潜る準備
俺とヘレンが都を行くと、先ほどのような鍛冶で作るようなものではない道具を扱っている店に行き当たった。
店先には、ロープや火口箱、ランタンなどが所狭しと並べられていて、ここも〝探索者〟を当て込んだものだろう。
「用意されてるかも知れないけど、こういうのは自分でもっておいたほうが良いな」
ヘレンが手に取ったのは、丈夫そうなロープだった。
「そうなのか?」
「ああ、咄嗟に必要になることも多いし、足りないことも結構あるからな」
「なるほど」
俺も納得する。〝遺跡〟ではどんな状況になるか分からない。備えあれば憂いなしだが、何を備えればいいかはプロの判断を仰いでいこう。
「ランタンと油も必要だな。暗闇じゃ身動きできない」
ヘレンがランタンを手に取る。
確かに地下であれば光は必要だし、マリウスのほうでも用意はしてあるだろうが予備があって困るものでもない。
家でも予備の明かりはあってもいいわけだし。
「火打ち石と着火道具も揃えておこう。万が一、濡れても大丈夫なように」
念には念を入れる。
探索で最も恐ろしいのは、想定外の事態だ。
できる限りの準備をしておくに越したことはない。
「ごつい鞄まであるのか」
革製だろう肩掛けっぽい鞄も置いてある。あちこちにポケットがついているわけではなく、袋にフラップと肩紐がついているだけ、といった具合ではあるが、運搬の役には立つだろう。
「これは必要かな」
「持っていくもんは十分入るだろ。鞄が多くても身動きが取りにくいぞ。〝戦利品〟はアタイたちは持たないだろうし」
「ああ、そりゃそうか」
今回はお偉いさんがいらっしゃる。何か見つけたら、最初に懐に収めるのはその方になるわけで、最低限だろうがお付きの人が持って帰ることになる。俺たちがそこで活躍することはない。
動きにくくなって護衛をろくにこなせないようでは問題があるし。
「他にはどうかな」
「そうだな……」
ヘレンは顎に手を当てて考え込む。
「いや、これくらいで良いだろ。2、3日潜りっぱなしならともかく、補修にいるものなんかは、必要になったらそりゃ帰る時ってことだし」
「それはそうだ」
今回は様子見なわけなので探索を続行できなくなったら、そこで中断して帰還するのがベストの選択肢になるわけだな。
「よし、じゃあこいつらを貰えるかい?」
「毎度あり」
俺は持ってきていた金を懐から取り出し、店主に渡した。
品物を受け取り、ぶらぶらと散歩のような感じで俺とヘレンは都の道を行く。
その道中、旅装で荷物は多いが背負っている人々を見かけて俺とヘレンは言葉を交わす。
「〝探索者〟が増えてるようだな」
「どこから聞きつけてくるのか、〝遺跡〟が出たときの連中が駆けつけてくる速さは早馬にも勝てそうだからな」
いざとなれば身体一つで駆けつけて、ロマンに身を投じるのか。そういう夢のある生活も憧れないではないが、オジさんにはちょっと刺激がありすぎる。
「俺はもう少しのんびり生きたいね」
「あいつらより先に〝遺跡〟に潜るのに?」
ニヤニヤしながらのヘレンの言葉に、俺はぐうの音も出ず、
「ほら帰るぞ」
そう言うのが精一杯だった。
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