連載6周年特別編〝森の学校〟

本日は特別編となります。本編とは全く関係のないIFのお話ですので、予めご了承ください。

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「みんな、おはよう」


 俺は居並ぶ生徒達に向かって声をかける。起立気をつけ礼着席の一連の流れはない。

 ここの生徒達は非常に学ぶ意欲が高いので、必要なかろうと言うことでなしになった。


『おはようございまーす!!』


 生徒達は目をキラキラさせて、俺が次に何を言うかを待っている。

 緑の髪の少女クルル、灰色の髪の少女ルーシー、炎の精霊マリベルの我が家の娘達と、〝黒の森〟に住む獣人族の子供ら、そして、妖精族の人々。

 それが、この学校の生徒達だった。


 この〝黒の森〟で学校をやることになったのは、少し前に遡る。


 夕食を終えて、寝る前の憩いの時間。いつもなら俺は先に就寝させてもらっているのだが、この日はディアナから話があるということで少し残っていた。


「教育なぁ……」


 そのディアナから話を聞いた俺は腕を組んだ。

 まだまだ遊び盛りではあるが、クルルもルーシーも大きくなってきた。ついてはそろそろ教育を考えても良いのではないか、というのがディアナの主張だった。


 いや、ディアナの、と限定するのはいささか語弊があるかも知れない。話を知らなかった俺以外の全員が同じことを考えていたそうだ。

 サーミャとヘレンも「知っていることは多いに越したことはない」という理由で賛成していたらしい。


「でも、教育と言っても色々あるぞ。何を教えるんだ?」

「それこそ色々かな」


 俺が聞くと、ディアナが答えた。


「私が礼儀作法。サーミャが〝黒の森〟の地形と動物。リケが文字でリディが植物。ヘレンが剣術と体術で、アンネが世界の地形と政の予定」

「そこまで話が進んでたのか。俺は?」

「エイゾウは算術ね」

「鍛冶じゃないのか」

「鍛冶はそっちをやりたい子が増えてからでいいわ」

「なるほど」


 結構キッチリ話が詰められていた。俺としても娘達が将来どんなことをするにも困らないようにはしてやりたいし、特に反対はない。

 生活は時々カミロのところに卸すぶんでも十分成り立っている(自給自足が進んできたこともあるが)し、週に数日であれば時間はとれる。


 最終的に週に2日ほど、まる1日教育を行う日にすることになった。

 そうと決まればということで、庭の一角に校舎を作った。校舎と言っても大きな一部屋の中に机を並べただけの簡素なものである。


 校舎を作っている最中に妖精族の長であるジゼルさんが来て、何を作っているのかと尋ねられた。

 教育のための建物だと答えると、


「それは良いですね。あ、妖精族で興味のある子をお願いしてもいいですか?」

「もちろん」


 これで妖精族の生徒が増え、完成間近の頃にリュイサさんがやってきて、


「この森の子らにもお願いできないかしら」

「森の子ら……と言うと獣人族ですか?」

「そうね」

「うちはいいですけど、妖精族と違って、ここまで来るのは危険じゃないですか?」

「そこは私の方でなんとかするわ」

「それなら構いませんよ」

「ありがとう」


 これで獣人族の子供らが生徒になった。


 校舎が完成し、授業を行うことになって数ヶ月。新しいことを覚えるのが楽しいのか、皆真剣に話を聞き、身体を動かし、しっかりと食べて学んでいる。


 こうして色々学んで、この〝黒の森〟をより楽しく暮らして行ってくれるといいのだが。

 そう思いながら、俺は言った。


「それじゃあ、今日の授業を始めるぞー」

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本日にてWeb版の連載が6周年を迎えました。

ここまで続けられたのも、読者の皆様のおかげと御礼申し上げます。

これからもエイゾウ達の物語は続いて参りますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

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