第1層①
明かりを持ってきたのはやはり黒尽くめの人である。装束がゆったりとしているし、背丈も俺より少し低いくらいのようなので、男女の別はわからない。
アネットさんと違い、その人はフードを取らなかった。
カテリナさんが自分の明かりを明かり役(と便宜上認識することにした)の人に差し出し、移してもらう。
これで光源が2つになった。いざというときは予備のもあるから、今日一日の探索だと言うなら十分だろう。
「それでは参りましょう」
アネットさんが促し、明かり役の人を先頭に、アネットさん、俺、マリウス、ルイ殿下、カテリナさん、ヘレンの順で進んでいく。
今の季節を考えると中はやや気温が低めのようで、肌にふれる空気はひんやりとしている。
俺はもう少しジメジメしてるかと思ったが、湿気は感じない。むしろ外よりも乾燥しているようにすら思える。
地図で見た廊下にあたるところを俺達は行く。2つの明かりが照らし出す範囲では、この〝遺跡〟は石造りのようだ。この世界ではよく見る大きさの石が積まれて壁になっており、〝遺跡〟の外と比べても違和感はない。
俺に〝インストール〟されている知識にはないが、ここが作られたくらいから石工ギルドのようなところでは、このサイズが標準として扱われているのかも知れないな。
廊下は特に傾いている様子もない。地殻変動などが起きたことがないのだろうな。前の世界のRPGだと、古いダンジョンが傾いている、みたいなのが時々あった記憶がある。傾いたり地盤沈下で水没してしまったところをギミックでクリアするの、結構好きだったな。
さておき、そうなると上の町はそもそもこの〝遺跡〟の上に作られていることになる。この王国のが建国された由来についても、俺の知識にはないのだが、この遺跡が由来に関連するものだったりはしないだろうか。
それでルイ殿下が来たのだ、と考えると辻褄はあっていそうな……。
歩きながら暗闇にも目を配って、そういう事を考えていると、壁の途中にぽっかりと闇が口を開いている。有り体に言えば部屋の入口だ。
うちで「部屋に扉をつけよう」と言ったら、「そういうものは家主の部屋か客間くらいにしかつけない」とサーミャとリケに驚かれたことがあるが、それから考えると、ここも身分が上の人はいなかったようだ。
「中にめぼしいものが無いことは確認しておりますが、見ますか?」
アネットさんがルイ殿下に振り返って言った。
「勿論だとも!」
ルイ殿下が大声で返す。王宮では必要なスキルなのだろう、よく通る声によって俺の耳には残響と軽い耳鳴りが響く。
流石にスマートウォッチが「1時間聞くと聴覚に一時的な障害が起きますよ」と通知してくるほどではなさそうだが、わぁんと〝遺跡〟自体が共鳴するかのように響いているのは、あんまりよろしくないような気もするな。
アネットさんは今日これからも何回かすることになるだろう大きなため息を吐くと、明かり役の人に向かって頷き、俺達は全員で胸甲などの金属が立てる音を少しばかり響かせながら、その暗闇の中へと入っていった。
「確かに、さほど広くないな」
中に入った俺は思わずそう呟いていた。その程度の声でも、閉鎖空間のここでは少しばかり大きく聞こえる。俺の言葉を聞いたアネットさんが頷いた。
「ええ、カテリナさんから聞いておられるかと思いますが、1層の部屋はあまり大きくありません。特に何も残っていないことを考えると、すぐに出し入れするようなものをある程度区分して置いてあったんでしょうね」
2つの明かりに照らされた室内は石の壁で囲われているが、入ってきたのとは逆の方の壁は盛り上がった土で覆われていた。崩れたからだとは思うが、この上にある道や建物が今までに沈下したりしなくて良かったな。
「あそこは補強を?」
「そうだな、うちの仕事になるだろう。1層でこうなっている部屋はそれが済むまで、立入禁止にせざるを得ないな」
俺の問いにはマリウスが答えた。そう言えばここはエイムール家の管轄だったな。あまり出費がかさむとよろしくなさそうだが、そのへんについては追々聞いておこう。
「〝遺跡〟の第1層は一時的な倉庫か何かのことが多いです。なので、変わり果てた食料があったりすることもあるんですが、大抵は空っぽですから、基本的には〝探索者〟たちの休憩所になります。我々の天幕と同じですね」
俺の後ろからカテリナさんが解説してくれた。俺はなるほど、と頷く。
「……もしここを掘ってずっと進んだら、どこに出るのかな?」
「ここを進んでも、王宮の方には出ません。そこは確認済みです」
「そうか、ありがとう」
「いえ」
ルイ殿下の懸念事項はアネットさんがすぐに払拭した。なるほど、そういうのもあって王族が来る必要もあるのだな。
「見たところ本当に何もなさそうだ。隠し扉なんかもないよね?」
「ございません。我々が入念に調べました」
にべもないアネットさんの回答。ルイ殿下は大きく肩を竦めると、
「じゃ、次いこう次」
と、俺達を急かすのだった。
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