探索

 部屋の入口はメインの通路から見て、グルっと回った裏手にあった。

 扉はなく、ポッカリと闇が口を開けている。上層の様子からして扉があったのなら、その残骸が残っているはずだが、それもないのでもともとついていないのだろう。


 その様子を見て、俺は推測を口にした。


「ここは人がいたんですかね」

「そうかも知れません。例えば奇襲を受けた場合、ここに回ってくるまでの間に多少なりとも時間が稼げますし」


 推測に答えてくれたのはアネットさんだ。上に休憩や即応の兵が詰めていたとして、もう少し即応性の低い人員がここにいた、ということは十分考えられる。


「さて、確認してみるとしよう!」


 ルイ殿下が後ろから歌劇の一幕かのようにそう宣言する。明かり役の人が手に持った明かりを闇の中に突き出すと、ふわりと部屋の中が照らされる。


 有り体に言えば、部屋の中はかなり荒れていた。前の世界で、自衛隊の教育課程ではベッドメイクがなっていないと教官だか上官だかが部屋を荒らしていくと聞いたことがあるが、それもかくやの荒れ具合である。

 それと違うのはこちらには経年劣化も含まれている、ということだが。


 そんな様子にもかかわらず、ルイ殿下は目を輝かせて言った。


「やはり、ここには人がいたみたいだね」


 頷いてマリウスが続ける。


「この様子だと慌てて出ていったか、あるいは家探しでもされましたかね」

「慌てて出たなら、このベッドがひっくり返ったりはしてないだろう。後者だろうね」


 いつの間にかベッドのそばに移動していたルイ殿下が、ひっくり返ったベッドの足を揺する。ベッドの足はポロリと外れてしまった。

 棚であったらしきものの残骸もその近くに転がっていて、ベッドと違いあまり原型をとどめていない。


「この様子だと最近じゃないな。〝大戦〟の頃か、それ以前か……」


 ルイ殿下が腕を組んだ。〝大戦〟とはこの世界で600年前、魔族とその他の種族との間で起きた戦争のことである。それ以降は大きな戦争は起きておらず、あっても小競り合いや一部の内戦くらいである。

 この〝遺跡〟が、いつ頃できたのか特定できるものはまだ出てきていないが、〝大戦〟当時にあった場合、ここまで攻め込まれていれば一大事である。


「家探しされたのなら、この〝遺跡〟には何も残っていないのでは?」


 カテリナさんが疑問を口にする。上層には何も残っていなかった。その上で台風が来たあとのようにしてまで捜索をした、ということはその時点で何も残っていなかったか、あるいは残っていたとしても家探しのときに持ち去られているはずである。


「普通に考えればそうだね」


 ルイ殿下が髭のない顎をさする。そう言えば侯爵は髭を蓄えていたが、王族にそういう習慣はないのだろうか。ルイ殿下なので「個人的に好きじゃない」で伸ばしていない可能性もありそうだが。

 ともあれ、俺は気になったことをルイ殿下に聞いてみる。


「普通に考えれば、とは?」


 すると、ルイ殿下は顎に手を置いたまま、ニンマリと笑った。あ、これはあまり聞きたくない言葉が出てきそうだな。


「家探しして見つけたいものが決まっていなければ、補給もあるだろうし、金目のものも一切合切持っていくだろうけどさ、もし何か決まったものを探していたとしたら?」

「つまり、ここを探しに来た輩は、何が置いてあっても気にせずに、その『何か』だけを持ち帰るためにここへ来たと?」

「そういうことだね」

「ええと、それでは、もしかしてルイ殿下は……」


 俺が続けて聞くと、ルイ殿下は先程のニンマリ笑いよりも更に大きな笑顔になってから言った。


「うん、ここに来た人物には心当たりがある」


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