応接間へ
打ち合わせの後、カミロと侯爵はすぐに帰っていった。もう少しマリウスの館に滞在するのかと思ったが、2人とも明日に備えてやることがあるらしい。
カミロにも侯爵も都に自分の家があるからな。カミロのは正確には支店だし、侯爵は別邸まであるが。
ともかく、2人は「また明日」ということだ。とはいえ、アンネ以外が顔を合わせるのは諸々終わった後、下手をすると夕方以降になるかもしれない。
それまで当然あれやこれやをやるだろうからな。偉くて暇な人の話や会議は大抵長いものだし。
なので、今この屋敷にはエイムール夫妻と、我々エイゾウ一家だけが残っている。いや、ボーマンさんをはじめとするエイムール家の皆さんもいるが。
そんなわけで、カミロと侯爵が帰ってすぐくらいに、エイゾウ工房からはディアナと女性陣(つまり、俺以外の全員だ)、そして、マリウスの奥さんであるジュリーさんに、ディアナと仲が良く、今手空きになっている女性の使用人の皆さんで連れだってクルルとルーシー、ハヤテの様子を見に行くらしい。
「女三人寄れば」とは前の世界の言葉だが、それはこの世界でもあまり変わらないらしい。三人どころではないのもあるとは思うが。
ディアナ以外の面々はほとんど初対面も同然のはずだが、既に話に花を咲かせている。
俺も行こうか迷ったが、女性だけで盛り上がっているところにオジさんが挟まるのもよろしくあるまいと思って遠慮した。
なに、俺は普段から触れあっているし、明日の朝にアンネが準備を始めたら、皆そちらにかかりきりになるだろうから、その合間に様子を見に行けばいいのだ。
俺はディアナ達の背中を見送る。ワイワイとはしゃぎながら行くその姿は、なんだかそれはそれで家族のように見えた。
「お構いできませんで申し訳ございませんでした」
ボーマンさんは頭を下げつつ、開口一番そう言った。俺は慌てて手を振る。
「いえいえ、滅相も無い。突然の準備に追われていたんでしょう?」
「ええ、左様でございます」
ボーマンさんは頭を上げると、いつもの柔和な笑みを浮かべ、歩き始めた。俺はその後をゆっくりとついていく。
見たことのあるタペストリーが目に入った。この家の興りとなった戦いの場面だ。俺はそれを横目に、ボーマンさんに話しかける。
「大変ですねぇ」
「いえいえ、ぼっちゃ……主のことですから」
「なるほど、慣れっこと言うわけですね」
「さて、どうでしょう」
俺とボーマンさんは顔を見合わせて笑う。この人とはなんだか気安く話せる気がする。これも彼の人柄のなせる業だろうか。接遇を任せるにはこれほど適した人もいないだろう。
マリウスの親父さんは人を見る目に優れていたのだな。
「こちらです」
廊下を進むこと少し、ボーマンさんが扉を開けた。入るとカミロの店の商談室にあるような調度品が備わっていた。
あちらと違うのはエイムール家は質実剛健をもってよしとする家風なのか、こちらのほうがゴツい印象を受けるものが多い。
「ただいま呼んでまいりますので」
テキパキと俺の前にお茶を用意したボーマンさんは、そよ風が吹き抜けるがごとく、静かに部屋を出て行くのだった。
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