第6話 オークとの戦い

 村がオークに襲われていた。家に火の手が上がり、叫び声が上がっていた。

 話し合いや、取引に応じるような相手ではない。相手は怪物だ。

 マクロが駆け出し、僕らは後に続いた。走りながら戦闘準備を整える。マクロとロイトが剣を抜き、ラカが呪文を唱え始めた。僕は手にはめたグローブに念を込めた。グローブが一瞬青白く輝いた。戦闘準備完了だ。

 村人の死骸が転がっていた。腹を切り裂かれ、内臓が飛び散っていた。血と臓物の臭いが風に乗ってきた。

 オークの一人がこちらに気付いた。手には血塗られた剣を握りしめていた。唸り声を上げてこちらに襲いかかってきた。

 先頭にいたマクロが、難なく攻撃をかわし、オークの手を切り落とした。返す刀で首を切り落とす。オークは傷口から血を吹き出して倒れた。

 僕たちの存在に気付いたオーク達が、どんどん集まってきた。かなり多い。豚のような醜悪な顔で、筋骨隆々とした人間の体。性格は至って凶暴。仲間がやられて怒っている。怒っているのはこちらも同じだ。

 オークの一人が、僕に向かって棍棒を振るってきた。当たったら強烈だが、振りは遅い。かわして懐に飛び込んだ。顔面に拳を叩き込む。黄ばんだ牙が折れて飛び散った。次は腹を殴る。内臓が潰れた。最後にもう一発顔面。顔が陥没してオークはその場に倒れた。

 横を見ると、ロイトが剣を振るっていた。大きい体だが、動きは素早い。抜き胴で、オークの上半身と下半身を分離させていた。ロイトの顔の仮面に返り血が飛び散り、異様な姿になっていた。もう見慣れてしまったが。

 ラカが魔法を発動させた。空気中の水分が凝固し、氷の刃がオークの腹に突き刺さった。オークが豚の鳴き声に似た悲鳴を上げた。マクロがすかさず首を刎ねてとどめを刺した。

 オークは人間より力は強い。こちらはより速く動かねばならない。早く動き、その中で判断を間違えない。オークの攻撃をかわし、拳を打ち込む。オークの下顎が吹き飛んだ。

 マクロもロイトも流れるような動きでオークを倒していく。速くて強い。

 どうにか村を襲ってきたオークを退治した。さすがに僕ら全員が肩で息をしていた。

 マクロが全員を見渡した。誰が決めたわけではないが、彼は僕らのリーダーだった。茶色がかった短めの髪に一見幼く感じる顔。見た目は優男だが、誰をもひきつける魅力を持ち、剣だけでなく魔法も使えるすごい奴だった。

 僕らの中の紅一点ラカが、犠牲になった村人に悲しそうな目を向けていた。長いまっすぐな髪に白い肌、細い体つきはひ弱な印象を与えるが、体も心も丈夫で、何よりも強力な魔法を操ることが出来た。

 仮面の男ロイトは、手を上げて問題がないことを伝えた。彼はいつも仮面やマスクを付けている。仮面を付けていた方が力を出せるとか、火傷の跡を隠すためとか噂されているが、真相は謎のままだ。寝るときも就寝用マスクを装着しているので、僕らの中では素顔を見た者はいない。とにかく刀を振るう腕は確かだ。仮面の隙間から見える目は引き込まれそうな深さを持っていた。

 腕にひりひりとした痛みを感じた。オークの攻撃がかすっていたようだ。見てみると浅く切れていた。少し血が出ている。

 ラカが近付いてきて、僕の腕を取り傷を見た。

 大丈夫だ、と言って腕を離そうとしたが、腕を離してもらえなかった。

 ラカは魔法を唱え始めた。傷口が淡い光に包まれる。最初痛みがあったが、すぐに心地よい安らぎに変わった。光が消えたとき、傷口がふさがっていた。

 少し照れながら礼を言った。ラカは笑顔で返してきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る