返事
「これはもしかして思ってたのと違うのかなぁ」
誰にも聞こえないような声で俺はひとりごちた。俺はチートの手助けでとんでもないものを作ることができる。感覚としてはゲームをアシスト付きでやるのが一番近い。
なので、チートは100%のうち常に狙ったパーセンテージに誘導してくれるもので、俺が成長すればチートの手助けの割合が減っていくだけで、狙ったところが到達点なのは変わらないと思っていた。
たとえば高級モデルの場合は完成が50%として、俺が5%ぶんやるとしたらチートが残りの45%ぶんをアシストしてくれる、みたいな。
だが、さっきのはそうではなかった。俺が5%ぶんやったのとチートの50%ぶんで55%になっていた。100%のときは105%になっても大きなズレじゃないから問題ないとして、10%の場合は15%になってしまう。こっちは少々問題だな。
自分がどれだけできているかを探りつつ、チートの手助けをどれくらいにするかを決めていかなければいけない。試行錯誤は嫌いじゃないので、頑張っていくか。
それとは別に、逆に言えばこれまでは完全にチート任せだったということでもある。その自覚がなかったわけではないし、全くの素人だったので多少の覚悟はしていたが、こうもハッキリ知ってしまうと凹むな。
まあ、ダニング=クルーガー効果の絶望の谷にいると思おう。ここからは登っていけばいい。その先の頂上がバカの山だったとしても、また谷に落ちて登っていくのだ。
そんな小さな決意をして、作業に取り掛かろうとすると、
「キューーイッ」
と鋭い声が外から聞こえてきた。ハヤテだ。時間的に見て行ってそう経たないうちに戻ってきたらしい。皆作業の手を止めて、ぞろぞろと迎えに出る。
俺一人でも大丈夫だと思うのだが、それを口に出しては野暮というものだろうな。
外に出ると、伝言板のところにハヤテが止まっている。出てきた皆に気がつくと、飛んできてディアナの肩にそっと降りた。
こういう時に困るし、テラスのあたりにハヤテのとまり木を作ってやったほうがいいかな……。
「よーし、お疲れ様」
俺がそう言ってハヤテの頭を撫でてやると、ハヤテは目を瞑って頭を擦り付けてくる。ディアナや他の皆も撫でてやって、ハヤテはすっかりご機嫌なようだ。
「キュイキュイ」
足の筒には蓋がしてある。開けっ放しでないということは、カミロが返事を入れてくれたらしい。
早速取り出して広げ、家族の皆で顔を寄せ合って読んでみるとシンプルに「了解」の返事だけが書かれていた。
「よーし、それじゃあ、明日はカミロの店に行くか」
俺が言うと、リケが尋ねてくる。
「納品はどうします?」
「出来てる分はついでに持っていっちまおう」
「分かりました」
「よーし、それじゃあ作業に戻るか」
家族からパラパラと了解の声が返ってきて、俺達は作業に戻った。
鱗とカリオピウムに進展はなかったが、普段の作業はつつがなく終えて翌日。朝の日課も食事も終えて準備をする。
藁で剣をひとまとめにしたり、紐でまとめたナイフを箱に入れたりだ。クルルも力を出せるとあって張り切っている。
「クルルル」
「ワン!」
ルーシーもお出かけが嬉しいのか、あたりを走り回っている。
「しかし、本当に大きくなったなぁ」
冬が終わり春になってこっち、ルーシーは更にぐんぐんと大きくなって、前の世界の犬種で言えばシベリアン・ハスキーと同じかちょっと小さいくらいになっている。
普通に立派な成犬……いや、成狼と言っていいだろう。身体はあまり太くなく、スラリとしていて足が速そうだ。普通の森狼と比べるとややガッチリしているのは栄養状態の差かも知れない。
その大人になったルーシーだが、今日は皆が乗り込んでも荷台に上がってこなかった。
「どうしたの? ここなら空いてるわよ」
ディアナがそう言って、ルーシーのために空けてあるスペースを指差すが、ルーシーは一声吠えたきりで上がる気配がない。
「昨日はハヤテが頑張ったし、今日は自分もクルルと一緒に走るってことじゃ?」
どうしたもんかと思っている時にヘレンが発した言葉。これにルーシーは大きく反応し、ぐるりと回って胸を張り、
「ワンワン!」
と高らかに吠えた。荷台の家族が笑顔になる。
「よし、それじゃあ頼んだぞ」
「ワン!」
ルーシーは再び大きく吠えると、クルルの横に向かう。クルルが頭を下げると、ルーシーは自分の頭を擦り付けた。
それで挨拶と確認が済んだのかクルルは頭を上げて正面を向き、ルーシーがおすわりをする。
「出発!」
リケが宣言して手綱を持つと、クルルの牽く竜車は街へ向けて〝黒の森〟の中を進みだすのだった。
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