途切れる道
「ちょっとした? 大事ではなく?」
わざわざ伝書竜まで使って伝えてくることだ。「ちょっとした」で済むようなものとは考えにくいのだが。
俺の言葉に、カミロは頭を掻いた。
「いやまぁ、大事っちゃあ大事なんだが……」
いつものように口髭を触ってはいるが、あれは話すかどうか迷っているときで、一度話し始めたら色々詳細に教えてくれるカミロにしては、妙に歯切れが悪いような気がする。
「とりあえず、起きたらしいことを話すぞ」
「ああ」
ここは外だが、店の敷地ではある。漏れる心配はあまりないだろう。
カミロはペトラさんと丁稚さんをチラと見たが、そのまま話しはじめる。
「都で道が陥没した」
「道が?」
カミロは頷いた。前の世界の都市部とは異なり、地下に埋設しているものが多くはないこの世界では、滅多に起こらない出来事だろう。
その意味では大事ではあるのだが、伝書竜を使うほどの話ではやはりない。
「それだけか?」
言ったのは俺ではなく、ヘレンだった。他の皆も頷いているから、同じ気持ちなのだろう。
カミロがヒラヒラと手を振る。
「待て、それだけじゃない。問題はいくつかある。まず1つは、それがエイムール家が管理する場所で起きたということだ」
都は広い。全てを王家で管理できるわけではない。
王宮がある中心部や王家が直轄にしておきたい場所(たいていは軍事に関連するもの)を除いては、貴族の管轄になっており、そこで得た税はいくらかを王家に納め、その他は自分たちのものにしてよいことになっている。
……と、ディアナが説明してくれた。
自分たちのもの、といっても修繕などはそこから管理している貴族が金を出すのが〝しきたり〟だというから、濡れ手に粟みたいな話でないことは確かだ。
つまり、今起きているらしい道の陥没はエイムール家もちで修理することになる。
突然降って湧いた費用はエイムール家がかなり栄えている家であるといえど、厳しいことには変わりないだろう。
だが、それで屋台骨が揺らぐような家でもない。
「道の陥没自体はどうも公爵派の嫌がらせだろう、とマリウスは添えていた」
「今回、俺たちがチェインメイルを作ることになった件とは地続きか」
「そうなる。で、だ」
カミロは俺たちを見渡した。場が静まりかえり、誰ともなく唾を飲み込む音が聞こえる。
「これは公爵派にとって予想外だったんだろうが、その陥没した道の下に、どうやら人の手で作られた空間があるらしい。まだどこまで広がっているかは不明だが、ことによると相当深い可能性もある」
「遺跡……?」
「その可能性を伯爵は考えているようだな」
カミロは腕を組み、頷いた。
「遺跡なら〝探索者〟に任せればいいのでは? わざわざ急報するほどのものでもないような」
アンネがそう言うと、カミロは今度は首を横に振る。
「普通〝遺跡〟ってのは、森の中とか高山の山腹とかに残ってるんだよ。それで、専門の〝探索者〟に依頼をかけて行ってもらうわけだが……」
「今回は違う?」
頷くカミロ。直後に彼自身がついたため息は相当に大きい。
「都の中に突如現れた遺跡だ。これはつまり、〝探索者〟のように苦難を越えなければ辿り着けないわけじゃないってことだ」
「おい、まさか」
カミロは再び頷いた。どうやら俺に閃いたものは間違っていなかったらしい。間違っていて欲しかったが。
「今回は王家から人を出す。そこにはエイムール家も着いていくことになったらしい。となれば――」
「護衛が欲しいよな。それもなるべく腕の立つ」
「伯爵閣下がこういうとき、頼りにする相手を俺はあまり知らなくてな」
たっぷりとため息をついてから、ディアナは言った。
「都まで行け、ってことね」
「ご名答」
少しおどけるように言うカミロ。しかし、俺たち家族から笑い声が起きることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます