第11話 遠ざかる心

 格闘技団体HOH社長の死は、新聞やニュースでも報道されて、色々な憶測が飛び交った。自殺と見せかけた他殺だとか、愛人問題があったとか、うつ病だったとか、様々な説が流れたが、現時点では憶測の域を出なかった。 

 試合が無くなるということは、目指してきた目標が突然無くなるということだ。考えると、気持ちが沈んだ。

 美雪に電話をした。僕の悩みを聞いて欲しかった。興行側の社長が死んで、試合がなくなってしまうかもしれないことを告げた。そうすると、


「悲しいことね。社長さんも人にはわからない悩みがあったのかもね。でも、枢名には良い機会かも。格闘技ではなく、次の道を探す時が来たんじゃない」


 そんな言葉が返ってきた。

 美雪が言う事は正しいと言えば正しい。格闘技なんて、危険だし不安定で実入りは良くない。だが、僕は格闘技を続けていきたいし、戦いたい男がいる。

「めげずに頑張れ」

とか、

「試合がなくなることはないから、心配するな」

とか、そんな事を言ってほしかった。

 電話を切って、携帯電話を放り出すと、布団の上に寝転がった。苛々した気持ちは、なかなか収まらなかった。

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