チェインメイル
「おはようございます。一昨日と昨日と美味しい食事をありがとうございました」
既に起きていた丁稚さんを見かけて、厨房に連れて行ってもらった俺とリケは、朝早いにもかかわらず、既に朝食の準備を始めていた料理人さんたちに挨拶をした。
「ああ、いえいえ、喜んでいただけたなら何よりです」
料理人さんたちは朗らかな笑顔で答えてくれた。
「すみません、お忙しいところ。何か手伝えることがあればと思いまして……」
俺が言うと、リケがコクコクと頷いた。
「いえ、お客様を働かせるわけにはまいりませんので」
少し困った顔をして料理人さんは言った。この後の作業を考えてのテンションでちょっと判断が鈍っていたが、言われてみればそれはそうだ。
ここで頑張ってしまっては、かえって迷惑になりそうだし大人しく引き下がろう。
「それでは、これで失礼します。手が足りないとかあれば言ってくださってかまいませんので」
「ありがとうございます」
そして、俺とリケは厨房を辞した。そう間もない時間に、一日の始まりにこれ以上なく美味い朝食が届けられたことは言うまでもない。
意気込みを新たに、俺は作業場へ足を踏み入れた。リケ達も続いて入ってくる。みんなやる気に満ちた表情だ。
「さて、やりますか!」
珍しくアンネが気合十分に言う。一同が力強く頷いた。
俺も応えるように頷き、チェインメイルに向き合う。
残すは最後の詰めのみ。雑念を振り払い、一心不乱に指を動かす。
完璧なフォルムを目指し、慎重かつ大胆に編み込んでいく。
リングを拾う。
穴に通す。
きっちりとはめ込む。
一つ一つのリングを丁寧に接続し、リズムよく繰り返し繰り返し作業をする。
その一つ一つが、チェインメイルを理想へと近づけている。俺はただただ没頭して作業するのみだ。
普通ならどのリングがどこにあたるのかを考えながらすべき作業。
しかし、俺はチートの手助けで、どこをどうすれば出来るのかを考えなくても分かってしまう。
その分、作業だけに集中することができている。
「ようし、もうちょい……」
呟きながら、最後の詰めを急ぐ。
リング同士の隙間が、一つ、また一つと消えていく。
その光景に、高揚感が込み上げてくる。
「もう少しですよ…!」
リディの興奮した声が聞こえる。
俺は静かに頷いて、さらに手を動かした。
「あと1つ……」
サーミャのかけ声に合わせるように、俺は最後のリングをはめ込んだ。
「よし、完成だ……!」
俺はそっとチェインメイルを手に取り、光に透かしてみる。
編み目は一見すると綺麗だし、着用するのに不都合はないだろう。袖と丈が短すぎるのは予定通りなので目を瞑る。
色々改善点はあるにはあるが、及第点を貰ってもいいだろうと思う。
俺はリケにチェインメイルを向けた。彼女は向けられたチェインメイルをジッと見つめる。
そして、
「やりましたね、親方!」
リケが目を細めて言うと、歓喜の叫びが、作業場に響き渡った。
「ええ、これは凄いですね」
リディも感嘆の息を漏らす。
「流石はエイゾウだなぁ」
サーミャも惜しみない賛辞を送ってくれる。
「みんな、ありがとう。これもお前たちのおかげだ」
俺は心から感謝の言葉を告げる。一人では、決して成し遂げられなかった。
仲間の力があったからこそ、ここまでやり遂げられたのだ。
「これならマリウスさんも文句ないでしょ」
アンネがそう言って微笑む。
「ああ、そうだな」
俺はチェインメイルの表面をそっと撫でた。全く滑らか……とまではいかないが、怪我をしてしまいそうな引っかかりは感じない。
今更ながら、ズシリとした重みを感じる。この重みは、俺たちの思いそのもののようにも思えてくる。
「さあ、早速届けに行こう」
そう言って、俺はチェインメイルを丁寧に布に包んだ。最高の守りを、これから旅立たせるのだ。
こうして俺たちは、チェインメイルを携え、カミロの店へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます