第3話 水のありがたさ

 次の日、自分の部屋で目を覚ましてみると、体中が痛くて布団から立ち上がれなかった。頭も痛く、少し目が回る。三半規管もやられたようだ。総合格闘技は一勝するだけでもこの消耗度だ。割に合わない。それでも辞めることはないだろう。勝利の喜び、試合の高揚感は通常の生活では中々味わえない。それに戦いたい男がいる。

 どうにか立ち上がって、洗面所で鏡をのぞいた。目の周りが青く痣になっていたが、思ったよりましな顔をしていた。

 今日はバイトも休みだ。夜に美雪と会う約束をしているが、それまで予定はない。家でのんびりしよう。

 水道の蛇口をひねり、水を一杯飲んだ。減量中はあれだけ飲みたかった水が、今は好きなだけ飲める。水や食事の大切さを知ることが出来るのも、格闘技のおかげだ。

 テレビのスイッチを入れ、映し出された情報番組を漫然と眺めた。大して興味もないが、他のことをする気力が沸いてこなかった。

 マンホールの中から、死体が発見されたというニュースが流れた。点検作業員が、作業中にみつけたこと。身元不明で、腐敗が進んでいるが、おそらく他殺体だということ。マンホールの大まかな場所などを、テレビが伝えていた。

 昨夜会った不思議な女性を思い出した。マンホールを眺めていたと言っていた。昨夜の場所と死体が入っていた場所は離れているが、何か関係があるのだろうか。どちらにしろ、僕の人生とは別路線の出来事だ。頭から追いやった。テレビに目をやると、次の情報を流していた。スイッチを切って、もう一度寝ることにした。


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