都からの急報
俺とペトラさんにより、バタバタと起きてきた皆は手早く身支度を始める。相変わらずアンネだけはどこか夢心地のようだったが。
その間、俺は外で娘たちの相手をしていて、皆の支度が終わり次第出てきた丁稚さんにしばらくのバトンタッチをした。
「それじゃ、また後で」
「はい! お任せください!」
昨年に会った頃よりも幾分精悍さがついてきた丁稚さんの肩を軽く叩いて、俺は〝家〟に向かった。
「それじゃ、いただきます」
『いただきます』
3日目ともなると、ここの朝食にも慣れてきた。その頃合いで離れるのが少し名残惜しい気もする。
「そういえば」
ペトラさんが言った。皆の目を集めてしまい、少しばかり身を縮こまらせる。
「食事の挨拶、カレンさんと一緒なんですね」
「ああ、北方の風習なんですよ」
「カレンさんもそんなことを言ってました」
どうやらカレンさんは都で修行の間も〝北方式〟でやっていたようだ。
そういう習慣ってなかなか抜けないからな。いた世界からして違っている俺が言えた義理ではないが。
「もし、うちに来ることがあれば、カレンさんに教わると良いかもしれませんね」
「わかりました!」
満面の笑みで答えるペトラさんに、食卓が笑い声に包まれる。
「今日はアタシたちは帰るだけか」
サーミャがパンの最後の一かけを飲み込んで言った。俺は頷く。
「ああ。ペトラさんも帰るだけだそうだ」
ペトラさんも頷いた。
「こちらへは本当に手伝いに来ただけですので」
「あれは大変助かりました」
リケがペコリと頭を下げると、ペトラさんも慌てて頭を下げる。
「いえいえ、私も勉強になりましたので!」
「都に行ったら、ちょっとは顔を出してあげたら?」
「む……」
呆れた風にアンネが言った。俺は小さく呻く。
もう既に悪感情がほとんどないのは確かだし、行っていいなら行きたい気持ちはある。
だが、今回ここに来る絶好の機会を断ったくらいの気概である。ホイホイ顔を出して良いものかは非常に悩むな。
「ここに来ないのは、一緒に作業するわけにいかないからでしょ。作った品は見てるんだから、製作過程を見るだけならいいんじゃないの?」
俺が懸念を口に出すと、ディアナがそう言った。それもそうだな……。
「じゃあ、ペトラさん、今度都に行ったときに寄っていいか、カレンさんに聞いておいていただけますか? 結果はエイムール家か都のカミロの店に言付けておいてくだされば、我々にも伝わりますので」
「分かりました。帰ったら早速聞いておきます」
「すみません、お願いします」
その様子次第では、カレンさんが納得すればきてもいいことになるかも知れないな、そう思いながら、俺もパンの最後の一かけらを口に放り込んだ。
カミロが少しばかり焦った様子で俺たちのところへやってきたのは、それからいくらもしない頃だった。
帰りの荷物を荷車に積み終わり、そろそろカミロに挨拶をしていくかと思っていたとき、カミロがすっ飛んできた。
「今、伯爵のところから伝書竜が飛んできてな」
マリウスのところからここへ来る、ということはマイカゼのほうか。うちのハヤテのように、カミロの店へと手紙を届ける手段である。
うちの場合は実用というより、かなりペットに近くなっているのも確かだが。
ともあれ、通常であれば都の店と街の店を行き来する便に託せばいいものを、マイカゼを使ったということは、急ぎの用件ということになる。
固唾を呑んでカミロを見る俺たちを、彼は見渡してからこう言った。
「都でちょっとした事件が起きたらしい」
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