先客

「心当たりがあると言っても、直接の面識があるわけではないけどね」


 ルイ殿下は肩をすくめて、そう言った。今回みたいに自分から面識を作りに行きそうな殿下で面識がないとすると、よほど引きこもった相手か、あるいは……


「昔にいた人ということですか?」


 マリウスが言うと、ルイ殿下は頷いた。


「この〝遺跡〟は都の下に埋まっているだろう?」

「ええ」


 何を言い出すのだろうという顔をして、今度はマリウスが頷く。


「教えてしまうと兄上が激怒してしまうし、詳細は聞かないほうがいいと思うから詳しいことは言わないけど、王家に関わるあるものがここにあると目されている。いや、この様子だと『目されていた』のほうが適切かな」


 見るからに荒らされているので、ルイ殿下はそう判断したのだろう。大きくため息をついた。

 マリウスがルイ殿下と言葉を交わす。


「それは文献にも残っているんだけど、叔父上は閲覧できないから知らないはずだ」

「だから公爵派が調査には参加できないとなっても、あっさり引き下がったと?」

「最初はそう見せて知ってる可能性もあるな、と思ってたけど、今日の今日まで何の動きもなかったことを考えれば、ちょっと考えにくいかな。ここを出ても誰も来なかったら、本当に知らないだけだと思うよ」


 俺は引っかかっていることを口にする。


「しかし、そんな重要なものなら、もっと下層にしまっておくのでは?」


 それを聞いたルイ殿下がニッコリと笑った。


「ま、普通はそう思うよね。この下に何階層あるのかは知らないけど、とにかく最下層に隠しておくのが安全だろうって」


 俺は頷く。色んな人が出入りする可能性が高いところでは、それであるとバレる可能性も高くなる。一番奥の奥に、それこそ隠し扉なりでも作って隠しておけば、その可能性は限りなく低くなるはずだ。


「そこはほら、足元を見ながら歩くやつはあんまりいない、ってやつでね。奥のほうにあって見るからに大事そうなものは誰でも価値があると思うだろうが、これくらい浅いところにあるなんでもないものならそうは思われない、ってのを狙ったらしい」

「なるほど」


 隠し扉の奥にしまってあるものが大事であることは、子供にだってわかるだろう。逆にそこらに落ちているような木の枝は誰も見向きもしない。たとえそれが〝世界樹〟と呼ばれるようなものの枝であったとしてもだ。この世界に〝世界樹〟があるかは知らないが。


「私の目的は今日それを回収することだったんだけど、この部屋の様子だとどうも外れだったみたいだ。一応、他の部屋も調べてから帰るけどね」

「ええと、じゃあ、上での殿下のご様子は」


 俺は戸惑いつつ聞いた、第1層では、ルイ殿下は放っておけば最下層まで一人で突っ込んでいきそうなくらい目がキラキラと輝いていたのだが、今はもうさっさとやることやったら帰りたいという、俺が前の世界でよくなっていた状態のように見える。


「演技だよ。上の階だと何が聞いてるかわからないからね。この階層を調べるのが主目的で、ここだけは〝探索者〟たちに先を越されるわけにはいかなかったんだよ。一見すると価値のなさそうなものだけど、全く気づかないという保証はないからね」


 そこまで言って、ルイ殿下はポンと手を打ってからウインクをして付け足した。


「演技なのは半分、ね。半分」


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