お泊まり

「また急だな」


 俺が目を丸くしたまま言うと、マリウスは小さくため息をついた。


「急いで来てもらったのは、それも理由だからね」

「じゃあ帝国の使者が来るのが早まったのか?」

「……そうだね」

「そういうときって普通はどこかに滞在したりとかするもんじゃないのか?」


 例えば2日早く着いたからって、バカ正直に2日予定を前倒しにする必要はない。

 物見遊山半分に、2日間は王国の都の様子でも調べていてもいいだろうに。おそらくは陰に陽に監視がつくことは間違いないだろうが。

 それに今回は王国側からも偉いさんが出るのだ。その人の都合もあるだろう。


「〝上の人〟の都合は大丈夫なのか?」

「まぁ、言っちゃあなんだけど、閑職だからね。だけど王族に名を連ねるお方なのは間違いないから、今回みたいな場合によくお出ましを願う」

「ふぅん」


 俺はあまり興味ないふりをした。前の世界にあったお話なんかだと、そういう閑職についている偉い人って、閑職は表向きの姿で、実は裏情報を抑えていたりしていたなぁ。

 まさか、今回がそれに該当するとも思えないが、万が一そうだった場合、ただの思いつきで余計な警戒心を抱かせたりしたくない。

 マリウスとカミロは俺の当てずっぽうがたまたまた当たっただけだろうと流してくれるかも知れないが、侯爵はなんだかんだ海千山千の御仁だし、余計なことはしないでおくに限る。


「だから、明日になったことについてお伺いをたてたけど、凄い早さで承諾の返事が来たよ」

「それはそれは……」


 俺は思わず苦笑した。偉いさんで閑職の人って結構ノリが軽かったりやたら張り切ったりするんだよな……。


「そんなわけで、会談は明日だ」

「ふむ」


 アンネだけ残して俺たちは帰るというのも良くないか。護衛としてディアナとヘレンについていてもらうのが良いかな。

 ディアナはここが実家なのだし、たまには実家でのんびりしても罰はあたらないだろう。

 マリウスの奥さんはディアナとも幼馴染みであるようだし、結婚式の時には出来なかった積もる話もありそうだ。


 俺はそう考えて、アンネとディアナとヘレンを残して帰ると言おうとしたが、それよりも早くにマリウスが言った。


「今から皆で帰るのもなんだろ? 今日は皆で泊まっていくといい」

「え? 全員か?」

「もちろん。ちゃんと部屋も準備してある。ちゃんと男女で分けて」


 俺が驚いていると、カミロと侯爵がニヤニヤしているのが見えた。悪ガキ三人衆とか言われたことがあるが、それは俺を抜いてこの3人の事じゃないのか。


 俺はリディのほうを窺った。俺の視線に気がついたリディは控えめに頷く。今日一日泊まっていくくらいなら、クルルとルーシー、そしてハヤテも魔力切れのような状態にはならなさそうだ。勿論、リディも。


 ボーマンさんを見かけないと思ってカテリナさんに聞いたが、おそらくはこの準備をしていたのだろう。サプライズではあるので、カテリナさんは明言してくれなかったのだ。


「大きく負担にならないなら、お言葉に甘えようかな」

「うん、そうしてくれ」


 マリウスは微笑んだ。俺はそれに笑顔を返して応える。

 そういえば家族全員で外泊はほとんどなかったな、今回ので多少の予行演習になるといいが。そんなことを頭の片隅で思いながら。

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