3

 無事、納豆カレーの材料を買い揃えたので、露葉と二人で喋りながら帰路についた。

 傍からは、僕たちはカップルに見えそうだ。しかも、女の子の方はとびきりに可愛い。いつも見慣れてる僕ですら、笑顔を向けられるたびにちょっとドキドキする。

 独り身の男子どもが羨ましそうにこちらをみている(気がする)。どうだ、羨ましいだろう!ざまあみろ!!(って言ってみたい)


「あ、サンタのお兄ちゃん、見つけたです!」


 声に振り返ると、さっきの小さな女の子だった。


「ママ、お兄ちゃんにプレゼントあげてくる!」


 女の子は赤く小さいカバンから、うんしょと何かを取り出して僕達の方にかけてきた。 


「サンタの格好してないのに、よく分かったね」

「うん! だってお兄ちゃん、よくお手伝いしているの知ってるです!」

「しーくん凄い! 人気者だね!」

「なんか恥ずかしいけどな……」

「わわ、きれいなお姉さんですー!こんにちは!」

「こんにちは~!」


 オタク趣味にはお金がかかる。時間がある時は少しでも……と、アキラさんのご厚意に甘えて、酒屋で働かせてもらっているのだ。


「でね、お兄ちゃん……これ、あげます!」


 差し出された女の子の手には――小さなサンタのワッペンがあった。


「さっき、ガラガラで当たりました!かわいいですー!」

「ホントだ、すごくかわいいね~!! これ、お兄ちゃんにあげても大丈夫?」

「はいです! お礼はちゃんとしないとなのです!」

「いい子だね~! よかったね、しーくん。クリスマスプレゼントだ~!」

「あ、うん……なぁ露葉。これって、貰っちゃっていいのかな」


 この子も欲しいんじゃないだろうか、とか。色々と考えてしまう。


「ちゃんと気持ちを受け取ることが大事なんだよ~、

 しーくん」

「おにい、ちゃん? いらないですか…………?」


 不安そうにみつめる女の子の目には、少し涙が浮かんでいた。


「よしよ~し。ごめんね~。しーくん、乙女の気持ち、ぜんっぜん分かってないからね~」


 でたよ。女子特有の「乙女」表現。……どうせ僕には分かりません。

 これでも努力してるつもりなんだけどなぁ。


「しーくん、ほら」

「…………ごめん。プレゼント、もらっていいかな?」


 女の子の頭を軽く撫でる。


「――うん! はい、どーぞっ!」


 最後に満開の笑顔を見せてくれた女の子は、嬉しそうにお母さんの所へと戻っていった。


「しーくん、素敵なクリスマスプレゼントだね!」

「そう、だな。……やっぱり、難しいや」

「ふぇ? 女の子の気持ち?」

「それもあるけど……ほら、ゲームの中とかだったら、さっきの俺の行動は正解だと思うけど」


 例えば、ギャルゲーの選択肢。相手の好感度をあげるには、プレゼントをもらうという選択が一番だろう。


「でもさ、やっぱりリアルだと……俺は手伝いでサンタやってたわけで、これだって、あの子が欲しかったんじゃないかな、とか、色々さ」


 右手に握ったサンタのワッペンをみつめる。

 たしかに可愛らしいデザインだと思うけど……たぶん、あの子ほど僕は価値がわからないだろう。


「しーくんは、優しいね」

「……そうかな」

「うん。一つ一つのことに、ちゃんと一生懸命考えて。オタクなのにね~」

「……オタクは全く関係ないと思うんだが?」


 むしろオタクだからこそ、リアルでは色々と考える気がするんだが。

 それに、趣味嗜好で人を判断するのは良くないぞー、露葉。仕方ない面もあるとは思うけど。


「ま、あの子も嬉しそうにしてたし。前向きに考えたらいいのかな」

「それでいいと思うな~。そのワッペン、本当にかわいいよね~!」

「なら、あげようか……って、それは良くないな。悪いけど、俺が大事にもらっておくよ」


 どこで使うのかはおいといて。

 このワッペンの価値は分からなくても、プレゼントとしての価値は、少しは分かる気がする。


「うん、せ~いかい! 素敵なクリスマスプレゼント、大事にしないとだね!」


 クリスマスイブにもらった女の子からのプレゼント。そう考えると、ちょっと得をした気分だ。


「素敵なプレゼント、か。………………もうすぐ、だな」

「…………。うん、そうだね」


 そう、もうすぐ。

 もうすぐ、僕達には、神様からプレゼントが届く。

 それは、僕達の人生を大きく変えるかもしれないし、全く役に立たないかもしれない。

 僕はこう呼びたい、《タイニーギフト》と。

 とにかく、僕と露葉は期待に胸をはずませながら、夕焼け空の下、帰路に着くのであった。







 ―才能ー≪ギフト≫。

 今から二十年前の十二月二十四日。

 とある隕石が地球に落下した。

 そして、それをきっかけに、一人一人に特異なるチカラ、が身についた。

 それは、火を噴いたり、空を飛んだり、瞬間移動をしたり、電撃でコインを打ち出したり……は、出来ない。

 残念ながら、アニメマンガ要素とはほど遠い、そんな能力が、人間に身についた。


 たとえば、酒屋のアキラさん。

 異変をきっかけにヘリウムガスを自由に発生出来るようになったらしい。ただ、その量は本当に微々たるもので、実際にさっきも風船一つを膨らませるのに五分かかっていた。


 一時期は騒がれたものの、「わたし、こんなことできるんですぅ~」程度の自慢にしか使えない。

 その程度のチカラが僕らに身についたのだ。

 チカラを悪用する人もそれなりにはいたけど、基本的にはチカラ自体が微々たるものだから……ご察しの通りである。

 だから、僕らの生活に革命的な変化が起きたわけでも無く。

 パッとしない個性が一つ増えた、そんな小さな変化だった。

 そして政府は、その能力のことを神様からのプレゼントという意味も含め、才能ギフト、と命名した。


 才能はほぼ全ての人に与えられているが、まだ僕達にはない。


 というのも、才能ギフトが開花するには、十五歳以上でなければならない。

 そして、開花する日は毎年十二月二十四日と決まっている。


 つまり今日は、僕達中学三年生のほとんどにとって、才能ギフトが授けられる特別な日なのである。



 だから僕と露葉は、それなりに才能の開花を楽しみにしているのだった。――これから先、過酷な運命があるとも知らずに――





 といった感じにフラグを立てておけば面白くなる気がした。悲しいことに、現実は現実だから……まぁ、あまり期待しないでおこう。

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