友との晩餐

「今日は頑張ったほうだなぁ」


 鍛冶場からの帰り道、空を見上げながら、俺はぽつりと呟く。細かい作業のみだが、集中すればそれなり以上に早く作っていけることがわかったのは大きな収穫だ。

 もちろん、俺の頑張りのみでやっていけているわけではない。


「皆も頑張ってくれたおかげで、安心して進められているよ」


 俺はみんなに感謝の気持ちを伝えた。本当にいつも助けられている。

 一人ではもっと焦っての作業になったはずで、そうなれば出来に大きく影響していたことだろう。

 この恵まれた環境に、心から感謝せずにはいられない。


「よし、それじゃあ晩飯が待ってるぞ」


 少ししんみりしつつあった気分を変えるため、俺は皆に言った。


「おう、もうすっかり腹ペコだぜ」


 サーミャが元気よく返事をし、静かな街角にうるさくならない程度に笑い声が響く。

 鍛冶の仕事は、体力勝負でもある。しっかり食べて、英気を養わねばならない。

 そうして、明日への活力を得るために、俺たちは夕食の待つ今の〝家〟へと向かった。


 帰ってきた食卓には、〝いつも〟の賑やかさにもう1つ加わっているものがあった。

 サーミャにリケ、ディアナにリディ、ヘレンとアンネ。そして、


「お、エイゾウ。今日は遅かったみたいだな」


 そう言ったのは、カミロだった。


「ちょっとチェインメイル作りに熱中しすぎたみたいでな。来てたのか」

「ああ。昨日はあれこれとあって来れなかったが、たまにはいいだろ?」

「ここの主はお前なんだし、断る理由はないだろ」

「そりゃそうなんだが、家族水入らずのところだからなあ」


 カミロはそう言って決まり悪そうに頬を掻く。


「なんだ、そんなことを気にしていたのか」


 俺は苦笑した。


「家に来た友達のところに来て憚ることなんか何もないだろ」


 そう言うと、カミロは困ったような、笑ったような顔をした。


「そういえば、どれくらい進んだんだ?」


 カミロは誤魔化すためか、俺にそう聞いた。


「6割くらいかな。明日にはなんとか形にできそうだ」

「もうそんなにか!?」


 カミロは目を丸くした。まあ、自分でもやたら早いのは自覚している。

 なので、俺は肩をすくめておいた。

 カミロは呆れかえったようだったが、すぐに腕を組んでうんうんと頷いた。


「まあ、エイゾウだしな……」


 その言葉に家族全員が同じように頷いた。お前ら……。

 いや、常識外なのはそれはそうか。俺自身だけの力でそうなっているのならいいんだが、そうでないことにはまだ慣れないな。


 ため息をつくと、皆の視線に気がついた。明日にはやってくれるのだ、という期待をこめた目。

 いかに自分の力でないとは言っても、みんなの期待に応えるためにも、良いものを作り上げなければ。


「さあ飯だ飯だ! いただきます!」


 そんな思いを胸に、俺は豪勢な食事に箸をつける。どの料理も、とても美味しい。

 カミロの店の料理人は、本当に腕が良いのだ。

 しみじみとその味わいを堪能しつつ、みんなとワイワイとその日の出来事を話しながら、俺は明日の作業に思いを馳せる。


 あと少し。あと一息で、チェインメイルが完成する。

 そのときまで、集中力を切らさずに頑張ろう。


 そう心に誓い、俺は食事を平らげた。


 

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